恋の行き場
春風月葉
恋の行き場
私は恋をしている。
私ではない誰かに恋をしている彼女に、私は恋をしているのだ。
彼女はとても一途で健気だった
校門の前で私の知らない誰かを待ち、それが現れるととことこと駆け寄る。
そうしてそれの三歩くらい後ろについて帰るのだ。
ある日、彼女が大事に育てた恋の実が落ちた。
私は可哀想にとため息を吐いたよ。
あの誰かは彼女を捨てたんだ。
それが彼女を捨てた後、悲しむ彼女を誰も慰めないので仕方なく私は彼女の涙を止めたんだ。
自分を捨てた相手だっていうのに、彼が好きだったのだと嘆く彼女にまた私は惹かれた。
胸の中が空っぽになるまで行き場のなくなった想いを吐き出した彼女の目に、もう涙はなかった。
翌朝、私が学校前まで足を進めると彼女が立っていた。
昨日の私に見せた顔はもうなく、その心はなんとか晴れたようだった。
彼女は私の隣を歩き、昨日の礼を述べ、私のことを優しいと言った。
その日は一日の多くを彼女と共にいたように思う。
それなのになぜか、私の本心はこれっぽっちもその事を喜んでいないように感じた。
帰り際、彼女は校門の前で私を待っていてくれた。
あの頃の誰かの時と同じように。
私を見つけると彼女は明るい声で私の名を呼び、小さく手をひらひらとした。
私が歩くと彼女はその少し後ろを歩く。
私が振り向くと、こくんと首を傾げてにこりと笑う。
お互いの帰り道の分かれる交差点、彼女はまた明日と言った。
とことこと去っていくその後ろ姿を見て私は理解した。
私の好きな一途で可愛いらしい彼女はもういないのだと。
恋の行き場 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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