クゥとお日様お月様

仙花

クゥとお日様お月様

 

 バッタは―――

 手強いにゃん。


「お腹空いたにゃあ……」

 ぴょんぴょんからかう様に頭を出しながら草の波に隠れていくバッタ……。

 なんとも憎々しいにゃ。

 くすくす笑う声がする。

 4~5のグループがこっち見てニャニャしてる。

 馬鹿にされてるにゃ~……。

 

 ここで暮らし始めて十回くらいお日様が転がったにゃ。

 その前のことは覚えてにゃい。

 ある日目が覚めたらここに居て、我輩を囲んで見ていたヒト達がサササッと散った。

 あれは余所者を見る目だったにゃ……。

 あれからしばらく経つけど全然輪に入れてくれにゃい。

 寂しいにゃん。

 でも追い出されないだけマシなのかもしれないにゃん……。

 それにあの日。

 ひとりだけ声をかけてくれたにゃ。

「クゥ、また失敗したにゃ?」

 マメ。

 我輩にクゥって名前を付けてくれたのもこの子にゃ。

 あれからいつも話しかけてくれる。

 我輩はマメが好きにゃ~。

「バッタは手強いにゃん。皆はよく簡単に捕まえられるにゃあ」

 お腹が空いたにゃ……。

“くぅぅきゅるるる”

 はぅ……この音を聞いたから名前を思いついたらしくて情けにゃい。

「クゥは体おっきいからね~ 静かに動くの難しいよね」

 時々尻尾で土を叩きながら切れ長の瞳で覗いてくるにゃ。

 我輩は皆より大きめで鼠を捕るときも壁の穴に逃げ込まれると挟まっちゃう。

 この前はマメに一生懸命引っ張ってもらってなんとか抜け出したけど。

 鼠の逆襲で鼻の頭を噛まれて痛かったにゃん。

 でもマメが傷をなめてくれたから嬉しかったにゃ。

「ボクはだめだめにゃん……皆になんて言われてるか知ってるにゃん」

 自分の前足をなめるのが気持ちいいにゃ~。

「クゥは体がおっきくて強そうで頼もしいってみんな言ってるんだよ?」

 マメのヒゲがくるくる回ってる。

「うそにゃん。ボク知ってるにゃん。大きくてどんくさい役立たずって言われてるにゃん」

 鼻がかゆいにゃん……。

「そんなことにゃいよ~ わたしの方こそちっちゃくて弱い役立たずって言われてるのよ?」

 尻尾がぱたんぱたんしてて可愛い。

「そんなことにゃいと思うにょ~ マメは優しくて皆好きだと思うにゃ~」

 きっとそうにゃ~。

「わたしの名前は小さいオマケっていう意味で付けられたの。皆より二回りも体が小さいから……」

 皆にとって小さいオマケでも我輩にとっては頼もしい存在にゃ。

 お日様がまた転がってっちゃう。

 いつの間にかお月様がよじよじしてた。

 お腹空いたにゃ~。

 

「いまにゃ!」

 我輩の合図でマメが走り出す。

 人間のお家の窓が開けっ放し。

 中には食べ物があるのが見えたにゃん。

 我輩と違ってマメは身軽にゃ。

「ウゥ! ウウウ!」

 あっという間に食べ物を咥えて戻ってきた。

 喋れてないけどたぶん逃げる合図にゃ。

 ドタドタドタ!

 人間が飛び出してきたにゃん!

 マメを追いかけようとしてる!

「フゥゥゥル……!」

 咄嗟に間に入って威嚇したにゃん。

 人間が一瞬怯んだ隙にマメは無事に壁の穴から脱出!

「クゥ! はやくはやく!」

 咥えてる物を置いて呼んでくれてる。

 思いきって一発叫んでやったにゃん。人間がちょっぴり後ずさり。

 我輩も無事に壁を回りこんで逃げられたにゃん。

「クゥやるじゃにゃい! やっぱりクゥは強いよ!」

 マメに褒められて嬉しい。自分でもまだ興奮してるにゃ……。

 これからはマメが食べ物をとって。

 そして我輩がマメを守る。

 二匹ふたり一匹ひとりにゃ~。

 

 

 皆が慌しく揉めているにゃん。

 どうしたのかにゃ?

「クゥクゥ! 大変よ!」

 マメがジグザグにヒトとか石とか避けながら走ってくる。さすがにゃん。

「どうしたにゃ? なんか騒がしいにゃん」

 指と指の間がかゆいにゃん。

「なめなめは後! プルーブが川に落ちちゃったにゃん!」

 マメが血相を変えてる。ヒゲの動きが激しく縦横無尽にゃん。

「プルーブって誰にゃん? クゥはマメしか知らないにゃ~……」

 ちょっと寂しい気分にゃん。

「わたしにマメって付けてくれたヒト! お願い、助けるの手伝って!」

 マメの尻尾がぴんと立ってる。食べ物を取るときみたい。

 マメ真剣にゃ~。

「マメそのヒト嫌いじゃないのかにゃん? 小さいオマケって意味で付けたんにゃん?」

「プルーブはわたしを苛めたりしないにゃ! 一生懸命考えて付けてくれたにゃん!」

 マメ必死にゃ。

「でもボクに話しかけてくれるのはマメだけにゃ~ そんなヒト名前も知らなかったにゃ~……」

 行ってもどうせ邪魔者扱いされるだけかも……。

 マメがなんか悲しそうにゃ。

「ならもういい! クゥなんか知らにゃい!」

 突然怒った顔で叫んだにゃん。ちっちゃくても牙とか怖かったにゃん。

 すごい速さでジグザグに走り去っていっちゃった。

 気付けば周りに誰もいない。

「クゥ……」

 ホントにこれで良かったのかにゃん?

 マメに嫌われちゃう。

 他の皆に好かれなくてもいいけどマメに嫌われるのは辛くないかにゃん?

 それは辛いにゃん……。

 我輩はマメを失いたくないにゃ。

 マメはプルーブを失いたくないにゃ。

 バッタが跳ねてるにゃん……。

 ……。

 …………。

 助けるにゃん!

 もうお日様いない。

 耳を澄ます。

 騒いでるのが小さく聴こえるにゃ。

 匂いを嗅ぐ。

 風上からマメの匂いがするにゃ。

 走るにゃん!

 走るにゃん!

 急ぐにゃん!

 今までで一番速く走るにゃん!

 マメみたいにジグザクできないにゃん!

 それなら全部飛び越えるにゃん!

 思いっきりジャンプするにゃん!

 お月様にも届くにゃん!


 ―――アオオオオオオオオオン……!!


 

「プルーブ! 頑張って! わたしがそっちまで泳ぐから!」

 マメが飛び込もうとしてる! 皆が一生懸命止めてる!

 川から苦しそうな鳴き声が聴こえる! きっとあれがプルーブにゃん!

「――みんな邪魔にゃん!」

 このまま飛び込むにゃ!

 

 ザバァンッ―――!!

 

 冷たくて気持ちいい~!

 頑張って水掻くにゃん! 流れ強いにゃん! マメが入らなくてよかったにゃん!

「プルーブかにゃっ? だいじょぶかにゃん!」

「きみはぶゴボッゴボボッ……ぷにゃ! ゴホゴホッ……クゥかにゃ!」

 プルーブは我輩のこと知ってる? 我輩はプルーブのこと知らなかったのに……ちょっと感動にゃ!

「背中に乗るにゃ!」

 自分の体が大きくて良かった。初めて感謝するにゃ。

「ありがとにゃ……」

 プルーブがしがみついた! 元の岸に戻るにゃ!

 でもさすがに辛いにゃ。

 プルーブも我輩も水を吸って重いよ……。

 一生懸命掻いてるのになかなか着かないにゃ……。

 だんだんちゃんと前に進んでるのか分からなくなってきたにゃ……。

「クゥ、もうちょっとにゃ。きみからはあまり見えてないと思うけれどもう少しにゃ」

 プルーブの励ましで少し力が湧く。

 何度も鼻が水に潜って溺れそうにゃん。

 皆の匂いも音も水のせいで分からにゃい……。

「クゥ、そっちじゃにゃい! ちょっとずれてる! もうちょっと左にゃ!」

 ジャブジャブ。

「あああ違う違う! 回りすぎにゃ! 右にゃ!」

 プルーブが必死で方向を教えてくれる。

 でも水の流れが強くてうまく掴めないにゃん。

 足も疲れてまずいにゃん……。

 だめかもしれないにゃん……。

「クゥーーー! こっちだよクゥーーー!」

 あ、マメの声にゃ!

 体が小さいマメの声は高くてすぐ分かるにゃん!

「がんばって! クゥがんばって! さっきはごめんね!」

 少し右だった! あの声を目指せばいいにゃ!

「クゥ! もう少しだよクゥ!」

「クゥがんばにゃ! プルーブもがんばにゃ!」

「あとちょっとにゃ! クゥがんばれにゃー!」

 皆の声も聴こえてきた! すぐ近く! 嬉しくてたまらないにゃ!

 鼻先がコツンとぶつかったにゃ。

「クゥ! ありがとにゃ!」

 マメが鼻の頭をなめてきたにゃ。

 皆がプルーブを引き上げる。お陰で軽くなる。

 岸に這い上がるともうグッタリにゃ。

 ブルブルブル!

 体を振って水を飛ばすと草の上に寝そべる。

 皆が何か言ってるけれど遠くに聞こえる……。

 目蓋も重いにゃ……。

 地面があったかくて……。

 風がきもちいいにゃ~……。


“――クゥありがと。大好きだよ”


 マメの声が聴こえたにゃ……。

 夢かにゃ~……。

 夢でも嬉しいにゃ~……。


 

 

 お日様は元気いっぱいにゃ。

 あれから3回転がってる。

 あのあと明るくなって目が覚めると皆が駆け寄ってきた。

 周りにバッタとかネズミとかいくつも持ってきてくれたにゃ。

 それからプルーブにお礼を言われた。マメの言うとおり良いヒトだったにゃ。

 皆ももう余所者を見る目じゃなくなってたにゃ。

 ずっと隣に居てくれたマメは自分のことみたいに嬉しそうだった。

 そんなマメを見ると我輩も嬉しくなったにゃ~。

 

「やあクゥ。今度の縄張り争いにクゥも出るにゃ?」

 突然話しかけられた。

 最近はマメ以外のヒトもよく話しかけてくれるようになったにゃ。

「にゃわばり争い?」

 首がくすぐったいにゃあ。

「ダメよ! クゥは出ない方がいいの!」

 珍しくマメが強く言う。なんなのかにゃ~?

「にゃ~……だってクゥ強いにゃん。クゥが出てくれれば頼もしいにゃ。きっと皆も同じ気持ちにゃ」

 今度は本当に頼もしいって言われた。なんか耳がむずむずするにゃ~

「なにするのかにゃ? 皆が喜ぶなら出てみようかにゃ~」

 マメも喜ばないのかにゃ?

 マメはちょっと心配そうな顔してる。

「ホントかにゃ! じゃあ出てよ! プルーブにも伝えとくにゃ!」

 その子は大喜びで走ってった。きっとこれで良いんにゃ。

 

「クゥ、本当にいいのかにゃ?」

 ちょっとしてプルーブが話しかけてきた。なんだかマメと同じような顔にゃ。

「こういうことには関わらせにゃいつもりだったが……」

「皆仲良くしてくれるようになったにゃ~ だからボクも喜んでもらいたいにゃ~」

 尻尾が左にいくと草にぶつかってくすぐったいにゃ。フリフリフリ……

「そうか……それにゃらお願いするよ。 きみなら間違いなく勝てるしにゃ」

 なめた右手で顔を洗ってるにゃ。

「今度お月様が昇ったら出番だ。よろしく頼むにゃ」

 プルーブの歩き方は品があるにゃん。

 それにしてもなにに勝つのかにゃあ?

「クゥ……無理しないでね」

 マメが首のくすぐったいところをなめてくれる。きもちいいにゃ……思わず後ろの片足が暴れちゃうにゃ~。

 

 お日様が転がり落ちたから皆で集まったにゃ。

 ちょっと広いところ。

 なんかわくわくするにゃ。

 何処からともなくぞろぞろと見たことないヒト達が集まってきた。

 なんかみんな緊張した顔してる。

「プルーブ、今度こそ縄張りを明け渡してもらうにゃ」

 なんだかちょっと太ったヒトが出てきた。にゃわばりってなんにゃ?

「そうはいかないにゃ。いい加減これで終わりにして欲しいにゃ」

 プルーブは尻尾をゆっくり振ってる。後ろの子が顔で追ってるにゃ。前足が今にもぱしって踏みそうにゃ……。

「これで終わりになるにゃ。俺の勝ちでにゃ」

 口がにんまり開いた。そこに小さい牙が光ってる。

「ウチの新しい家族を紹介するにゃ」

 プルーブが振り向いて一番後ろに居た我輩を見た。

「クゥにゃ」

 なんか分からないけど行ってみるにゃ。

「クゥ、気を付けて」

 マメが心配してくれる。でもなにに気を付けるのかにゃ……?

「にゃにゃにゃっ? 助っ人なんて卑怯にゃ!」

 太っちょが我輩を見てすごい怒ってる。他のヒト達も怒ってるような慌ててるような感じにゃ。

「言ったにょろ。クゥは助っ人じゃなくて家族にゃ」

 プルーブが家族って言ってくれてる……嬉しいにゃ~。

「怪我をする前に引き下がった方がいいんじゃないかにゃ?」

 太っちょがプルーブをすっごい睨んでる。ついでに我輩も睨まれているにゃ。

「やってやるにゃ!」

 いきなり襲い掛かってきたにゃ!

「クゥ!」

 プルーブが叫んだ。

 太っちょが鼻の頭に噛みついたにゃ!

 痛い! なにするんにゃ!

 爪も顔に立てて痛いにゃ!

「クゥーーー!」

 マメの声が聞こえたにゃ。

 マメもきっと驚いてる。

 とにかく振り払うにゃ!

 

 ブンブンブン!

 フワァ……

 ――ドンッッ


「フギャア!」

 太っちょは空中を飛んで建物の壁にぶつかった。

「クゥ! 大丈夫にゃ!」

 プルーブが駆け寄ってきたにゃ。

「ひりひりするにゃ……いきなりなんにゃ……」

 前足で顔をこする。たまらないにゃ。

 鼻の頭も自分の舌でなめるにゃ。

 太っちょがしぶとく起き上がった。

「まだ……終ってないにゃー!」

 飛び掛ってきたにゃ!

「――フギャウ!」

 思わず首に噛みついて地面に叩きつけてしまったにゃ。

 太っちょは苦しそうにもがいている。どうするにゃ……放したらまた噛みついてくるのかも……。

 向こうの猫たちがじりじり近づいてきた。

「フゥゥゥゥ」

「シャーーー!」

 プルーブと皆が威嚇するように唸ったにゃ。

 我輩も太っちょの首を噛んだまま負けじと威嚇した。

「グゥルルヴヴヴヴヴヴヴヴ……」

 向こうの猫たちが一斉に足を止めた。尻尾を下ろして震えてる。

 なぜかプルーブたちも我輩を見ている。

 太っちょの首を放したにゃ。

 太っちょは大慌てで逃げ出すと振り向いた。

「げほげほ……プルーブ! お前は我々の恥にゃ! 縄張り争いに犬を連れてくるなんて猫の風上にも置けないにゃ!」

 太っちょと仲間達は一目散に逃げていった。

 ……でも、“犬”ってなんのことにゃ?

「クゥ、ありがとうにゃ。あいつらももう来ないだろうにゃ」

 プルーブが何か言ってるけど頭に入らないにゃ……。

 皆も褒めてくれてるみたいだけど……。

「クゥ……」

 気がつくと隣にマメが居た。

「クゥどうしたにゃ? 傷が痛むのかにゃ?」

 プルーブが見上げてるにゃ……。

「クゥ……あなたやっぱり……自分のこと気付いていなかったのね……」

 マメの言葉にプルーブも周りの皆も驚いたみたいにゃ。

 なんかそれでやっと分かったにゃ……。

「クゥっ?」

 マメの声が後ろから聴こえた。

 気付いたら走り出してたにゃ。

 なんでか自分でも分からないにゃ。

 あの日目が覚めたらここにいたにゃ。

 猫の皆に囲まれてるのに余所者扱いされたにゃ。

 バッタが上手く取れなかったにゃ。

 ネズミが上手く追えなかったにゃ。

 暗くなると皆みたいに周りが見えなかったにゃ。

 みんな体が小さかったにゃ。

 立っている時なんかマメは首よりも下にいたにゃ。

 我輩は猫じゃなかったにゃ!

 犬だったにゃ!


 ―――アオオオオオオオオオオオンッ……


 立ち止まるとお月様に向かって力いっぱい吠えた。

 悲しかった。

 何が悲しいのか分からなくて悲しかった。

「クゥーーー!」

 マメの声が聴こえた。

 振り返るとマメが一生懸命走ってくる。

 障害物をジグザグに避けて僕を目掛けて一生懸命走ってくる。

 そのまま僕が渡ったばかりの道路に飛び出した―――  

 

 キキィイィイィイイイイイッ……!

 

“クゥ……”


 木とか建物とか

 空とか地面とか

 お月様とかマメが

 何回転もした。

 

「クゥーーーーっ!」

 

 ……良かった。

 思いっきり体当たりしちゃったけど

 マメ元気みたいだ……


 何度も世界が弾む

 硬い壁が右にあったり左にあったり背中にあったりお腹にあったり

 ……やっと止まった。

 

 ―――クゥ!

 ――クゥゥ!

 マメの声が近づいてくる。

「クゥ!」

 耳元で聴こえた。

 マメが傍にいるんだ。

「クゥ! イヤだよクゥ! 目を開けてよクゥ!」

 瞼にマメの小さくて熱い舌を感じる。

 瞼を開けようとして下から上に何度も舐め上げている。

 ……見えた。

「クゥ!」

 マメ……

 マメ……

 呼んであげたい。

「クゥごめんね……わたしがもっと早く教えてあげてれば……」

 マメ……

「……クゥって名前ね、本当は鳴き声から取ったの……」

 君が声をかけてくれなければ……

「初めて会ったとき、あなたは淋しそうに泣いていたから……」

 僕はずっと一人ぼっちだった……

 前足にマメの舌を感じる。

 いつもそこがかゆかった。

 首にマメの舌を感じる。

 いつもそこがくすぐったかった。

「クゥ……何か言ってよクゥ……」

 泣かないで……

 僕は犬だったことを幸せに思うから……

 君の大切なヒトを助けられたから……

 皆の大切な場所を守れたから……

「クゥ……大好きだよぅ……」

 君を守れたから……

「マメ……」

 君に会えて……

「クゥっ?」

 ……

 ……良かった。

「ク……うにゃあああぁぁぁぁっ!」


 音が消えて

 光が消えた

 舌先に残るマメの涙の味も静かに消えていく


 僕は猫じゃない。

 僕は犬だった。

 でもとても幸せだった。

 今度生まれるときも

 マメの傍に居られるなら

 どっちでもかまわない……にゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バッタは―――

 手強いわん。

 

 からかう様に鼻先を飛び跳ねてるわん。

 お日様は元気に転がってる。

 こんな暑い日は前足をなめなめする。

 失くなっちゃったはずなのにかゆい気がする。

 作り物の足はなめるとひんやりしてるわん。

 首がくすぐったいわん。

 まだかな~……。

 きたわん!


「マメこんにちわん~」


「クゥこんにちにゃ~」


 駆け寄ってきたマメがさっそく首をなめなめしてくれる。

 きもちいいわん~。

 失くなっちゃった後ろの片足がうずうずするわん。

「今度お月様が昇ったらプルーブたちもこっそり遊びにくるってにゃん」

「楽しみだわん~」

 マメがくっついて気持ちよさそうに寝だした。

 おヒゲがあたってくすぐったいわん。

 見ていたら僕も眠くなってきたわん……。

 

 バッタは……

 手強いわん。

 でももういいんだわん。

 これからはいつもお腹いっぱい食べられるんだからにゃ……わん♪

 

 

 

                              完

 

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