第41話 吸血鬼のテロ
41 吸血鬼のテロ
テロの起きる前兆はあった。
数日前。
「あのときのカラーギャングですよ」
栃木新聞に目をとおしていた鉄が、アサヤに沈痛な顔で報告している。
めずらしく塾にきた鉄をヒロコがうれしそうにみつめている。
「バイクにのっていないで、部屋で、鉄とこうして話すのはじめてだよ」
ほんとうにうれしそうだ。鉄はテレカクシナノカ。新聞の話題を止めない。死可沼で、少年少女の家出が多発していることを報じている記事を読んでいる。
明神ホテルからの帰りに会ったカラ―ギャングの少年たちだ。ゴッソリと消えてしまった。ヨダレをたらしていて、どうみてもV男の従者、噛まれているとはあきらかだったので、そのまますれちがってしまった。
なにか過酷な、冷たい態度だったと反省した。でも、どうしょうもなかった。
「なにも出来ない。なにをしたらいいのか。もっと大きな問題と直面しているのだから、可哀そうだがあのときは、あれでよかったのだ。気にするな。鉄くん」
アサヤが諭すようにいった。
ヒロコもウンウンというようにうなづいている。
数日前。
テロの起きる前兆はあった。
「センセイ。大変。高島校長先生の家が火事だって」
礼子がリビングに飛び込んで来た。ふたりがカウチで起き上がるのを見て、
「ごめん。センセイ。ラブラブだった」
そこへ博郎もノッソリとあらわれた。
「センセイ。これは狼煙ですよ。いよいよはじまります」
そう、あれはやはり博郎がいったように狼煙だったのだろう。あるいは警告だったのかもしれない。いつでも、テロを起こすことがわれわれには、可能だ。そう告げていたのかもしれない。
いまや、火は街に燃え広がっている。
街を消滅させる悪魔の炎が燃え上がっている。
「収穫だ。収穫だ!!」
V男が牙を剥きだした。路地から路地へ駆けめぐっている。街のいたるところで獲物を追いかけている。口ぐちに雄叫びをあげている。
女子どもに襲いかかる。平和ボケした男たちは手をコマネイテ傍観するばかりだ。いや、恐怖にオノノキ、ふるえあがっているだけだ。戦う気力がない。
大和魂はどこにやった。
日本男児の気迫はないのか。
万葉の時代から扶桑(ふそう)第一といわれた下野の国の防人(さきもり)の武勇をよみがえらせるのだ。イヤ。モウダメダ。オソスギル。
そのときが、来てしまった。
長いこと心配していたことが起きてしまった。
過激派のV男たちが、街には群れをなして、叫んでいる。
燃え盛る炎にV男たちは赤鬼のように顔を光らせていた。
赤く光る目をギラつかせて人を襲っている。
暴虐無人に殺戮をつづけている。
それらのV男の群れがアサヤ塾の駐車場にナダレコンデきた。
「いつも攻められるだけでは、おもしろくない。こんどは、オレタチのほうから来ましたよ」
きわめてあたりまえの挨拶だ。
顔は暗黒の凶相をおびている。
牙は白く光輝をはなっている。
カギ爪は長く鋭くのびている。
先頭に立っているのは、太郎たちのグループだ。駐車場で礼子の檄にもかかわらず、静観をきめこんでいたアサヤ塾のOB、OGの群れに襲いかかった。
「はやく教室に逃げるのよ」
「教室にタイヒ。教室にタイヒ」
聖水が尽きたので、外に出てきていた博郎が太郎と対峙した。
「センセイ。こいつの相手はぼくにやらせてください」
「羅刹の直系だと粋がるな。おまえなんか怖くない」
太郎の声には虚勢はない。自信にみちている。
「なにかたくらんでるな」
「羅刹さまも、これでおわりだ。いまごろは……」
太郎がにたにた笑っている。
「ホテルにトラップをしかけた。いまごろは……」
ヒロオは廃墟となっている、いまは吸血鬼の牙城となっているホテルの方角をふりかえった。
「オヤジ。アブナイ。トラップだ。引き返して」
ケイタイにむかって博郎が叫んでいる。必死の警告をケイタイで送っている。
爆発音がホテルのある空を焦がした。
「なんだ。なにが起きた」
マヤが予想もしなかった爆発にオドロく。
「しるか――」と太郎。
博郎には、羅刹からのメッセージが届いた。
『おれはコイツラの反動勢力を察知できなかった責任をとって、ここを爆破する。アイツらの爆破装置でアイツらを皆殺しだ。閉じこめた。ひとりも逃げられない。残っているのは街でテロを起こしているヤツラだけだ。あとはヒロオに任せる』
そこで、メッセージはとだえた。
死なないはずのオヤジが死んだ。
爆破音が連続した。
ますます過激になった。
いや、過激派のV男がしかけた爆弾で自ら死を選んだのだ。
自死だろう。自爆だ。
配下のV男たちに裏切られた。
屈辱にまみれて、これから生きていくのなら、いっそ自爆を選ぶ。
けっして、楽な死に方ではない。
爆死するとは……。
爆死するとはね。
いかにもオヤジらしい、潔い死にかただ。
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