オマケシモ(5)
☆ † ♪ ∞
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横組にして積み上げられた丸太。屋根は焼板。
隙間には粘土/木灰/苔を混ぜたものが詰められ、釘なども全て木製。鉄は一切使われていない本物の木造建築。
古風な丸太小屋――それが猟師の家でした。
「……ただいま」
今日は人里で畑の作物を食い荒らす
それまで猟師は一人暮らしでしたが、今は――
「あ……おかえりなさい。猟師さん」
妹オオカミが、優しく微笑みながら出迎えました。
ちょうど夕飯を作っているのか、エプロン姿です。
今日の夕飯はクリームシチュー。肉よりも比較的野菜の量を増やした、やさしい味わいでありながら栄養価も高い妹オオカミの得意料理で、週に一度作っています。
……野生のオオカミのはずなのに、なぜ料理が上手なのかは猟師はツッコみません。
妹オオカミのおかげで猟師のQOLは大幅に向上していました。
「もうすこしでご用意できますから……」
「うん。ありがとう」
鍋の様子を見ている妹オオカミの背を、穏やかな目で見つめる猟師。
妹オオカミはびっくりするくらい良い子でした。
「――たっでーまー! お姉ちゃんが今帰ったぞーい!」
――この姉オオカミがもれなくついてくることを除けば。
猟師は露骨に嫌そうな顔をしました。
「おやっ、今日はシチューの日?」
「うん……今できあがるから、手を洗って待ってて」
「やったぜ! お姉ちゃんユアナのシチューだいすき!」
腹を空かせていたところに今日の夕飯が好物だと知って、上機嫌で肉球を洗う姉オオカミ。
というか、姉オオカミは妹オオカミの手料理はほぼ全て好物でした。好き嫌いしない健康優良オオカミです。
「あっ、猟師さんお疲れッス。肩お揉みしましょうかゲヒヒ」
「あからさまにへつらうなゴリラ」
「えぇ……お姉ちゃんオオカミなんですけど……」
ゲス顔で揉み手する姉オオカミを冷徹に突っぱねる猟師。なんでかゴリラ呼ばわりされたので姉オオカミはしょんぼりしました。
「妹は解る。ウチの家政婦として雇ったから。でもお前まで置くつもりはない」
「そ、そこをなんとか! あっしは
「上手いこと言ったつもりか。なんか腹立つな。お前は赤ずきんの所に行けばいいだろ」
ぺこぺこしながらもネタを挟んでくる姉オオカミに、猟師はちょっとイラッとしました。
「あー……まぁ、それも悪くないんだけどね。赤ずきんちゃん、こっちがちゃんと仕事してれば優しいし。でも……」
そこで、ちらりと妹オオカミを見る姉オオカミ。
「……ユアナとはなればなれになりたくないぃぃぃ……!」
ガチ泣きでした。
そして、未だに妹離れができてませんでした。
「……別に今生の別れでもないだろ」
姉としての威厳がカケラもない姉オオカミに呆れかえる猟師。
「…………」
そこで、妹オオカミがシチューの鍋を持ってきました。
鍋を静かにテーブルに置くと――
――ぎゅむ、と、無言で姉オオカミに抱きつきました。
「わたしもおねぇちゃんといっしょがいい」――言葉はなくとも、そのつぶらな眼差しが猟師に哀願していました。
なんだかんだ、妹オオカミも姉離れができていませんでした。
「あー……」
猟師は頭を抱えました。
姉どころか妹もこれでは、二匹の仲を引き離すのはなんとも後味が悪くなります。
この姉妹はそれだけ仲が良く、妹オオカミが優しく笑っていられるのも姉オオカミの存在が大きいのかもしれない――猟師はそんなことを思いました。
大きなため息をつきながら、猟師は食器を用意しました。
自分の分と、妹オオカミの分と――姉オオカミの分です。
「……お前、ちゃんと生活費入れろよ」
「え、ぁ………………は、はいっ!」
二匹とも猟師の言葉の、その真意を察したのか姉オオカミと妹オオカミは互いに顔を見合わせて、笑顔になりました。
――その後、猟師は姉オオカミを煙たがってはいましたが無理に追い出すようなことはせず。
妹オオカミもふくめ、一人と二匹でほどほどにしあわせに暮らしましたとさ。
[オマケシモ(5):めでたしめでたし]
ガルテシモ! そーや @sososoya
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