タグ職人のすばらしき仕事ぶり

ちびまるフォイ

親方は心にひびくタグを作る

「親方~~! 親方~~!!」


「なんでぃ、弟子。そんな大きな声を出しやがって。

 オメェそれより今日のタグ整理の仕事はどうしたんでぃ」


「親方、そんなことよりも大事な事があるんですよ!

 実はあの大企業の社長がすぐそこに……!」


「ああん?」


ドアの前には高そうなスーツを着た男が立っていた。


「はじめまして、私は大企業バイカコーポレーションの社長です。

 あなたがタグ職人だと聞いて、はるばるここまでやってきました」


「ここ1年にバス1本しか走ってないですからね」

「んで、用ってのはなんなんでぃ」


「実は弊社ではこれから小説サイトで小説を投稿しようと思いまして。

 そのタグをあなたに考えてほしいのですよ」


「……」


「聞けば、あなたがつけたタグならアクセス数はうなぎのぼり。

 まさに神タグ職人とのことで、ぜひにと思いまして。

 あぁ、もちろん謝礼は望むだけ差し上げる用意がありますよ」


「帰ってくれ」


「このとおりです! なんとかお願いします!」


「帰れ! わしは金でなんでもできると思っているやつと

 トイレで手を洗わないで出てくるやつとは契約しねぇんだ!」


「秋田県のポスターもありますよ!」

「え……!? いや帰れ!!」


「親方、なんで今ちょっと揺らいだんですか」


親方は「帰れ」タグをぶつけまくって男を追い払ってしまった。


「親方、いいんですか? 親方は知らないかもしれませんけど有名人ですよ。

 あの人の仕事を請け負えば、ここだって大繁盛するのに」


「わしは金のためにやってるんじゃねぇ。

 キャバクラのちーちゃんのためにやってるんでぃ」


「金じゃねぇか」

「愛でぃ」


弟子は親方がスマホで10連ガチャをし始めたのを確認してから、

トボトボと帰っていくスーツの男を引き止めた。


翌日、親方は思い切り叱りつけた。


「バカ野郎!! ワシに黙って仕事を受注しただと!?

 なに勝手なことやってるんでぃ!!」


「タグ職人を続けていくのはお金が必要でしょう!

 弟子を取らないのもお金がないからでしょ!?

 だったら、こんな大口契約はもったいないですよ」


「おめぇはなにか勘違いしている。金がねぇから弟子をとらねぇんでねぇ」


「まさか俺の才能を見込んで……!?」


「わしが人見知りなだけだ」


親方は鉄を溶かし始めると、タグづくりをし始めた。


「お、親方? なにを?」


「見てわかるんだろぃ。これからタグを作るんだよ」


「でもあんなに反対してたじゃないですか」


「バカかおめぇ。いいか、タグ職人は半端な仕事はしねぇ。

 受けた仕事はたとえどんな仕事でも最後までやり通すのが流儀よぉ」


「親方……!!」


「おめぇも見てねぇで手伝え。協力プレイじゃないと

 ここの二つ名モンスターは狩れねぇんでぃ」


「親方、ゲームじゃなくて仕事してください」


それから親方と弟子は工房にこもってはタグを作り続けた。

できるだけ独創的で、見た人が思わず手にとってしまうようなタグ。


けれど、そんな訴求力の高いタグがそうそう生まれるはずもなく

工房の空気はどんどん悪くなり、風の谷のナウシカも入り口で踏みとどまるほど淀んでいた。


「親方……もう諦めましょうよ」


「なにいってんでぃ。わしの辞書に辞書って文字はねぇんだよ」


「いくつか候補は作ったじゃないですか。あれから絞りましょう。

 それならそこそこのものができるはずでしょう」


「この……大バカ野郎!!」


親方のビンタで弟子は目を覚ました。


「いいか、わしらのタグで作品の善し悪しだけじゃない

 読んでくれる人が来るか来ないかの作品の命を預けられているんだ!

 評価されない名作なんていくらでもある。

 その扉をあけるのがわしら空き巣じゃねぇか!!」


「親方、副業バラさないでください」


「とにかく、最後まで諦めることは許さねぇ。

 いつも良いものは追い込まれたときにこそ得るもんでぃ」


それからもタグづくりは大いに難航した。


見かねた社長も大量のビッグデータと市場マーケティングデータから

どういったタグが一番読まれやすいかの資料を提出したりもしていた。


それでもタグ職人は工房にこもって作業を続けていた。


「親方! どうして、この情報を使わないんですか!?」


「良いかよく聞け。どんなに情報やデータを頼ったところで

 そこから生み出されるのは過去のものでしかねぇ」


「親方……!」


「本当に心を動かすタグってのは過去からじゃねぇ。

 いつも未来を見ている人間から生み出されるんでぃ!!」


「親方ーー!!」


こんな状況に追い込まれてもなお、けして諦めない親方の心意気と

最後まで折れないプロ意識に弟子はどんどん感化されていった。


そして、ついに満足のいくタグを納品した。


「親方! ついにタグを納品できたんですね!」


「どんな状況でも締切を守るのも一級のタグ職人ってわけよぉ」


タグを掲載するなり、大企業からは感謝の連絡が絶えなかった。


「あなたのタグのおかげでアクセス数が増えました!」

「やはりあなたに頼んで本当に良かった!!」

「タグを付けたとたんにモテました!」


これを聞いた弟子はますます親方に心酔。


「親方……! あれだけ追い込まれても、ここまでの品質を……!

 やっぱり親方は本当にすごいです!!」


「よせやぃ。わしはただやるべき仕事をしただけでぃ」


「これからもご指導よろしくおねがいします!!」


「おう。おめぇもけして忘れるんじゃねぇぞ。

 タグってのは心なんでぃ。人の心にそっとよりそい

 "読みたい"という気持ちを優しく揺り起こすのが大事なんだ」


「親方……!!!」


親方は自分の胸をどんと拳で叩いた。


「大切なのはココだ。心で書いたタグだけが、相手の心に響くんでぃ」


「はい!! 親方!!」





「親方。そういえば、どんなタグを納品したんですか?」


「"読むとプレゼントがもらえる"と書けば一発よぉ」



親方の辞書に真心という2文字もないことが後日判明。

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