立ちはだかる壁

陽月

立ちはだかる壁

 嘘だ……。だって、あの時は確かに……。


 密かに憧れている、女の子がいた。

 高校に入ってから、朝の駅で見かけていた。制服から、同じ高校だとは分かっていた。女子の制服のリボンが学年によって色が違うから、同じ学年だと言うことも分かっていた。

 けれど、それだけだ。同じクラスになったこともなく、彼女は部活にも入っていないようだった。ただ単に、同じ駅から通っている、それだけだ。


 同じ駅から乗っている人なんて、何人もいる。その中で、いつの間にか目で追っている人だった。

 彼女は、駅で友達と合流していた。彼女は彼女の友達と、僕は僕の友達と、同じ電車には乗っていても、向かう学校が同じでも、別々だ。

 通学中も、学校でも、話しかけることすらできないまま、彼女が僕という人物が存在しているのを、認識してくれているのかさえ分からないまま、高三の夏休みも終わった。


 周りには、彼女がいるヤツもいて、うらやましく思っていた。

 彼女に声を掛ける勇気すら無いのに、気になっている女子生徒がいると漏らしたことがある。

 あれは、言う相手を間違えたかもしれない。よく、勉強の質問にいく先生で、割りと話しやすくなっていたから、ポロっと。

「男は彼女ができると、成績が落ちるからやめておけ」

 一刀両断された。学校は一応進学校で、それもあったんだろう。


 ならばせめて、同じ大学にと、彼女の志望校を知れないものかと、苦心した。

 そして、あの模試の日、彼女が友達とどこを志望校に書いたと、話しているのを聞くことができた。

 確かに、鏡華大学きょうだいだと言っていた。

 だから、僕も鏡華大学を目指すことにした。そこを目指しておけば、志望校変更にも対応できるだろうと。


 大学生になって、たまたま会った風を装って、「同じ高校だったんだけど、知ってる?」なんて声を掛けて。

 最初なんて、知らない人ばかりなんだ。そんな時なら、見知った顔を見つけたからでいけるんじゃないだろうか。

 よし、大丈夫だ。だが、同じ大学に受からなければ始まらない。

 しっかり勉強しなければ。

 明るい大学生活のために、今は我慢だ。


 だというのに、どういうことなんだ?

 帰りの電車で見かけた彼女が、行きよりも空いている車内で勉強をしていた。それはいい。

 赤本で、過去問を見ているようだった。それもいい。

 問題は、その赤本に書かれている大学名だ。やけに、長くはないだろうか。


 たまに見えるその文字を、どうにか読むことができた。

 「鏡華工芸繊維大学」、どこだよそれ。

 嘘だ……。だって、あの時は確かに……。「きょうだい」って、そう言っていたのに。

 鏡華ナンチャラ大学は、無理矢理略せば全て「鏡大」になるとか、そういうオチなのか?


 慌ててスマホで調べる。偏差値はどのくらいなのか、どんな学部学科がある、入試科目は何が必要なのか。

 そうか、理工系の大学なのか。英語名からして、工科大学だもんな。そうなのか……。

 ああ、無理だ。僕は文系なんだ。

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