第19話 俺は幼女に××管理してもらいたい!

「タイヘー……タイヘー!」


セシルがいなくなった誰かを探すように叫び続けた。


「セシル……もう、タイヘーは――」


アリシアが肩にそっと手を置いて、声をかける。しかしそんな気づかいの声と腕を振り払うようにセシルは訴える。


「いいえ、います! あのタイヘーがどっかに行っちゃうなんてありえません! 絶対絶対、ないんですっ!」

「…………」

「タイヘー……タイヘー、どこですかー!?」


魔王城、玉座の間。いまやその城の主である魔王の手によって、瓦礫の山と化した広大な部屋で幼い神官は張り裂けそうな声を出し続け、探した。


「くはは、我の最大出力の魔光の前に二本足で立ってられる生物なぞ、おらんわ! ふーっはっはっは!」

「タイヘー、どこ……?」

「ここー」

「「は?」」


俺はひょっこり瓦礫から顔を出す。

アリシアと魔王が豆鉄砲食らった声を出す。


「タイヘー!!!」

「お、ちょっと待て!」


勢いよく駆け込んで来ようとするセシルを制止する。


「タイヘー……どうしたんですか?」

「……っ! ……っっ!」


俺は小声で、どうにか唇の動きだけで伝えられないかと思って精一杯口を動かす。


「え、なんて……聞こえないです、タイヘー?」

「だか……っ、……なのっ……くっ、ふ……ちょう……いっ!」

「え、なんて……」


やばい。セシルがこちらに近づいてくる。


「タイヘー? 本当に……? あんたよく生きてたわね」

「どわっちょ!」


アリシアまで近づいてくるんじゃねえ。


「だから、……なのっ……こっち来んな!」

「はあ?」


アリシアがむかついたような声を出してずんずん近づいてくる。


「わあ、馬鹿馬鹿! いま俺――裸なんだよー!」

「……は?」


瓦礫の裏までやってきて生まれたまんまの姿の俺を直視した、アリシア。


「あ……あ……ああっ……!」

「あはは……」

「あんたはヘンタイかああああああ!?」


――キィーン!


「ぐほぅっ!!?!!???」


アリシアはなんの躊躇もなく俺の股間を蹴り上げてきやがった。


「ぐおおお、痛い! ……痛い? ――痛み!? マジか、セシル!」

「はい!」


痛みを訴える俺にセシルは慌てて近寄ってくる。


「早くヒール! 痛みがひかないうちに、さあ早く!」

「どこですか、タイヘー!?」

「ここだ、ここ……この股間の――」

「ヘンタイッ!!!」

「あがあぁぁぁっ!!?」


俺はもう一度アリシアに股間を蹴り上げられた。これやられたら死んでしまうかもしれん。死んだら駄目だ、セシルのヒールが受けられん。


「あー、そろそろ話してもいいか?」

「ああん?」


魔王がおっかなびっくり話しかけてくる。


「なんでお前さん生きとるの……? 魔光食らったよね、我の最大出力の……?」

「だから服が消し飛んだんだよ! 弁償しやがれ!」

「はあ……」

「もしくはもう一度やってみるか、その魔光とやら?」


俺は一糸まとわぬ姿で魔王に言ってやった。

なお、魔王から見て俺の股間はセシルの頭部でうまく隠れていたようだ。


「いいぜ、いや、むしろおしかったかもしれん。服は剥げたんだ……次は擦り傷くらいにはなるかもしれんぞ? くくくっ……」

「そのセリフ、あんたのほうが魔王くさい」


アリシアがなんか言ってくる。

魔王は両手を前に突き出して慌てだす。


「待て待て待て! 無理だ!」

「なんでだよ?」

「いまの最大出力だって聞いとらんかったんか! あんだけ魔力ためるのに半年はかかるわ!」

「するってーとなにか、お前はもうあれ以上の技は持ってないってことか?」

「当り前だろう! お、おま……いま周りがどうなっているのか見えとらんのか?」

「……周り? そういや最初に入ってきたときに比べてずいぶんと殺風景になったな」

「それだけか、本気か! マジか、お前さん!?」

「うーん……あと、埃っぽいとか」

「…………」

「そりゃ、魔王も絶句するでしょうよ」

「アリシアさん、なんでですか?」

「……ああ、駄目だ。この子も所詮『あっち側』か」

「……?」


セシルが首をかしげる。俺も首をかしげる。


「うーん、うーん」

「なにを悩んでいるんですか、タイヘー?」

「いや、いま俺のこの灰色の脳細胞をフル回転させて考えてるんだが……あの魔王はすでに俺にダメージを負わせるMPは残ってないってことか?」

「MPがなにかは知らないけど、考えるまでもなく……そうよ」


これで合点がいった。


「おいおい、なんだ……なんでお前さんこっちに近づいてくる……おい、やめろ! それ以上近づいてくるんじゃない!」

「うるせー、俺はな……」


俺は魔王の漆黒の鎧の腹部分をつかんで、中空に持ち上げる。


「あちょ、やめ……ちょ、マジで、やめやめ……ああっ!?」


宙吊りになった魔王があたふたと暴れる。


「俺はな……してもらいたいんだよ」

「は? なんだって?」


俺は左手で魔王を鎧ごとかかげ、右手を後ろにやって力をこめた。


「耳の穴かっぽじって、よーく聞けよ!」

「お、おう……ごくりっ」



「俺は――幼女セシルにHP管理してもらいたいだけなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


俺は右ストレートを魔王の鎧の胴部分、鳩尾みぞおちに叩き込んだ。


「ぐおおおおおおおおおおっっっっっ……!!?」


魔王は星になった。俺が星にした。

あとには瓦礫の山と残骸になった玉座の間だけが残った。


「はあ、ほんと無茶苦茶……ノリと勢いで魔王倒しちゃうなんて」

「ノリと勢いじゃない。俺の実力だ」

「レベルでしょ?」

「…………」


アリシアの言葉に俺は反論を考えていると。


「タイヘー!」

「お、おお……?」


幼女セシルに抱きつかれてしまったぞ。


「よかった、タイヘーが無事で」

「おお、そうかそうか……よしよし!」


――さっ。

セシルが俺の腕からすっと逃げるように、後ろに下がった。


「なんでだよ?」

「いえ、もういいです。タイヘーが無事ならそれで!」

「ん、んん……寝過ぎた……」

「お、BB起きたのか。おはよう」

「おはよ、タイ……っ!?」


BBが起きたようなので、近寄る。

するとBBはびっくりしたような表情で固まった。

正確に言うと、近寄ってきた俺の股間を見てびっくりしたような表情で固まった。

そして――。


「いやああああああああああああああああああああ!!?」

「へぐほっっっ!!!!!」


きれいな右ストレートが俺の股間右玉をえぐった。

俺は死んだ。


「こ、こんな馬鹿なエンディングがあってたまるか……せ、せめてヒールを……」

「もうあんたはそのまま死んどけ」

「はぁはぁ! ひぃ、ソーセージが! ソーセージが!」

「BBさん、ソーセージがどうしたんです!? お肉あるんですか!? タイヘー、焼肉パーティー開催ですよ!?」

「焼肉でもステーキでもなんでもいいから、ひ、ヒール……」


こうして俺たちの魔王討伐の旅は終わった。

帰ったらセシルに約束した通り焼肉パーティしないとな。


「それはともかく、誰か……服くれ……」


            『俺は幼女にHP管理してもらいたい!』

                               完

                                


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俺は幼女にHP管理してもらいたい! 犬狂い @inugurui

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