第12話 第七師団はドラゴン教団
「こちらに見覚えはおありですね」
なぜおれは、とアレンは昨夜とまったく同じ思いにとらわれながら、オルランドの指の間にひるがえる羊皮紙を見つめていた。
焚き火の前に連行されたアレンとシグルトは、オルランドから「お話し合い」という名の尋問を受けている真っ最中である。
「こちらはリーゼル王国の王子殿下より提供いただいたものです」
「ああ、三回戦で当たったあいつか。元気だった?」
「ええ。伝言もうけたまわっておりますよ。新婚旅行はぜひリーゼルに。国をあげて歓待する、だそうです」
せっかくのお誘いだが、実現するのは当分先になりそうである。
「呪いにかけられた姫君、ドラゴンに金貨一千枚……荒唐無稽な物語につられて、たいそうな数のお調子者が集まったそうですね。その頂点に君臨なさるとは、さすがはかの有名なアルスダイン王国の王子殿下」
「あのーすみません」
「
「財政規模が大陸諸国の中で最下位という点で非常に有名です。二位に大差をつけての堂々の一位、おめでとうございます」
全然めでたくない。そして誰が調べてんだ、それ。
「さて、われらが集めた情報から勘案するに、手紙の送り主はおそらくギルロイ師ですね。ここはギルロイ師にお話を伺いたいところですが、どういうわけか師にはお目にかかれない。そして肝心の姫君の姿も見あたらない。これはいったいどういうことか、おふたりのどちらでも結構ですから、説明していただけませんか」
アレンとシグルトはちらと視線を交わし合った。
べつに、正直に話してあげてもいいのだ。師への復讐心に
――話したら殺す!
――わかってるって!
言葉を交わさずとも完璧に意思の疎通がはかれたことに、アレンはなんだか泣きたくなった。なにが悲しくて中年男なんぞと心を通わせねばならないのだ。
「質問」
とりあえず話をそらそうと、アレンはまた手をあげた。はいどうぞ、と指される感じ、なんだか懐かしい。
「オルランドさんは……」
「オルランドとお呼びください、殿下」
「あ、じゃあおれもアレンで。オルランドはずいぶんいろいろ知ってるみたいだけど、なんでそんなに詳しいんだ?」
「なに、この程度のことは造作もありません」
オルランドは口もとに薄い笑みをたたえた。
「わが第七師団の強みはドラゴンによる空中戦だけではありません。その移動速度を活かした情報収集および伝達、つまりは諜報活動こそ、わが団最大の武器。世間ではドラゴン狂いの集団などと
悦に入ったように語るオルランドに、アレンは無言でとある方向を指さした。焚き火から少し離れたところで翼をたたんでいるデイジーのまわりで、先ほどから第七師団のお二方がたいそう盛り上がっていらっしゃったからである。
「ちょっとちょっと、これまさか天然ドラゴンじゃないっすか!?」
「おおっ、間違いない天然種だ! 見ろよ、この牙! この翼!」
「最高っす! 天然ドラゴンにお目にかかれるなんて、おれ生きててよかった! 神様ありがとう!」
「馬鹿! おがむならこのドラゴン様をおがめ! あ、すみません、ちょっと翼広げてもらっても……あっ、イイっ! その角度、たまらん!」
「目線こっちにもお願いします!」
「――テオ、ウィル」
オルランドの極寒の声音に、ドラゴン教……もとい、ドラゴン狂二名の背中がぴしりと凍りつく。
「ふたりとも向こう三ヶ月の減給――」
ひいっと声なき悲鳴がテオ&ウィルの口からもれる。
「――に、なりたくなければ焚き木の追加でも拾ってらっしゃい」
「はい!」
元気よく返事をして、二人は闇の中へ駆けていった。
「失礼しました」
こほんと咳払いをして、オルランドはアレンとシグルトに向き直る。
「あらためてお伺いします。あなた方とエリノアール様の呪いには、どういったつながりが?」
オルランドの問いかけに、アレンは気まずそうに、シグルトは憮然として、それぞれ違う方角に目をそらすだけだった。
「仕方ありませんね」
情報通の副師団長はかるいため息をついた。
「あなた方が話したくないというなら、わたしから話しましょう。まずはアングレーシアの酒場で耳にしたおもしろい噂などいかがですか。なんでもおふたりは口づけを交わした深い仲……」
「違う!!」
同時に立ち上がった二人に、オルランドはにっこりと笑いかけた。
「本当に仲がよろしいことで」
「だから違うって言ってんだろ! 焼くぞ、コラ」
「おっさん、やるならかまどでやってくれ! ここで火つけたら延焼すっから!」
「おや、止めてくれないとは冷たいですね、アレン? やはりわたしより魔術師どのが大事ということですか」
「よっしゃ、歯あ食いしばれ!」
「冗談ですよ。おふたりとも座ってください」
アレンたちをなだめつつ、オルランドはすばやく周囲に視線を走らせた。枯れ枝を集めにいった団員たちは、まだもどってくる気配がない。
「茶番はこのくらいにして、おふたりに折り入ってご相談が」
真顔にもどったオルランドの瞳が、ゆれる炎をうけて赤く妖しく輝いた。
「取引を、いたしませんか?」
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