第43話 街が消えた/異変が起きてしまった

43 街が消えた/異変が起きてしまった


 家屋が炎上し消滅していく。炎のはぜる音が、悲痛なすすりなきに聞える。

 雷雲が去った死可沼の盆地に夕暮れの光がよみがえった。


 プロパンガスのボンベが破裂した。いたるところで、小爆発を起こしていた。

青白い炎が上がった。雨で冷やされていたボンベが再び、家屋の燃えあがる炎にあぶられて、熱を帯び、爆発しているのだ。


 故郷死可沼の街、人々のカタストロフをよもや目撃するとはおれは思ってもみなかった。

 でも予感はあった――。

 高島ほど手ごわくはなかった。

 しかし、V男の数はおおい。おそらく、100人くらいいる。セッセと性交にはげんでいる。はげんでいるなどという、なまやさしいものではない。殺戮をかねた行為だ。いたるところで、女たちの悲鳴が起きている。

 マヤは敢然と鬼倒丸をふりおす。その凄惨な現場に斬りこんむ。キララと黒元もつづく。


 横になぐ。

 突く。

 きりがない。


 V男は殺戮を中止してカギ爪を長くのばしは向かってくる。アサヤたちは押し返される。豪雨によって奪われていた体温が平常にもどる。動きやすくなったのはV男も同然だ。三人は追い立てられて背中合わせに陣を立て直した。


 ミホの母がネイルガンを撃ちツヅケル。このときミホの母の背後、公園の入り口付近にバイクの群れが到着した。そのままこちらに、轟音を上げて疾走してくる。

鉄、率いるサンタマリアとヒロコのサンタマリア・レディースだ。


「センセイ。太郎たちはヤッツケタよ」


 とヒロコが叫ぶ。警棒やパイプを天空に突き立つようにかまえている。パイプと警棒は青い血でぬれている。青い血で染められている。塾の駐車場での戦い。

 スサマジかった。したたる青い血が戦いの凄まじさを見せている。V男をセンメツして、よく、ここに駆けつけてくれた。ヒロコたちは、V男にパイプを警棒をたたきつける。V男が絶叫する。


「ミホの仇は討ったからな」

「わたしたちも、高島に打ち込みたかった」


 サブヘッドのユカが警棒を握りしめている。


「ミホ。カタキはとつたからね」

 キララが叫ぶ。


 タカコもユカも、レディース全員が叫ぶ。


「ミホ。カタキはとったよ」


 ミホの骨を握りしめて、涙声で叫んでいる。

「さあ、V男を全滅させるよ」

 警察車のサイレンの音が近寄ってきた。

 Ⅴ男たちの暴動も終焉をむかえようとしている。

 気がゆるんだ。アサヤは背中に痛みを感じた。とたんに、それは、激痛となった。よろけた。スーパーの正面入口の庇の下でへたりこんだ。


「あなた、背中を刺されている」

 ようやく駆けつけた美魔が薔薇の鞭をかたわらにおく。鞭は青い血をしたたらせていた。鞭は青い。青いV男の血だ。Ⅴ男の血でグッショリぬれている。鞭の先は割れている。茶筅(ちゃせん)のように割れている。塾の駐車場での戦いの激しさ、苛酷さがわかる。アサヤの背に手を当てた。

 塾をおそったⅤ男を鉄とヒロコ、礼子と博郎の協力で全滅させてきた。

 夫のそばにいられなかった。共闘できなかった。


「あなた、しつかりして」

 美魔は夫のジャンバーの背を切り裂いた。

「よかった。刺し傷じゃない。切り傷よ。内臓にはタッしていない」


 そういわれても、痛みは去らない。マヤは、等間隔をおいて、庇から流れ落ちる雨だれをジッとみていた。黒元がいる。鉄、ヒロコ、キララ、みんな揃っている。

ミホの母も泣いている。

 礼子と博郎もいる。

 街に災いし、人をあやめたものたちは滅ぼした。

 ミホも黒元の妹のアダもうった。

 気が遠くなる。これだけおおくの少女が殺され――。

 これだけおおくの街の人が殺され――。

 街には無傷の家屋がどれほど残されているだろうか。

 薄れていく意識のなかで、アサヤはまだ街のことを心配していた。

 街はこのまま滅びてしまうのか。

 わが愛する街は、滅びてしまうのか。


 豪雨は降りやんでいた。

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