1-2『歪な研究所』

ルージュは白い通路を歩く。

通路の両脇には牢屋に備えられる動像(ゴーレム)のように部屋が存在し、その中では金属の蛇が天井から垂れ下がり被験体達から素材を調達している。

「……チッ」

:壁:に備えられた硝子の中はいつになっても見慣れない。

……その中の一つに少女型の樹の妖精(ドライアド)が被験体として活用されている部屋がある。

「ーーっ!!」

樹の妖精(ドライアド)は天井に備えられる:鉄の触手:により無理やり腋を挙げられていた。

そしてその先端にある小さな刃物で腋を斬られ、

そこから滴る青色の樹液を密着している:透明な壺:に流し込まれている。

彼女は羞恥に染まりながらも『緑色の魔法』を発動させた。

……展開された陣を中心に彼女の肉体の一部が肥大していくのが分かる。

その際彼女の視界はルージュを捉えた。

「っ!!」

怒りに顔を滲ませながら歪な大きさになった腕を振り払う。

振る時に触手も薙ぎ払われ残骸は地面に落ちた。

それはけたたましい音を立てながら透明な壁に激突するが頑丈過ぎた為ヒビを入れる事すら叶わなかった。

間髪入れず穴が空いた地面から別の触手が現れた。

それは刃物を持つ型では無く針が先端にある型だった。

触手は暴れる少女型の暴走体を抑えつけると、

紋様が描かれている下半部に沈静化させる為の薬を打ち込んだ。

そして少女は眠りに入った。

……これからの彼女の行く末を案じてならない。

触手を壊してしまった彼女の末路は悲惨な物になる。

彼女は償えきれない罪を犯してしまった。

もう生き残る術は無い……そう思い目的の場所へと向かった。

締め付けられる感情を抑えるように左胸を鷲掴む。

やけに大きく鼓動が響いているのだった。

◇◇◇


此処は研究所最深部……。

そこは先程とは打って変わり埃の被った部屋だった。

壊れ掛かった灯が点滅している部屋を歩いていると不意に気配を感じ咄嗟に臣下の礼を取った。

「チーフ:レーサー……。只今戻りました」

心臓に掌を当てつつ頭を垂れてジッとする。

チーフから回答の気配はない事で次第に頰に冷や汗が伝う。

途端部屋の壁に備えられる時計の口から烏が現れ気味の悪い鳴き声が響かせる。

そしてそれの嘴は不安を煽る声質で言葉を紡いだ。

「ダイチハドキヲツクルタメノネンドヲオオクサンシュツスルガ、オウゴンノトレルスナハゴクワズカシカサンシナイ」

そしてまた時計に戻り同じ動作を繰り返し別の言葉を紡ぐ。


「ハタケガアッテコソタネガアリ、

ハナガアッテイロガアリ、

シゴトガアッテサンブツガアル。

ノウフガアッテコソダコクジョウガアル」


そして首を一回転した。



「イマヤコノセカイニハカケルモノノナイユタカナショクタクトツキルコトノナイボクジョウガソナエラレテイル」

そして速度を落とした鳴き声を最後に再び静寂が訪れた。


「……」



瞼を僅かにあげ点滅する灯を地面越しへ見ていると不意に逆さまの人影がある事に気付く。

驚き上を見ると小太りで眼鏡を掛けた男がぶら下がっていた。



そしてそれは地面に降り立ったのだった。

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