第17話 吸血鬼の牙城

17 吸血鬼の牙城

 

 フロントには受付がいる。かなりのイケメンだ。イラッシャイ。というように、いともていねいに上半身をオッテ挨拶している。慇懃無礼とはこういうことをいうのだろう。


「ロビーでおまちください。すぐ支配人がきます」


 待つほどもなく羅刹が現れた。


「どうも、さきほどは、失礼しました」

「啓介をかえせ」

「なにか、誤解があるみたいですね」

「ブジなのだろうな」

「それは、もちろん。保護したのですから――。あのまま放っておいたら過激派の夜光族のエジキになっていました。夜光はもう抑えが効きません。アイツラへの監督不行き届きで、もうしわけない」

「病院にいた連中が過激派なのか? おれにはまったく区別がつかない」

「ここにいるヒトはいままで会ったヒトとはちがうようだが」


 マヤがいちばん訊きたいことをズバリいう。


「わかりますか、さすがマヤさんだ。かれらは百鬼。わたしたちのカーストは、くりかえすようですが、夜行、百鬼、そして羅刹なのです。ここにいる百鬼は変身可能なのは勿論ですが、人肉は口にしませんし血だってほんのわずかしか飲みません。赤い屋根の家で啓介さんの肉を食した彼は処分しました。わたしたちはヒューマンと共存することをのぞんでいます。美魔さんの父君の、オド・ヴァンピリズム、人間の磁気をすって精気としているヴェントル―が理想です」


 ふいに、美魔はことばをふられておどろく。


「ヒトの血をまったく飲まない。子孫をのこすことができる。結婚して子供を産むことができる。うらやましいですよ。過激派の夜光族は結婚できないことにジレンマを感じ女の子ばかり襲うのです」

「わたしたちが、いままで戦ってきたのは過激派、夜光族だったの? ミホをあんなふうにしたのはやはり夜光族なの」

「それはないと思う。血を吸い、内臓を抜いたからといってかならずしも、過激派の夜光族の仕業とは思えない。血と内臓がなくなれば、たやすく運ぶことができるけど――」

「啓介はブジですか。かえしてもらえるのでしょうね」


 黒元が長い会話に終止符を打つ。


「もちろんです。こうでもしないと、わが牙城にあなたたちにきてもらえなかつたから」


 お連れしなさい。という羅刹の指令で、百鬼族の若者が奥の方に控えた仲間に合図する。啓介が元気にあらわれる。


「隣の大部屋に夜光族の過激派がいた。襲われるところをこのヒトタチニ助けられた」


 どうやら羅刹の言葉は真実を告げていた。


「お泊りになりますか」


 羅刹が誘っている。吸血鬼ホテル、彼らの牙城に宿泊する気分になる訳がない。


「ジョークとしてうけとっておきます」


 やんわりとマヤは断わった。


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