21 石ころを宝石に変えました

 ロキの話では、今現在、この国の王様は病に伏せっているそうだ。

 代わりに宰相が幅をきかせていて、無理な税の取り立てをしたり、貴族が増長したりして、国内に不満がくすぶっているらしい。

 ロキが義賊団のかしらをやっているのも、実は国内の調査や反乱防止のためだという。

 国王が頼りにならない今、クロス兄が国を征服しても、むしろ国民は大喜びかもしれない。

 目指せ世界征服、なんちゃってね。




 夕方になって、ガートルードの街並みに灯りが付き始めた。

 俺が注目していた雪飾りが紐に吊り下げられて、店と店を繋いでいる。飾りがほんのり銀色に光るさまは、とても綺麗だった。夜に光る塗料が塗られているらしい。

 どこからか、オルガンを演奏する音が聞こえる。


「お祭りか……」


 うっすら積もった雪が、まるでショートケーキのクリームのように街並みをデコレーションしている。降り続ける淡雪の下で、外套を着た人々がのんびり行き交っていた。


 俺とクロス兄は、街の中心にある大きな木の根元で休んでいた。

 木には雪飾りの付いた紐が、ぐるぐる巻き付けられている。


「フェンリルさま」


 街の人たちは箱や袋を持ってきて、うやうやしく兄たんの足元に置いていく。

 不思議に思って聞いてみると、毎年の雪祭りでは聖樹に祈りを捧げ、木陰でプレゼントを交換する風習なのだそうだ。しかし今年は聖樹の下に兄たんがいるので、ひとまずプレゼントを貢ぎ物代わりに置いているらしい。

 手を付けずにそっとしておこう。


「ティオとロキは無事に宿が取れたかな」


 あの二人は宿屋に泊まる予定だ。

 俺と兄たんは寒さなんてへっちゃらなので、屋内にこもる必要はない。フェンリルに生まれ変わってから、むしろ夜空を見ながら寝る方が普通になってしまった。

 人間の姿のまま、兄たんの毛皮の上に寝そべり、ふさふさの尻尾を布団がわりにする。

 

 空を見上げて星を数えながら、俺は兄たんに聞いた。


「ところで兄たん、これからどうするの?」

「そうだな。人間どもの王が住むみやことやらに行って、俺に国を献上するように命じる!」


 王様、びっくりしそうだな。

 

「ウォルト兄と、どちらがより広い人間の国を支配できるか、勝負しているんだ」

「なるほどー」


 なんでいきなり人間の国を征服すると言い出したか、疑問に思っていたが、いつもの兄弟喧嘩の延長みたいだ。


「あんまりたくさん人間を冷凍したり、建物を壊したり、しないであげてね」

「もちろんだ。ゼフィ、お前は人間に優しいからな」


 俺が、人間に、優しい?


「えー、兄たん違うよ。俺、人間に優しくないよ?」


 前世では戦争で人間を殺しまくったのだ。

 それに処刑されそうになった過去で、人間には懲りている。


「そうかな」


 クロス兄は含み笑いをする。

 俺は抗議のしるしに兄たんの耳を軽く引っ張った。


「あの……」


 消え入りそうな声が、俺たちのじゃれあいを中断する。

 振り返ると、ボロボロの服を着た女の子が、真っ赤な顔をして立っていた。

 

「神さま、お願いが」

 

 女の子は俺たちの前に進み出ようとして、つまづいて転んだ。

 手のひらから灰色の石がコロコロ転がって、俺の足元まで来る。拾い上げると、汚れているがうっすら透明がかった白い石だった。

 

「その宝石をあげるから、弟の風邪を治してください……」

 

 震える声で言う女の子の後ろで、太ったおっさんが咳払いした。

 

「どう見たって宝石じゃないだろうが。そんなものでフェンリルさまの加護を得られる訳がない」

 

 おっさんは後ろの部下に合図する。

 部下は宝箱チェストを持って進み出て、パカッと箱を開けた。

 金銀財宝が中に入っている。

 

「フェンリルさま、ご覧ください! こちらを差し上げますので、私どもに最大の加護を!……ガキは失せろ」

「きゃっ」

 

 おっさんは途中でぼんやりしている女の子を蹴った。

 許すまじおっさん。

 

「あんたが失せろ」

 

 俺の身体から冷気が流れ出す。

 雪を巻き上げた突風が、おっさんと部下をまとめて吹き飛ばした。

 

「ひいいいっ、なぜ?!」

「おっさん、豚に似てるね。俺たち狼だから石には興味ないんだ。むしろ肉が食べたいなあ」

 

 わざとらしく笑って見せると、おっさんは恐怖に顔をひきつらせて「食われるぅ!」と慌てて逃げていった。

 

「さて、と」

 

 女の子はまだ雪の上に座り込んでいる。

 俺は白い石を持って彼女に近付いた。

 こっそり手のひらで時の魔法を使う。

 次に手のひらを開いた時、予想通り手の中には、紫色に光る宝石があった。

 

「はい。石には興味ないから、これは君に返すよ」

「これ?!」

 

 紫水晶アメシストを渡された女の子は仰天する。

 俺は念のため解説した。

 

水晶クリスタル系の宝石はね、日の光が当たると白く変色するんだ。今、俺が魔法で変色する前に戻しただけだから、それは正真正銘、君の持ってきた石だよ」

 

 前世で英雄と呼ばれ、財宝を王から賜った時に得た豆知識だ。

 財宝の管理も大変なんだな、と面倒に思ったのを覚えている。

 

「フェンリルさまにもらったって言って、質屋さんに持っていきな。お金に変えて、薬や食べ物を買うといい」

「!」

「あったかい服も買った方がいい。体を大事にしろよ」

 

 女の子は紫水晶アメシストを握りしめて呆然としていたが、立ち上がって歩き出した。夢見心地のような足取りで数歩すすんで、途中で立ち止まる。

 

「……りがと……」

 

 声が震えていて、よく聞き取れなかった。

 女の子は来た道を帰って行く。

 

「ふう」

 

 俺は兄たんの背中に戻って、ふかふかの毛並みに寝転んだ。

 クロス兄は元の通り尻尾を布団のように乗せてくれる。

 

「やはり、俺たちのゼフィは人間に甘い」

「……そんなんじゃないってば」

 

 照れた顔を見られないように、うつ伏せになる。

 今夜はもう人助けはしないぞ!

 

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