何気ない一言

ふじうり

題名 何気ない一言


 それは突然に聞かれた。

『なんで小説を書いてるんだい?』


 高校二年になり進路という現実をたたきつけられようとしている中、自分らは夏休みに入り惰眠や小説ゲームといった娯楽に浸り曜日感覚が薄れ気づけば、お盆を迎えていた。

「行くぞ」

「わかった」

 普段は午後に起きる体を十時ほどに起こし、出かける準備を始めた。

 自分らのお盆イベントと言えば、父と母の親やいとこなどと会い食事を行ったり、叔母の家で近況報告や世間話をしたりしている。

 僕はというと父の発言により小説を書いていることは前々から言われていたのだが、恐れていたことが起きた。

『よかったら見せてよ』と、清純そうな二十代の従兄に言われた。

 正直遠慮したかった。中学の時から僕は小説を書き始め、数回か印刷した短編小説などを友達に見せたことがある。あの時の自分には、満足していたため指摘を聞かず友達の見る目がないと思った。

 経験を重ねていき、過去の作品を懐かしむかのように見ると、友達に言われた通り駄作だった。今思えば、彼は自分の作品に真剣に向き合ってくれていた。それを無視してしまって、定期交流もなく関係はいつの間にか消えてしまった。

 後悔しかなかった。人の意見に耳を傾けず、友を失ってしまう。

 本来なら繰り返さないように努力しようとする。けど、自分にはできなくて殻にこもるしかできなかった。

 高校に入ってからは友達づくりのため書いていることは言ったが、作品自体を見せようとはしなかった。二度とあんな思いをしたくないから。

 でもこの場合は状況が違う。自分は仕方なく小説を見せることにした。

「ジャンルはライトノベルだけど、純愛系の本が多いね」

 叔母の家から自分の家にかかる時間は五分くらい、印刷するにしても中学のことを思い出してしまうので、家まで案内した。従兄は自室に入って最初の言葉が本棚に陳列されている五十冊ぐらいの本に関してだった。どうやら従兄も本好きらしい。

「はい。なんか今はそういう系が好きで」

「気楽でいいよ。まあまともに話したのって今回が初めてだからね。仕方ないか」

 従兄との仲は、無関係に等しいのだ。小説を見たいというまで早く帰りたいと思ってばかりで無駄な時間だと。でも従兄には何か大切なことを教えてもらえるような、そんな気がした。

「じゃあ本題に入ろうか」

「わかりました」

 あれから従兄がオタクであることを知り、好きなアニメとかの話をした。いつしか従兄に親近感がわいた。

「これが自信作です」

 自分は小説の題名が表示されているファイルを選択し、従兄に見せた。今見せているのは初期の方に書いていた小説を最近リメイクしたものだ。この小説には自分の願望があり、基本的にリメイクはしないがこれだけはした。

「ほうほう。よくできている」

 十分くらいなのか、それだけの時間沈黙が訪れていた。でも自分は退屈ではなかった。真剣に見てくれていることで思い返してしまっていたのだ。

 そして気づくと読み終わって褒めてくれた。

「なんで小説を書いているんだい?」

「えっ?」

 感想をくれるのかと思って次の言葉を楽しみにしていると、予想外の発言に一瞬戸惑った。

 すぐに答えようとしても言葉がでなかった。

「……」

 なんで書いているんだろう。当たり前の質問なのにそれが答えれない。

「こんな時間か。悪いけどもう帰るね。小説良かったよ」

 そう言って従兄は帰って行った。

 自分は従兄が帰った後から寝るまで考えていた。でも答えは出なかった。


 あれから数十日が経ち自分はお盆前と同じ生活をしていたが一つだけやらなくなったものがある。

 それは小説だ。

 書こうと挑戦をしたけど、書けなかった。

 案が浮かんだとしても従兄の言葉を思い出し、なにも書けなくなっていた。

 最初は何とかなるだろうと、考えが甘かった。

 でも書けなくなった代わりにたくさんの本やアニメを見るようになり、見れば見るほど焦りが生じてきた。そして、自分には何もないことを突きつけられた。

『いろんな主人公たちは明確な目標があり、その目標に向けて努力して苦悩している。自分なんて目標すらも曖昧で……』

 なんて思うようになってきたのだ。

「もう潮時か」

 仕方がないことだろう。

 自分にはなんの才能もない。自分にしかできないものなんて無いのだ。

 そう諦めようとしていると、インターホンが鳴る音が聞こえた。

 関係ないとベットで天井を見上げていると、足音が徐々に近づき自室に誰かが入ってきた。

「久しぶり」

「……久しぶりです」

 従兄だった。ベットで寝転がっていた体を素早く起き上がらせた。何をしにきたのか分からないが、その表情は申し訳なさそうに見えた。

「この前はすまないね。大人気ないことをしてしまった」

「?」

 何故書く理由を聞いてきたのが大人気なかったのか自分には分からなかった。あの質問は誰でも思う事なのに。

「君の小説を見せてもらった時に意志が伝わらなかったんだ。僕が悪いのかも知れないけど、書く理由について聞いた時に確信に至った」

 従兄の言っている発言はよく分からなかった。困惑している中、従兄は紙の束を渡してきた。

「これは僕の小説だ。実は言うと僕も小説家を目指していた。けど、才能という壁を越える事が出来ず、十年くらい経った頃に諦めた。何度も抗った。でも限界がきてこれ以上持ちそうになかったんだ。こんな話をしても意味はないね。読んでみるといい」

 言われた通り読んで見た。ジャンルは自分の好きな純愛で完成度もとても良かった。

 でも何かが足りないような気がした。

「どう?何か足りない気がするでしょ。それが意志なんだ。内容がよかったとしても心に響かない。なぜなら目標や書く理由がないのだから」

「書く理由ならある!いろんな人に自分が作った物語を楽しんでほしいって!目標だって小説家になりたいって!」

「それは昔の頃だろ。今はどうなんだ?」

 自分は衝動的に従兄の胸倉を掴んだ。それを従兄は真剣な目つきで見て抵抗をしない。

「……わからないです」

 すぐに我に返り、掴んでいた手を離した。

 今の自分は見にくいだろう。正しいことを言われているだけなのに、受け入れようとしない。わかっていても認めたくない。従兄には別の分岐点があったかもしれない。

 でも自分には小説しかない。これを手放せば何も残らない。

「じゃあ見つけようか」

「えっ?」

 何を言っているのかわからなかった。でも変わらない目つきに嘘をついているようには見えなかった。

「目標、理由が分からないのなら、もう一度新しく見つければいい。君はまだ諦めていい人じゃないんだよ」

 その言葉を言われた時、自分に何かが芽生えた。それは希望を見つけたような感覚だった。

「見つけるにしても、どうすれば」

「僕は君の全てを知るわけではないから教えようがない。けど、一言言うなら、理 由ってものは小難しく考えず気楽に考えてみたらいいよ。……悪いけど今から病院に行かないといけないから帰るね。毎回変なタイミングで帰ってごめんね」

「いえ。気にせず」

 そして、従兄は帰った。


 風呂などを済ませ、自室で言われたことを考えた。

 なんで書いているのか。

「……」

 考えても何も浮かんでこない。気楽に考えろと言う従兄の言葉だけ。

「気楽に……」

 目標や書く理由を見つけるために書き続けたい。ふと、そんな考えが浮かんだ。

 自分の中で小説は手放せないかけがえのないものだ。

 なら、書き続ければいい。でも書くには理由が必要だ。そうじゃないと持続しない。

 だから書く理由を見つけるために書き続ける。

「よし!!」

 そう思うと何か枷が外れたかのように全てが軽くなり、パソコンを起動さした。


「もう朝か」

 気付くと窓から光が差し込んで来た。小説に夢中になりすぎて、睡魔や時間を忘れてしまっていたらしい。

「従兄にお礼をしないと」

 そう決意していると、親が起きていることに気づいたのか部屋に入ってきた。

「最近親しくしていた従兄からの手紙だ。小説頑張れよ」

 いうことだけを言って親は部屋を出た。

 手紙といっても茶封筒の中に紙が入っている形式のだった。

『書く理由は見つかったかな?一日しか経ってないけど、今の君ならそれだけで見つかると思って、帰るときに渡して置きました。僕はあと三年から五年の間に死ぬようです。薄々は気づいていたんですけどアドバイスをした日に病気だということがわかりました。だから最後の足掻きとして小説を書いている君に意志を託したいと思って頑張ったけど、少し無理しすぎたみたいで予定よりも早く遠くに行くことになりました。後は頼んだよ』

 書いてあった内容を見た数分間呆気に取られて立ち尽くしていた。

「何で……何で僕なんかに。……これは」

 封筒の中にはUSBが入っていた。それを見ると勝手に手が動きパソコンに刺した。

『君がまた理由を失ったとき』

 と一つのファイルがあり、衝動的に開いた。

「あの人はお人好しだな」

 自分は涙を流していた。 内容としては小説の基本や支えになる言葉が打ってあった。

 そして最後には『君はなぜ小説を書いているの』と。

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何気ない一言 ふじうり @huziuri214

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