モンスターへ乾杯!

以星 大悟(旧・咖喱家)

モンスターへ乾杯!

「すいません、予約を入れているハロウィンに関係の無い定番モンスター集いのドラキュラ伯爵なんですが」

「はい、ええと…20時にプラチナ飲み放題プランで予約を入れられているハロウィンに関係の無い定番モンスター集いのドラキュラ伯爵様ですね、ご準備は出来ています、お部屋にご案内します」


 もうすぐハロウィンだから、店員はそう思い気の早い人達がコスプレをして飲み会をする程度にしか思っていないが目の前のドラキュラ伯爵を名乗る男はまさにその通りの容貌だった。


 背の高い痩せた鷲を思わせる精悍な顔立ちに口髭を生やし髪はオールバック、目は燃えるように赤く肌の色と不釣り合いな赤い唇とそこから見える鋭い犬歯、これをコスプレで流してしまうには如何にも過ぎるが普通に生きていてドラキュラ伯爵の細かい容姿を知る機会など無いのだから、この対応も普通ではある。


「こちらの漣の間です、お時間になりましたらお料理をお運びします」

「ああ頼む、他の者達も後から来るのでよしなに頼む」

 

 店員は部屋を出る時に奇妙な視線を感じる。

 何か首筋、うなじを見られている様なそんな気がするも気の所為だと思いそのまま部屋を出て行く、一人残されたドラキュラ伯爵は大きく溜息をついてから呟く。


「実に吾輩好みのうなじだが…あの娘から血液がドロドロな者の匂いがした、間違いなく食生活に気を遣わずジャンクフードばかり食べている匂いだ、ああいう血は胸焼けを起こしてしまう…実に残念だ」


 そうこのコスプレ男は本物のドラキュラ伯爵その人だった。

 あれ?じゃあ何で生きてんの?というツッコミは無しの方向で。


♦♦♦♦


「それでは諸君、グラスは行き渡ったな?」

「「うぃー!」」

「ではゆくぞ!モンスターへ!」

「「かんぱーい!!」」


 ドラキュラ伯爵の音頭と共にモンスター達の飲み会は始まった。

 有名なモンスター達が一堂に集うのはまさに圧巻…ここのお店の人達は典型的な日本人と言うべきかそれとも危機感が無さ過ぎると言うべきか、触らぬ神に祟りなしの精神で怪しいと思っていても「もうすぐハロウィンだから…」の言葉で受け流す。

 ハロウィンだから吸血鬼もフランケンシュタインの怪物も狼男もそれで受け流されてしまう。

 本来は全く無関係なのだが。


「いやぁ、それにしても良い時代になりましたなぁあ」

「本当ですよ、こうやって堂々と日本観光が出来るんだから…少し前はハロウィンでも問答無用で不審者として捕まりましたから」


 ドラキュラ伯爵とミイラ男はそう言いながら麒麟の絵が描かれた生ビールをゴクゴクと飲みながら、大皿に盛られた枝豆をプチプチとさやから出して食べて進める。


「毎年これが食べたくて日本に来るんすよ、エジプトだと食べられないですから」

「あっちないの?豆とかよく食べるってイメージだけど」

「豆の種類が違うんすよ…かあぁあ!やっぱりビールと枝豆は最高だ!」


 ミイラ男はボタンを押して店員を呼び「生一つ追加!」と言う、なんとまあ元気なミイラ男である。

 そしてそんなミイラ男と一緒に枝豆をプチプチとさやから出して食べる吸血鬼ドラキュラ、とてもシュールな光景だった。

 他にも骸骨と狼男が一発芸をしたりフランケンシュタインの怪物とゾンビが最近の二次創作における自分達の扱いに関して討論したりと思い思いに楽しんでいる。

 

 で、そもそもこれって何の集まりよ?というツッコミがそろそろ来ると思われる。

 だがドラキュラ伯爵が最初に丁寧に語ってくれている。

 そうこれは「ハロウィンに関係のない定番モンスター達の集い」なのだ。

 

 ハロウィンとはそもそも仮装大会ではないし子供がお菓子を貰う日でもない。

 ケルト人が行っていた年末行事である。

 詳細はウィ〇ペディアを参照してくれ、で吸血鬼と言えばルーマニア、狼男は東ヨーロッパ、ゾンビはアフリカのブードゥー、フランケンシュタインの怪物とスケルトンは近代の創作だ。

 つまり古代ケルトに由来を持つハロウィンとは無関係なのだ。

 しかし彼等はハロウィンの常連にして定番、仮装するなら間違いなく彼等のどれかが必ず選ばれる。

 あと実はミイラ男はエジプト生まれのアメリカ育ち、現在はエジプト在住だったりする。


「そう言えば伯爵、魔女とジャック・オー・ランタンが僕がこの会に参加してるなら自分達も参加して良いだろって言ってましたけど」

「またか…そもそも二人揃ってハロウィンに関係ありありだろうに…それに主役、吾輩達みたいに脇役じゃないんだから」


 単品で主役を張れるハロウィンの超有名人、魔女とジャック・オー・ランタン。

 ハロウィン以外なら主役を張れる面々だが、ハロウィンに限りるとこの二人が主役、なのでこの二人の参加は常に断っている。

 まあ、普通に考えれば引っ張りだこで来る余裕は無い筈だが何故かこの集いに来たがる、集いの幹事を務めるドラキュラ伯爵の悩みの種である。


「これは、思ったより早く二次会の会場に行く必要があるかもしれないな」

「そうっすね、来そうっすねあの二人……」

「お局の老婆と自己中カボチャ男、自分達だけでやってほしいものだ」


 前回の集いでは突如として押しかけて来た二人に無茶苦茶にされた苦い思い出のある二人は深く溜息を吐いてしまう。

 

「まあ取り合えず飲みましょうよ伯爵」

「そうだなミイラ男、今日は飲んで飲んで英気を養って10月31日を盛大に盛り上げよう!」


 そうこの集いは決起集会でもあった。

 これからハロウィンまで彼等は大忙しである。

 その為に定期的に集まっている、色々と面倒な主役がいるから……。


「それじゃあもう一度!」

「モンスターへ!」

「「かんぱー!」」


 


 

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