第42話 淫魔(インキュバス)VSマヤの決闘

42 淫魔(インキュバス)VSマヤの決闘


「センセイ。助けて」

「ええ。だれだろう?」

「キララです。ヤオハンの中央店にいます。校長先生に襲われてるの」

 あれほど探しても見つからなかった高島が、出現した。ヤオハンの中央店は高島ロープ工場の廃墟から近い。1百メートルと離れていない。やはり、あの廃墟のどこかにパニックルームがあったのだ。


 どうしていまなのだ。高島はⅤ男と連動している。マヤはバイクにいそいだ。ケイタイからは低い忍び声がきこえている。


「ミホのお母さんもいっしょです。ミホの葬儀で会ってますよね――」


 博郎が太郎と戦っている。この駐車場でのⅤ男との戦いも気になる。でもここには美魔も礼子もいる。ヒロコも鉄もそろっている。任せて置いて大丈夫だろう。


 心の眼でみないと悪人の擬態はみやぶれない。隣りにいるサイコパスに気がつかないのよ。Ⅴ男もⅤ男には見えないの――。周囲に檄をとばしている美魔。


 美魔、キララを助けにいく。

 後から、きてくれ。

 

 キララとミホの母親がサイコパスの高島に襲われている。Ⅴ男の群れの中にいる。この駐車場の動乱の中にあっても、無視することはできない。


 マヤは急ぐ。どうしてだ。キララとミホの母親が高島に襲われている。

 

 キララは誤解をときたかった。高島を見たとき、すぐにミホのお母さんにケイタイをいれた。連絡したことを感謝された。

「ほんとうの敵がいまわたしの前にいるの。ミホを殺した犯人がヤオハンの中央店の前の公園でアバレてる。直ぐきて!」


 どうして中央公園なのだ。なにか、悪魔の儀式をしていたみたい。校長先生は下半身むきだしそだ。キララは攻撃しなかった。

「キララ、どこにいるのかな」

 アサヤ先生がくるまで待っていよう。

「キララ、でておいで」

 ミホのお母さんがくるまで待った。物影から物影へと移動した。物影から物影へとかくれた。

「キララ、でておいで。キレイな顔、見せて」


「キララさん連絡ありがとう。あの男がミホを殺したのね。そう聞いても信じられない。校長先生よ――。校長先生が犯人だなんて――」

「わたしも殺されそうになったの」

「だったら、校長先生が犯人だってことはほんとうなのね」

「おおぜい殺している。連続殺人犯です」 

「キララさんのこと。恨んでいて、ゴメンナサイ。こんな身近に犯人がいた。ミホは信じている人に殺された。信頼して、尊敬していた校長先生に殺された。こんなのひどすぎる。キララさん。火葬場ではアクタイついてゴメンネ」

 これで、ほんとうの敵がわかった。

 いっしょに、復讐しましょう。

 わたしネイルガンを持ってきた。

 これで、アイツをハリネズミにし殺してやる。


 あれほど探しても見つからなかった高島が、現れた。有事だ。普段よりもはるかにはやく着ける。シグナルも動いていない。車もあまり走っていない。街はパニック。テロをうけて死人が舗道にごろごろ横たわっている。 中央公園はまさに地獄絵図。V男たちが、火災を避けて集った老若男女を襲っていた。


「収穫だ」

「穫り入れダ」

 

 マヤは公園の正面入り口からバイクを乗り入れた。ふざけるな。人間をなんだとおもっている。だんじてこの死可沼はキサマラの農場にはさせない。ここはV男のファームにはさせはしない。V男の行動にはいままで性的な要素、欲求はふくまれていなかった。V男たちは、女性のエリクビに牙をうちこみ、血を吸飲することで、性の満足を得ていた。吸血行為でエクスタシーに到達できる亞人間と思われていた。それが進化したというのか。マヤはバイクを乗り捨てた。

――喜々として、人の血をドクドクと吸い。

――人の生肉を野獣のように貪り。

――少女をレイプしていた。

 幼い、未発達の性器にドドメ色の男根をツキイレテいれた。

 まだ男に触らせたことのない。

 瑞々しい少女の未熟な性器。

 処女の性器が人型のV男、人外魔境のモンスターに犯されている。

 少女たちが、泣いている。悲鳴がいたるところでする。

 公園の芝生で。

 東屋で。

 砂場で。

 藤棚の下で。

 ベンチで。

 路上で。

 V男は獣の吠え声をあげている。

 腰をあらあらしく律動させている。

 犯されるだけではない。

 血を吸いつくされる。

 生きたママ、生の肉を食いちぎられ、噛みしめられ、飲みこまれていく。

 少女はもう生きていないのかもしれない。ぐったりとなすがままにされている。

痛みを感じていない。全部の少女を救えない。少女を開脚させた上で、腰をピコピコさせているV男の首を手当たり次第に、はねた。多勢に無勢。残念ながら、全ての少女は救えなかった。

 少女のクビスジニ食らいつき、ズルズルと血を吸っている。そのV男たちの首をいくつハネトバシタことか。見えた。公園の隅だ。ヤオハンスーパーの正面に近い場所だ。高島がいる。マヤは走りだした。瞬時を惜しみ、走った。

 マヤは高島に近づいた。V男に高島は守られている。首筋に噛みつかれるのを防御した。――少女。じぶんの拳をV男のアギトになんのためらいもなく、突きいれた。一瞬でも遅れていたら、クビスジを噛まれていた。

 キララだった。キララが必死で守っているのはネイルガンをかまえた女性だった。見覚えがある。ミホの母親だ。彼女がガンをかまえているので、V男も攻めあぐんでいた。右手を犠牲にした。

 V男の口蓋に拳を突きいれた。

 その潔さにマヤは感動した。

 その少女、キララだ。

 キララを襲っているV男の首をはねた。

「センセイ。タスカツタ」

 右手はブジだった。警棒が腕の食いちぎられるのを防いだ。

 マヤはさらに高島に近寄った。いつでも斬りこめる間合いで向かいあった。

睨み合った。

「探したぞ。高島、いや、インキュバス」 

 マヤを見とめると、高島の男根がみるみる勃起した。火災の火に焙られて熱いのか、下半身は裸だった。なぜか、高島は半透明な呂のような着物を着ていた。頭から被る貫頭衣のような古典的な衣服だ。V男たちと闇の儀式でもしていたのだろうか。火にあぶられるのを防ぐために布切れに穴をあけてはおったのか。

 からだには、赤い血をあびていた。高島だけではない。V男にむさぼり食われているのは上半身はだかの女性がおおかった。じぶんたちが、狩られている。Ⅴ男の食糧だとは思っていない。

「いい男」

「イケメンだぁ」

 口々にキイロイ声を上げている。炎上している家屋や公園の樹木が強烈な熱さを放射している。上着を脱がないと熱さに耐えられない。

 裸になれば、皮膚はさらに熱を感じ、乾いてしまうのに――。

 熱風が吹き荒れていた。あまりの炎の熱さに、羞恥心をかなぐりすてて裸になったのだ。ドウゾドウゾ噛みついてくださいと誘っているようだった。

(ウソだろう。おれをみて勃起することはないだろうが。だが、すぐに理解した。興奮しているのだ。高島は、おれにたいする憎悪のためにこころがたかぶっているのだ。興奮しているのだ。憎悪の感情が、性的な興奮をもたらしているのだ)

 殺意に猛りたち、『ぞうさん、ぞうさん、お鼻がながいのね』とからかいたいような驚愕の男根が起立している。長大なぶらぶらゆれていた男根は起立して、ヘソのあたりまでとどいている。狂気の慾望につきうごかされて、高島がアサヤに向ってきた。手にはめずらしい武器を持っていた。

 斧だった。

 近所の日用大工の店『カンセキ』で手に入る品だ。

 斧と打ち合えば剣は折られる。

 禍々しいハガネの光を放つ強力な殺傷力のある武器だ。

 もっとも戦闘用ではない――戦斧ではない。

 家庭用の斧でも恐ろしい武器となる。マヤは鬼倒丸をかまえた。

(おれは、マヤ与志夫だ。志を与える男。この街に希望の志を与える男だ。ヴェントルのクイーンを妻とする男だ。これは絶対に負けられない戦いだ)

 異妖な高島と戦うのだ。マヤはみずからを奮い立たせた。

 Ⅴ男たちが集ってきた。三郎や四郎もいる。高島を守るために壁となっている。

 マヤは竹串をかまえた。

「そんなものでは、おれたちを傷つけられない」

 見ろ。三郎や四郎は胸を開いた。防刃チョッキをつけている。

 ところが、彼らの胸に突きたった串は銀でコーテングされていた。

 銀の光となって鍼のようにとぶ。

 チョッキが融ける。Ⅴ男がジュジュ音をたてて倒れていく。

 ここでこのモンスターに負けるわけにはいかない。

 暗雲がわき、日光を遮った。燃えさかる火災の炎だけが光源となった。マヤの両脇には、キララとミホの母がいた。ふたりとも、ミホを殺された怨念をはらすべく、その悔しさをバネとして戦っている。

 あらためて相対して悟った。

 高島は〈滅ぼすもの〉で、おれは〈守るもの〉だ。

 古来より、いくたびか戦ってきた。おれの中の遺伝子がそう告げている。

 コイツは悪霊だ。悪魔だ。

 おれが守るのはこの街だ。

 だから、夢でおれのベルトが燃えて体を二等分される夢をみたのだ。

 あれは、正夢だった。

 いま街は燃え上がっている。

 木島堀は街の中央を流れている。木島堀でマップタツに分断されている街が燃えている。おれの体は、この街そのものだ。いま街は、木島堀が激爆して燃えあがり、滅びようとしている。堀にガソリンを流しこんだのはV男だ。

 突風が吹いた。雷鳴がとどろいた。

 北関東固有のスサマジイ大音響の雷鳴がとどろいた。まるでそれはこの世の終わりをつげる警鐘のようだった。何マイルにわたる巨大な鐘が天空で乱打されている。苛酷な風と雨と雷鳴のひびきは、だが、街の火災を収めるほうに作用した。

 猛烈な風と稲光。

 地上のV男のテロを雷鳴は叱咤している。

 天が「やめろ!」と叫んでいる。

 阻止しているようだった。

 天が味方してくれた。

 V男は水に弱い。

 雷雨のために夕方のように暗い。雨は狂ったように降り注ぐ。雨は容赦なく、バトル・フィルドと化した街に、われわれの頭上に降り注ぐ。猛りたつ火勢がいくらか下火になる。

 

 マヤは高島の肩口に鬼倒丸の一閃をあびせた。かわされた。

 攻撃パターンを読まれている。敏捷な動きだ。

 斬りこむ。

 かわされた。

 明らかに読まれている。

 マヤは恐怖を感じた。

 骨の芯からの恐怖――。

 そうだ。

 無心になれ。

 敵を倒そうと思うな。

 斬りこもうと思うな。

 なにもかんがえるな。

 心を無にした。

 剣を振るった。

 さらなる一閃。

「グエ」

 高島が声をあげた。

 剣の切っ先がぬれている。

 高島の血だ。

 赤い血だ。

 やはり、人間だ。

 残虐な殺人鬼だ。

 確かな手ごたえがあった。

 肩のキリクチから血がふいた。

 赤い血だ。

 しかし、それも、瞬時にフサガッテしまう。

 でも、こんな能力のあるものを人間というのか。

 高島はひるむ。

 大きく後すさった。

 その背後に、人影がさした。

「警察に取材にいってて、遅れました」

「おう、どうだった」

「警察内部のV男は制圧されまし。市役所も、消防も機能しています」

「黒元。この素っ裸の男は高島だ。わかるか」

 貫頭衣の肩口はマヤの鬼倒丸の一閃で切断された。

 高島の背で布切れとなってハタメイテいる。

「はい。由香里の恨み。ハラします」

 黒元は大型のカッターナイフを手にしていた。

 高島に会えるような予感でもあったのか。

 いや、高島にあったら、恨みの刃をたたきつけることができるように。

 ――持ち歩いていたのだ。

 マヤの剣が高島の振るう斧と噛み合って火花が散った。

 真っ向から受ければ剣が折られた。

 スサマジイ衝撃だ。

 雷鳴がとどろく。豪雨だ。まるで瀧だ。

 おかげて、火勢は弱まった。その分、闇が深まった。

 ヤオハンスパーと公園の外灯がともった。

 部分的に、この辺りだけライフラインが復旧したのか。

 高島の影がゆらゆらとゆらぎながら迫ってくる。

「由香里のお兄さまか。由香里はオイシカッタよ。あの歳で、まだおボコとはね」

 おもいだし笑いも、不気味だ。

 高島の男根がピクッと跳ねた。

「まるで、凶器だ」

「そうだよ。これでつらぬいてやった。オシシイカッタよ。ヒイヒイ泣き叫んでいたよ。お兄さん、助けてって泣いていた」

「ヌカセ」

 黒元が高島の斧をカワした。

 斧のニギリに黒元の左手がのびた。

 斧の動きを封じた。

 なんという膂力だ。

 必死の覚悟だ。

 死の決意が黒元にパワーをあたえた。

 なんという潔さだ。

 高島は黒元の腕をふりほどこうと焦っている。

「離せ」

 

 高島の首に、右手に持ったナイフを、黒元は叩きつけた。

 血がとびちった。噴水のように噴きあがった。

 ナイフは高島の肉に深くくいこんだままだ。

 ナイフの刃に拒まれ。

 傷はふさがらない。

 傷は再生しない。


 マヤは鬼倒丸で高島の下腹部にそってナイだ。

 男根が根元からふきとんだ。斬りおとした。

 高島の男根はボトリと大地に落下した。

 大地に落ちても、まだヒクヒクうごめいている。

 どんな放捋な男のモノでも、インキュバス高島のモノのような強欲さはない。

 高島の下腹部から切断されてなおうごめいている。

 なんという機能だ。

 なんという生命力だ。

 コイツは死なないのか。

 不滅なのか。

 こんな人間がいるのか。

 血は赤くても、コイツは冷血鬼。インキュバスであることには、かわりがない。

切断されても地面を這うように動いている。萎えることもなく蛇のようにのたくっている。ブキミダ。とても人間の器官ではない。悪魔だ。長大だ。太い。長い。

 コイツはやはり悪魔だ。精神に異常をきたした小児愛者。

 悪魔だ。弱い立場の女性にのみ慾望のはけ口を求めた犯罪者だ。男根を黒元がチクショウと怨念をこめて踏みつけた。ミホの母親がクギをとばした。男根はハリネズミのようになった。

「ミホのカタキ!!」

 とキララ。警棒を高島の胸にツキタテタ。鋭く尖らせた警棒がキララの必死の突きでブスブスと高島の胸にもぐりこんでいく。

「ミホをかえせ」

 ミホの母がネイル・ガンを高島に撃ちこんだ。高島の喉から獣のホウコウがほどばしった。高島のからだが、ぴくんぴくんと跳ねた。

「ミホをかえせ!」

 血を吐くような母の絶叫だ。

「ミホをかえせ」


 黒元は高島の首筋に大型のカッターナイフで斬りつけた。

 深くえぐった。手がふるえている。

 うらみ。うらみ。

 怒り。怒り。

 うらみと怒り。

 ナイフに全身の力をこめた。

 血がさらにふいた。高島の顔はブキミニに笑っている。


 皮一枚で首が垂れた。まだ、笑っている。


 必殺の気合い、怨念、憎悪をこめて黒元は高島の首を切り落とした。


 由香里がほほえんでいる。

 ヘルメットでミニバイクにのった由香里がとおざかっていく。

 

 ちくしょう。

 このくされチンボコ。

 黒元は、高島の切断された男根をなんども踏みつけた。

 男根をズタズタにミジンに切り刻んだ。

 黒元のこころには、あのときの、虚無感がよみがえった。

 黒元は泣いていた。

 男泣き。全身にこみあげてくる達成感。


「やった」


 妹の、由香里の無念をはらした。たったひとりの、妹を失った無情感がはてしなく広がった。どうしても、この街がすきになれなかった。この街のひとがオトナシクて、臆病だからだ。身に迫る危機に無関心だからだった。


 教師は、悪いことはしないと信じていたからだ。犯罪者にしてインキュバスの高島が野ばないしになっていたのだ。

 市民の小心で、長いものには巻かれろという性格が災いしたのだ。街が消滅の危機に瀕しているのに気づかなかった。

 足元しか見えていない。だからV男が大量発生したのだ。


 高島を倒したので、あらためて周囲をみると、V男の残虐な行為はつづいていた。いや、地獄絵図はまさにその非情さを深めていた。


 少女や成人の女たちが犯されるを止めるものはいない。なんという街なのだ。

なんという軟弱な男たちなのだ。暴力行為には無縁だと、傍観者の立場をくずさない。かつて経験したことのない、V男のテロに、無差別殺戮に手も足もでない。

街の知り合いの女たちが、犯されている。貪り食われている。手をコマネイテ静感している。傍観している。


 こんな街のひとたちは救うに値するのか。命を賭けて守る価値があるのか。

 高島を倒したので、正常な認知機能が黒元にも回復した。マヤは残虐きわまりないV男、肉食獣の獰猛な食事を阻止すべく戦っていた。

 狂ったようなサイレンが、ひとびとの阿鼻叫喚の巷にひびきはじめた。

 警察がやっと動きだした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る