異 世 界 建 国 記 ~「エジャノ」〜

狐狸夢中

第1話「無秩序の種族:アンデッド」

この世界には秩序がない。

皆が皆、やりたいことをやりたいようにやっている。それが楽しくもあるが、それにより困る者も現れるのも事実だ。我らアンデッドは変わってゆかねばならぬかもしれない。


♢


「王子!本日はいかがしたのでしょう!」


世話役の爺がすぐさまやってくる。スケルトン故、走ってくる時に骨と骨がぶつかり合ってちとうるさいが、それが可笑しくもある。


「爺、余は何者じゃ。」

「は……?」

「余は何者じゃと聞いておる。」

「王子は、この近い将来、エジャノの国を統べる御方!他王子の誰よりも強く、優しく、まさしく王の器をもっておられます!」

「そうか。余が未来の王と申すか。だが聞いてるのは余の名前じゃ。」

「は、我ら多種多様なアンデッドたちを統べる高貴なる種族、不死王。そのご子息であらせられるトゥアンクア王子こそ未来の王であります!」

「そこじゃ。」

「そこというのは。」

「トゥアンクアという名は長いのであまり好かん。アンクでよい。」

「は、しかし。」

「余がアンクと呼べと言ったら呼ぶのだ。」

「かしこまりました。アンク様。して、今日の用事はいかほどに。アンクへと名を変えることを伝えるためだけではありませぬでしょう。」

「うむ。余は気づいたのだ。この国は滅びるとな。」

「な、何をおっしゃいますかアンク様。縁起でもない。」

「爺、この国にどれほどのアンデッドたちがいるか申してみよ。」

「は、まず王族である不死王様の家系。平民たちにはゾンビ、リッチ、グール、マミー、ウィスプ、リッチ、デュラハン、ファントム、それに」

「もうよいもうよい。多すぎる。」

「多すぎると言われましても、皆エジャノの国の民ですので。」

「我らエジャノの国は恐らくこの世界で最初に国というものを作った。他国には、ナイトのポリネアやドラゴンの国もあるが我らの方が歴史も数も勝る。」

「そうです。貴方の御父上でたる不死王様の御先祖様が建国されました。アンデッドの王、すなわち不死王様は我らアンデッドたちを一つにまとめ国というものを作り上げる英雄でございます。」

「そこだ。」

「どこでございましょう。」

「アンデッドたちを一つにまとめる?は、まとめることが出来ておるのか?確かにここピラミッド周辺は比較的高貴なる民が住んでるためまともに見えるが、郊外に出るとそこは無法地帯だ。」

「それはそうでございますが。」

「食料問題も、最初こそ国民皆に食料となるものを調達出来ていたが、近頃グールやゾンビ共が隣国であるナイトのポリネアやエルフの森に住まう者達を殺し、食っている馬鹿者がいることを知っているか。」

「は……。」

「そう、我ら王族はそれを見て見ぬ振りをしておる。」

「しかし、それもアンデッドたちが生きるため……。」

「愚か者め。今こそその数の多さで他種族には負けやしないがナイトたちが力を付けて来たら我らに勝ち目がない。これは避けられぬ事実。だからこそ穏便に、争い事もなく付き合ってゆかねばならぬ。ナイト共がどう思ってるかは知らんがな。」

「しかし、ナイトなど、鎧と剣をまとった人間。人間如き、不死王様たちの力があれば……。」

「貴様、頭空っぽか?話を聞いてなかったのか?」

「頭の中は空っぽですが、話は聞いておりました。」

「例えばナイトと戦争になったとしてどうやってこの荒くれ者共を戦わせる。どうやって指揮を執る。」

「それは……。」

「ナイトは知能がとても高いやつらだ。まともにやり合って勝ち目はない。そして、知能が高いということは進化するということだ。たとえ今現在では父上の力が強大だとしてもそれがいつまでもつか。ま、ありえない話だがドラゴンたちが責めてきたら父上でも歯が立たないだろうな。」

「ドラゴンたちは、ここから遠く離れた氷の国に暮らしておりますので責めてくるということはないでしょうが、そうですね。」

「だから、この国は遅かれ早かれ滅びる。そうだな、やはりナイトに責められて滅びる線が強いかな。」

「…………。」

「そこで、だ。余から提案がある。」

「なんでございましょう。」

「爺、お主、最初に余に何と言った。」

「最初……。トゥ…ではなく、アンク様こそこの国の未来の王だと。」

「ふふ、それは違うぞ爺。」

「違うとは。」

「未来の王ではない。たった今から余が王となるのだ!この国を変えるために!」


♢


「して、何用だ。トゥアンクア。急に我ら王族全員を集めて。何か大事な話があるのか?」

「父上、母上、姉様、兄様、それに弟トドメス。急な呼び出しであるのに集まってくださり感謝申し上げます。」

ピラミッドの中心、どこを見渡しても黄金で飾られた眩しき玉座。昔からあまり好きな場所ではなかった。ここの黄金にかかる費用を少しでも国民に渡していたら。幾度となく考えたことだが、この馬鹿共はそんなこと納得しないだろうから口にしたことはない。馬鹿共といえど、家族で王族だ。急に呼び出したのだから敬意を見せるため膝をつき、頭を下げて用件を言わなければ。

「おい、トゥアンクア。用件を早く言えよ。」

「兄様、そうせっかちになりなさんな。(少しは待つことができないのかスメカラー)」

「そうよ。私これからデュラハンに乗って視察にゆくのよ。」

「姉様の貴重の時間をいただいてしまい申し訳ない。(何が視察だ。ただの物見遊山だろティティ)」

「兄貴は暇なのか?僕は忙しいのだけど。」

「すまないトドメス。(何が忙しいだ。女どもとイチャつくだけだろうが)」

スメカラーもティティもトドメスも皆嫌いだ。皆父上の性格に似てしまったため傲慢になってしまった。将来この中から王が出たかもしれないと考えると寒気がする。何も言わずに待ってくれているのは母上だけだ。

「私、アンクから提案がございます。」

「なんだそのアンクというのは。」

「父上からいただいたトゥアンクアという名は少々長いので今後は私めのことはアンクとお呼びください。」

「なんだと?貴様、父である我がつけた名前が気に入らんと申すのか。」

「あーあ、トゥアンクアのやつ父上を怒らせてやんの。」

「トゥアンクアではなくアンクです兄様。」

「貴様、我の子、王子ならば王が授けた名を有難く頂戴せぬか。」

「王……ね。」

「何がおかしい。」

「今回の用件は何も名前のことではございません。私は、このエジャノの国を変えたいのです。」

「エジャノを変えるだと?青二才の貴様に何が出来る。」

「エジャノは行政も司法もめちゃくちゃ。いずれ滅びることは免れません。」

「滅びるだと?貴様、我が治めてる国が滅びるだと?」

父上が完全にお怒りだ。何かどす黒いものが背後から立ち込めている。王族でなければこの威圧に耐えきれずに気絶するだろう。実際召使いのスケルトン共ががらがらと煩わしい音を立てながら倒れてゆくのが聞こえる。

「国を殺すも生かすも全て王!」

「何が言いたい!」

「この国が滅びるのも貴方の責任なのですよ父上!いえ、アクメホテプ3世!」

「言わせておけば、調子に乗るなクソガキがぁぁぁ!!!!」

父上が王座から立ち上がり持っていた杖を床に突き立てると余の周りにどす黒いものが立ち込め、そこから恐ろしい者共が現れる。父上の冥界から使者を呼び出す能力はいつ見ても凶悪で強大だ。だが、力で押さえ付けるそのやり方が間違っているのだ!

「おいやべーぞトゥアンクア!お前死ぬぞ!」

「お父様、落ち着いてくださいまし!所詮は若造の戯言!何もそこまでお怒りにならなくても!」

「兄貴も早く謝れよっ!」

怖い。確かに怖い。今、余の背後に鎌を構えた死神が立っている。父上の声ひとつで余の首は飛ぶ。滝のように流れる汗は豪華な王族の衣服を容赦なく濡らす。だが、引かない。

「今日より、私、アンクが!このエジャノの国を統べる王となります!!!」

死んだか?だが、言いたいことは言った。

「…………。」

死神の鎌は動かない。父上も余を睨みつけているだけだ。

「ふ。死神に狙わてさえも、幾分も動じないか。冗談やはったりではないようだな。」

「そうです!私は王となり、この国を変えます!」

「トゥアンクア、いや、アンクよ。それがどういう意味が分かっているか?」

「はい、覚悟は決めております。」

「王位継承戦だ。スメカラー、ティティ、トドメスの三人を蹴落とし、王の座を勝ち取るのだぞ。本来なら長兄であるスメカラーが王位を継ぐはずだった。そうなれば、ティティもトドメスもアンクも今後も王族として生きてゆくことが許されていた。だが継承戦が行われ、尚、王位に立つことが出来なかったものは王族の恥。生きることは許されない。」

「承知の上でございます。」

「おいふざけんなよトゥアンクア!誰がそんなこと…!」

「黙れスメカラー。」

「でも父上…!」

「王子の中の誰かが王位継承戦を発令するのならば、他王子もそれに応じるのが王族の生き様。敗北が怖くて逃げ出そうとするならば、それは王族である必要は無い。今すぐ我直々に首を落とす。」

「そんな……。」

「爺!いるか!」

「は、はい!ここにおりますよ!」

「エジャノの国全体に伝えろ。王位継承戦が始まったとな。新たな不死王が生まれるのだ。」

「よ、よろしいのですか。」

「王に二言は無い。」

「かしこまりました。直ちにカラスたちにこのことを伝えるよう指示します。」

爺は慌ただしく玉座から出ていった。いつの間にか余の後ろに立っていた死神も消え、父上の能力も解かれていた。

「もう一度問う、覚悟はいいか。」

「はいっ!!!」

「いい返事だ。王位継承戦に規則はない。ただ一つ、4人の中で生き残り、且つ、それぞれが持つ黄金のマスクに認められたものが次期不死王だ。」

「マジかよ……。」

「命がけなんて……。」

「なんでこんなことに……。」

落胆する馬鹿兄弟たち。しかし、馬鹿と言ってもこいつらが持つ力は強大だ。勢いだけで王になれるほど、王位継承戦は甘くない。


♢


後日、爺が手配したカラスたちによってエジャノの国全土に王位継承戦のことが伝えられた。最初こそ混乱があったものの、今では誰が王になるかの予想なり賭け事なりでエジャノは過去これ以上ないほどの盛り上がりを見せた。馬鹿兄弟たちが戦力補充のため様々な集団に金をはたいているため、経済効果も甚だしい。王族同士が殺し合うというのにそれを肴にするとはやはり相変わらずというか、愚かというか。だが、これがアンデッドだ。余はこういうアンデッドだけが持つ空気がたまらなく好きなのだ。だからこそアンデッドたちを守るため、余が王になる。


余が王となり国に秩序を作るための戦いが始まる。

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