偽史調査員

wataru

第1話


「偽史調査員?」


 帰り支度をしているところに同僚が話を持ちかけてきた。


「うん。なんでもタイムマシンが実用化したらしくて」


 そう言いながら同僚は募集用紙を渡してきた。

 僕は手を動かすのを止めて募集用紙を読んでみた。


 ・偽史調査員募集! 過去に戻って現代に伝

  わる歴史と照らし合わせるお仕事です!

 ・時代:近代〜江戸時代初期まで

 ・期間:三日間

 ・注意事項:歴史への干渉は禁止されています


 読み終えると目を輝かせた同僚が顔を覗き込ませてきた。


「やってみよう。お前明治初期が専門だろ?」


「過去に戻るのは怖いし、暴かれたくない歴史もあると思うんだよなあ」


 同僚は少し残念そうだったが断る旨を伝えて帰路についた。

 同僚は結局一人で応募して彼の専門である江戸時代へ偽史調査へ行くこととなった。

 同僚のいない三日間は少し寂しかったが、土産話をたっぷり聞かせてもらおうと彼の帰りを楽しみにしていた。


 しかし同僚は帰ってこなかった。現地で行方不明になったことと、もう二度と現代へは戻ってこられないことを聞いた。

 同僚のいない職場に慣れた頃、江戸時代の文献から当時まだ確認されていない書体と言葉使いが発見されたとのことで僕は文献調査に呼ばれた。

 その文献は字がかすれてほとんど読めなくなっていたが、何かの記録らしいことと、言葉使いが現代と酷似していることが分かった。

 一番最後に読み取れる字でこう書いてあった。


「ここが気に入ったから残ることにするよ。この記録もできるだけ後世に残るようにする。土産話聞かせてやれなくてごめんな」


 僕はハッとして書いた者の名前を見た――

 そこには同僚の名前が書かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偽史調査員 wataru @tpwata8991

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ