その日、いつでも惰眠を貪っている魔王様は不機嫌そうに目を覚ました。

長年魔王様の魔力に当てられて魔物化した石像がガタガタと動き出す。

カクカクした動きで一礼すると、声だけはやたらと美声で話し始めた。


「魔王様におかれましては、ご機嫌____」



控えていた配下たちは愕然とした。

どこをどう見ても魔王様は不機嫌丸出しだった。



動く石像ごとき魔王様の敵ではない。

ちょっと魔力を込めるだけで粉々に破壊できるのだけれでも、ポンコツ石像といえばまだ自分の命運に気づいていないようである。

でも、魔王様は無視するにとどめた。

別にそれは魔王様が寛大な心を持っているとかそういうものではなく、ただ単にものぐさなのだからだけど。



「勇者の剣が引き抜かれた」



勇者の剣といえば、唯一勇者が引き抜ける剣にして、唯一魔王様を殺せる剣でもある。

そんなものが引き抜かれただって?そりゃあ、魔王様も不機嫌になるに違いない。

いや、普通だったら怒り狂うところを魔王様はなんて冷静な方なんだ。

と思っている配下たちは、リリスに言わせれば愛が足りないのである。

いや、逆に愛がありすぎて魔王様を美化しているのかもしれない。



魔王様が不機嫌な理由はただ一つ。

眠りから無理やり覚まされたからである。


怠惰な魔王様は別に殺されようと構わない。

だって、面倒だ。

でも。

そっと魔王様の唇に小鳥みたいなキスを落とした少女を思い出して、魔王様はほんのちょっぴり不機嫌を拭った。

あの少女が自分を殺しにきたのなら、魔王様もついうっかり笑ってしまうかもしれない。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王の頽廃 @leefie_no

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ