1-3『奴隷都市の領主』

「……」

レーサーは驚くルージュを一目見ると満足したように視線を部屋の中央に位置する研究机へと移した。

そして傅くルージュの横を通り過ぎ小物と共に乱雑し置いてあった小瓶を取り出し中身の赤い液体を呑んだ。

そして呑み干すと一言誰かに問い掛けるように呟いた。



「……神話の怪物同士の争いでは、

国土そのものが闘技場のリングになったとされる。

曰くお互いの領分を侵す形で造られたのが、

『魔族』と『勇者』……」

この地に語られる神話の物語を言っているのだろう。

答えずにいるルージュをよそに語られは続く。


「方や

『魔導の道を歩む魔人』

方や

『確約された神童』なんて呼ばれてねェ……」

そうルージュに対し微笑む。

「彼女の様子はどうかね?

きちんと教育をしているかい??」

「はい」

それを聞いた男はチラリと部屋の入り口を見た。

「……先程の少女を彼女と同じ牢屋に入れておいて欲しいんだ」

聞くまでもなく失態を犯した樹の妖精(ドライアド)

の事なのだろう。

そんな運命を案じると堪らず瞳が細くなる。

「それだけなんだ」

そう言い終えると研究室から姿を消したチーフ。

静寂に包まれた部屋を見渡して見ると机の上に写真立てがあり、そこには人型の猫と犬が写っていた。

「……」

ルージュはそれを手に取りジッと見つめた。

そして人知れず目を擦るのだった。



◇◇◇



貧民街と隣接する奴隷都市の一角には金持ち達が移住しているエリアがあり当然一等地な為に金で雇った重装備の兵士達が常に巡回している。

その片隅でマンホールが浮いたかと思うと大きな袋を背負ったルージュが出てきた。

大きく膨らんだ袋を背負い街を歩くルージュは目立っていた。

輩が野次を飛ばすが巡回する兵士達は見て見ぬふりだ。


暫くすると街外れに大きな石造りの豪邸を見つけた。

此処はルージュが仮住まいとする邸宅だが、

元々はグランゼーラの支配者レーサーの父が所有していた物件をレーサーから今は亡き息子へと受け継がせた城だ。

祖父は医療都市の興りと衰退を見届けており自身の息子であるレーサーに対し口すっぱく聡明であれと説いたそう。

そう思案しながら豪邸へと入った。

踏ん張る為袋を背負い直したのだった。




◇◇◇

……豪邸には地下がある。

それは深い静寂に包まれた空間であり、

革の靴が石床に擦れる音しか聞こえない程無音の世界だ。

蝋燭のカンテラの火しか光源がない薄暗い道路を仮面とローブを被り歩く。




……次第に左右の壁に牢屋が見えてきた。

その傍らには石造りの動像(ゴーレム)が仁王立ちしている。




「……」

薄暗い通路の壁にある一つの牢屋の中をルージュはジッと見つめた。

その中には傷だらけの銀髪の少女が壁に繋がれており憎しみに満ちた眼を向け唸り声をあげていた。

「……してやる」

声は掠れているが獣の嘶きのように覇気があった。

その様子にルージュは眼を細める。

「殺してやるゥ!!



「立場をわきまえていないようだな女」




憤るミズキはへたり込むルナリアの胸倉を掴み強引に起こし荷台の壁に押し付ける。

「か……っ」

間接的に首を絞めている為ルナリアは呼吸が出来ない。

奴隷服が軋む音を発する。

酸素を供給する為にジタバタするが次第に力が弱くなっていく。

「っっっ」

「お前は売られたんだよ。女騎士さんよぉ?」

笑いながら言う男に同調して仲間達が手を叩いて嗤う。

仲間達も同じ声質をしていた。

その光景がルナリアには耐えられなかった。

「女騎士だか何だか知らねぇが、平たく言うと公爵家から兵士に堕ちた没落お嬢様って事だろぉ??」


「て事は負けたら犯されるのは当然だよなぁ!!」

奴隷服をビリビリに破かれ下着だけになるが意識が混濁するルナリアは抵抗する意思を見せる事が出来ない。

その際絞める手を離された為腰を抜かすが直ぐさま両手を片手で掴まれ壁に押し付けられる。

両手を上に挙げられた事で腋が衆目に晒される。

ルナリアの残る理性が羞恥のあまり身を捩らせる事を求めた。



道中食材の買い出しの為馴染みの店へ足を運んだ。

そこは食材が豊富に揃えられた露天商だった。

だが店主は居なかった。


「おやおや。この街のチャンピオンが命以外に何を背負っておられるので?」

微笑みを浮かべた

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マジカル人狼!★キュアリンリン★〜世界に眠る七つの不思議〜 喪愛 @Usinauai

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