笑う七福神
ある山に、人から恐れられている大きな熊が住んでいた。熊は、一度も人を襲ったことはなく、町に現れて人に迷惑をかけたこともなかった。ただ、山で偶然熊と出会った人が、その大きな体に驚いたことで噂となっていたのである。
熊にとって、この山は身を隠し食料を得るのに十分ではなくなっていた。そこで、少し離れた大きな山に移住することにした。しかし、大きな山へ移動するためには、山のふもとにある村を通らねばならなかった。
そこで、熊は人に会わないように、夜更けに村を通ることにした。
ある日の夜更け、熊は大きな山へと歩き出した。
しかし、村を通るときに夜明けを迎えてしまった。熊は、やさしい心の持ち主だったので、人に恐れられるのが一番嫌だった。とにかく人と会わないように、早く村を通過しようと急いだ。
しかし、村を通り抜けるまであと少しの所で、一人の老人と出会ってしまった。老人は手に持っていた風呂敷包みを熊に向かって放り投げ、叫び声をあげて腰を抜かした。
熊は一目散に走った。人に恐れられてとても悲しかった。
『怖がらすつもりなんてないのに……怖がらすつもりなんて、ないのに……』
やがて熊は大きな山に着き、一息ついた。すると「ドサッ」と音がして熊の背中から何かが落ちた。それは風呂敷包みだった。
腰を抜かした老人の投げた風呂敷包みが、熊の背中に乗っていたのだ。長い距離を走ったのに、その間不思議と熊の背中から落ちなかった。
中を覗くと、七体の木彫りの人形(七福神)が入っていた。
熊が物珍しそうに見ていると、一体の七福神が笑いながらこう言った。
「オーフォッフォッフォッフォッ おまえの大きな体が役に立つぞー」
そして、又別の一体が笑いながらこう言った。
「ファーフアッフアッフアッフアッフア おまえはこれから食べ物には困らない
ぞー」
それから七福神全員が声を揃えて笑った。
「オーフォッフォッフォッフォッ」
「ファーファッファッファッファッファー」
「フォーッホッホッホッホッホー」
「アーッハッハッハッハッハッハー」
「フェーフェッフェッフェッフェッー」
「カーカッカッカッカッカッカッカッカー」
「キャーキャッキャッキャッキャッキャー」
熊は、ただただ驚いた。
この山には、山道を通る人を襲っては物を奪い取る山賊が住んでいた。村人は何人も犠牲になっていた。
人々は山道を通るときに、山賊に会わないように日夜祈りをささげていた。この山道は、村人が別の町へ行くために、なくてはならない道であり、この道を通って物を売りに行かなければ、人々の生活は成り立たなかった。
そんなことはまったく知らない大きな熊は、自分が身を隠せるこの山に満足していた。熊は二度と人に恐れられることがないように、山道に近づかないようにしていた。
ある日のこと、七福神の一体が見当たらなかった。熊は探しに出掛けた。すると山道に転がっているではないか。熊は仕方なく七福神を取りに山道へ下りた。
その時、大勢の山賊が大きな刃物を振りかざして、熊に切りかかってきた。熊はびっくりして立ち上がった。すると、山賊達は熊のあまりの大きさにおののき、逃げていった。
熊は七福神を口にくわえて急いでもどろうとした。すると、後ろに五人の村人が、腰を抜かして座り込んでいた。
熊は『人に恐れられてしまった』と思って悲しかった。しかし、実は山賊が山道を通る村人を襲うところだったのだ。熊は偶然に、山賊と村人との間に下りてきたのであった。結果的に熊は村人を山賊から助けたのであった。
翌日、又七福神の一体がなくなっていた。やはり山道に転がっていた。そして熊が山道へ下りると、山賊が村人を襲うまさにそのときであった。
それから度々七福神は山道に転がっていた。そして熊は、その度に山賊を追い返すことになった。
ある日、又七福神が山道に転がっていたので、熊は再び山道に下りた。その日、山賊には会わなかった。しかし大勢の村人が山道を通るところに出くわしてしまった。
熊が急いでもどろうとすると、人々は熊に話しかけた。
「大きな熊様、お待ちください」
熊は驚いて振り返った。
人々は言った。
「熊様、あなたが山賊から私たちを助けてくださったことで、沢山の人たちの生活が守られました。あなたのおかげで山賊もこの山からいなくなりました。そして私たちの仕事も順調に進むようになり、村の人々の生活は、安全で豊かになりました。お礼に毎日食べ物をあなたのところに運びますので、どうぞお食べください」
村の人々は深々と頭を下げた。
村人の中に、熊に七福神の入った風呂敷包みを放り投げた老人がいた。老人は熊が口にくわえている七福神を見て言った。
「あれは、わしが村の仕事がうまくいくように、祈りをささげて山に置いてこようと思った七福神じゃ」
熊は七体の七福神を老人に返した。
老人は熊が山賊から村人を守った場所に七福神を置いた。
老人が置いたその時、七福神は笑った。
「オーフォッフォッフォッフォッ」
「ファーファッファッファッファッファー」
「フォーッホッホッホッホッホー」
「アーッハッハッハッハッハッハー」
「フェーフェッフェッフェッフェッー」
「カーカッカッカッカッカッカッカッカー」
「キャーキャッキャッキャッキャッキャー」
それ以来、山道を通るたびに村人は七福神を拝んだ。
もう誰も熊を恐れる人はいなくなった。そして毎日、村人は熊のために食物を運んだ。
七福神が言った通り、熊の大きな体は役に立った。そして食べ物にも困らなくなった。
村人の生活は安定し、熊も山で幸せに過ごしている。
七福神は……
今も時々笑っているそうだ。
童話 @yomekawarimono
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