五話

タイムカプセルを書いた次の日の事。

何時も通りの川辺の上に架けられた橋でシガレットチョコを食べていると、いつも川辺を通る唄ちゃんと出会いました。


橋の手すりに寄りかかって下を見ていたら、唄ちゃんが後ろから話し掛けてきたのです。


「あの、あなた」

「はぁい。どうしたんですか?」


唄ちゃんは訝しげな顔をしながら、吉良斗君を待たせているのか、ちらちら後ろを気にしながら、こっそり聞いてきました。


「あたし達が帰るとき、何時もここにいますよね?どうして何時も見てくるんですか?」


あら、ばれてましたか。

さすが観察眼の鋭い唄ちゃんです。

本当は誤魔化したいところなのですが、ばれてしまっては仕方ありません。

本音を言うとしましょう。


「んー、いや、あれですよ。

興味本意です」

「は?」


唄ちゃんが眉間にシワを寄せます。

でも本当に興味本意なんですよ。

役目を終えたとばかりに手すりに体を預けて視線を戻しますが、疑惑の視線が痛いです。

はぁ、と息を吐いて、チョコをおろします


「そんなさぁ、難しく考えなくていいと思いますよー?

哲学的なのはいいですが、人を疑いすぎるのはどうかと。

まぁ、貴方のそういうところは、吉良斗君とあわせて良くできていますけど」

「……そう、ですかね」


嬉しそうに呟く唄ちゃんに、肯定の言葉を返します。

少しだけ空気がなごんだところで、唄ちゃんがいつもより思い詰めてる原因を話しはじめました。

ぽつりぽつりと、話しています。


「吉良斗の隣に、立てている気がしないんです。

今日も告白されていたし……何時も前を歩くのはあたしなのに、私は吉良斗に追い付けないんです。」

「吉良斗君はモテてるんだね」

「あんなやつと将来を約束できるのは、よほどの物好きしかいませんよ」


拗ねるように言った唄ちゃんに笑いかけてから、冷えきった風に耳を澄まし、息を吐いた。


「……ほんとに、そんな難しく考えなくていいよぉ。

人間の本能は喰う寝る糞する程度のもんっしょ。人間を人間たらしめることなんてその程度。んで、生殖機能が備わってる。

みーんなおんなじ。だからねぇ、入れ替わられたら、成り代わられたら、唄ちゃんが積み重ねてきた事使った主張したらいいのさ。

自分はここだ。そいつは違う、ってね

まー、それでうまくいかなかったらここに来なよ。何とかしてあげるから」


にっと笑いかければ、唄ちゃんがビックリしたようにこっちを見て、そして笑いました。

じゃあね、と声をかけて立ち去れば、橋の上で唄ちゃんが吉良斗君と合流していました。

さて、帰ろうと歩くと、目の前に何時も見ている見慣れた顔がありました。


明らかに地球人じゃない綺麗なマリンブルーの髪に吸い込まれそうなほど深いコバルトブルーのアーモンド型の大きな瞳。

小柄な体は黄色の長袖パーカと茶色のズボンで包まれています。


「舞ちゃん。迎えに来てくれたの」

「まぁね、ほら帰ろう」


手をさしのべるその小さな手を取って、笑った。


「今日のご飯はなんだろーね!」

「んー?ビーフシチューじゃない?」


何でもない幸せを噛み締めながら、一緒に歩いた。

唄ちゃん達の物語は終わった。

……でも、大きな大きな、舞ちゃんの物語はまだまだ始まってもない。


「大筋の物語が有る限り、奇跡はすべてのキャラクターに平等に起こるんだよ」

「またなんか変なこといい始めたわね」

「悪かったね。でもやっぱ心配なんだよ



作者としては」






「一体なんだったんだろう……あの人」

首をかしげてみたけど、正体がわからないものはわからない。

何か重要そうなことをいってから、すっとかき消えてしまった。

見た感じ未成年っぽかったけど……

頭を悩ませていると、肩を叩かれた。


「吉良斗」

「……」


いこっか、と声をかけて、何時も通り前を歩く。

しばらく話していたけど、橋のたもとに降りたときに、さっきの会話を思い出す。


「そんなに難しく考えなくていい……ね」


隣を歩きたい、隣に立ちたい。

嫌われたくなかったし、拒否されたくなくて前を歩いているけど、いいのかな。


足を緩めて、隣に立った。


目を見開いている吉良斗に、少し笑いかける。


「それでさ、先輩ったら」


何でもないように話を続けると、吉良斗もそれを聞いてくれた。


こういうところが、吉良斗のいいとこなのだと、そう思う。

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