モンスターへ乾杯!

大福がちゃ丸。

ほら吹きトニオ爺さん

 ぼくの住む町は、海の近くの漁師町。


 学校が終わって、ぼくは真っ直ぐトニオ爺さんの家に向かう。


 トニオ爺さんは昔は腕の良い漁師で、遠くの海まで魚を捕りに行ったりしていたそうだ。

 今は引退して、町はずれの小さい家に住んでいる。

 町の人たちはトニオ爺さんの事を、”ほら吹きトニオ爺さん”何て呼んでいる。


 ぼくの聞いた話でも。

 人魚の群れを見たことがあるとか。

 船の下に、山のようにデカい魚を見たとか。

 何もないはずの大海原で、突然大きな島が現れたとか。

 そんな話をしてくれる。


 ぼくは、そんな話が好きで、毎日のようにトニオ爺さんの家に聞きに行く。


 トニオ爺さんの家に付くと、爺さんは庭で椅子に座り、今日もラム酒を片手に、ぼくが来るのを待っていてくれた。


「よぅ、坊主、今日も来たのかい? 物好きだなぁ、お前さん」

 赤ら顔のしわくちゃな顔で、笑いながらそう言ってくる。

「こんにちは、トニオ爺さん、今日も話聞かせてよ」

 ぼくも、にっこり笑いながら挨拶をする。


「ふむ、こんな年寄りを相手にしてくれてうれしかったが、そろそろ話を終わりにしようと思っておるんだ」

 トニオ爺さんは、寂しいそうにそう言って、ぼくが話す事を手を上げて止めて話を続ける。

「ワシは余計なことを喋りすぎたのかもしれんのだ」




「ワシは思うんだ、この世は世界は生き物なんじゃないかと」

 少し怖い顔になって、トニオ爺さんがそんなことを言ってきた。

「地球が一つの生命体? ってこと? そんな話聞いたことあるよ」

 ガイア……なんとかってやつだっけ?


「そうじゃないそうじゃない、どこかで何かに見つめられた事は無いかい? 

 どこかで何かの吐息を感じた事は無いかい? 

 それは一つ一つ別の事だと思っていたんだ、そう思い込んでいた、だが、それが一つのモノから生まれていたとしたら? 

 すべての不可思議な事は、その一つがそう仕向けていたとしたら?」

 話しているうちに、トニオ爺さんの赤くなった顔から血の気が引いて来ていた。


「それは、神様とかなの?」


「神か、神かもしれん、悪魔なのかもしれん、人なんぞには想像もつかないモノなのは確かだろう」

 そう言った、トニオ爺さんは血の気の引いてきた顔を歪ませて笑っていた。

 その目は僕の方を向いてはいるが、目線はぼくの後ろはるか上に向けられている。


 ぼくの後ろに何かあるのだろうか?

 誰かに見られている、何か暗く重い刺すような視線を背中に感じ、じっとりと汗が噴き出してきた。


 トニオ爺さんは何を見ているんだ?


 トニオ爺さんは「乾杯!」と言い、ソレに向ってラム酒の瓶を持ち上げた。


 ぼくは、我慢できなくなり後ろを振り返るが、そこには何も居ない、刺すような視線も消え去ってしまった。


『グビリ』


 何かを飲み干すような、喉を鳴らしたような音が後ろでした。

 驚いてトニオ爺さんの方を振り返って見る。


 だけど、だけど、そこには横になったラム酒の瓶が転がっているだけだった。


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モンスターへ乾杯! 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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