第18話 深夜徘徊 カラーギャング
18 深夜徘徊 カラーギャング
「どの大部屋でも病室にはV男がいて隣りの患者の血をこっそり飲んでいた。輸血用のパックを盗んでガブ飲みしていた。管理のアマイ大病院はV男の天国だ」
車は深夜の杉並木を死可沼に向かっていた。車のなかでは啓介が黒元に病院でのトラブルについて説明している。
すこし前方を走っている。鉄のバイクがふいに蛇行した。ブレイキをかける。黒元もほとんど同時にブレイキを踏む。なにが起きたのか。
バイクと車のヘッドライトに照らされたのは深夜徘徊の少年少女だった。
おそろいの赤いバンダナを巻いている。
「お兄さん、父兄きどりかよ」
鉄が深夜の徘徊をとがめた。逆切れした中学生がすごんでいた。どうみても体は大きいがU15だ。マヤは彼らをナゴシエートする鉄をみて満足の笑みをうかべていた。
走り屋と暴走族はちがう。
バイクにのっていると、ひとくくりで、暴走集団とみられる。夜徘徊しているからといつて非行少年とみなすのは酷だ。
でもこのカラーギャングは異常だ。
おそろいの色のバンダナをしているからカラ―ギャングときめつけるのは早急がもしれない。
「道あけてくれます」
鉄のいうことなど、歯牙にもかけていない。むしろ牙を剥いている。口元からヨダレをたらしている。自転車を止められたことが、よほど気にくわないのだ。バイクの買えない下流家庭の少年たちだ。
少年たちの口のききかた、トゲトゲシイ眼光は、怨んでいる。バイクに乗っているヤツを妬んでいる。バイクを買えないことに絶望している。
先頭の鉄と同じくらい、180センチはある少年がジレテ殴りかかってきた。ストレートをかわされても、まだだれを相手にしているのか気づいていない。月光だけの薄闇だ。黒元の車からはヘッドライトの先が少年たちの群れに向いている。離れすぎている。
サンタマリアを束ねる鉄に気づいていない。
少年はたたらを踏んで鉄の目前でよろめく。
襟首に鉄がチョップをたたきつける。
「やっちまえ」
少年たちが一斉に襲いかかってきた。とは、いかなかった。
そのときまで、背後の闇にかくれていたものたちが、あらわれた。
「先をいそぐんだ」
少年たちを羊の群れのように追い立る声。少年たちは――ギャングはブーたれながら自転車にとびのった。背後からⅤ男たちが凄惨な顔をみせた。
過激派だ。鉄はバイクに駆けもどった。でも少年たちはもう鉄を見ていない。虚ろな眼差しで鉄の存在そのものを無視している。なにが起きたのか。どこにいこうとしているのか。彼らはスマホを片手にゲームをしながら通過していく。
「どうします」
鉄が車の窓からマヤに訊く。あまりに異常だ。行き先を確かめずにはいられない。V男は過激派と羅刹がいっていた夜行族の連中だ。少年たちは夜行族のV男にあやつられている。おそらく噛まれてしまっているのだ。従者(レンフィルド)になっている。噛み親の命令は絶対だ。この深夜、廃墟ホテルに向かっている。そこで、なにが起きるのか。下剋上をねらったテロか。
少年たちは、後ろ姿を見せて遠ざかっていく。まるで幽霊でも見るようだ。
「放って置こう。みんな噛まれている。見捨てて置くしかない」
悲痛な声でマヤがつぶやいた。
ヒロコが鉄の隣りとでうなづいている。
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