第14話 マヤ、美魔に叱られること
14 マヤ、美魔に叱られること
「ひりで行動するのは、もう、止めてください」
黒元を紹介した。美魔は顔を痣だらけにして帰ったマヤに怒りをぶちとまける。ミイマというより美魔といいたいほどこわい顔をした。マヤのことを心配するあまり顔がひきつっている。
「単独行動はとらないで」
そのあまりに激しい語気に初対面の黒元は驚嘆している。
「栃木新聞の元記者、黒元哲也です」
「ああ、すみません。夫にかんしては過保護なのかしら」
美魔はにこやかにほほ笑えんでいる。
「マヤさんは強いですよ。おどろきました」
「黒元さんは、あの那須の女教師刺殺事件のときの担当記者さんでしたね」
「そうか、あの事件の。黒元哲也。どこかできいた名だとおもった」
「いまは廃墟ハンターです。全国の廃墟を巡ってルポを書いています。でも、うれしかったな。死可沼が夜は吸血鬼の跋扈する町だという、ぼくの長い間の持論が正しかったことが証明された。この目であいつらを視認できました」
日本書紀。
巻第七、景行天皇(二十七年十二月―四十年七月)毛皮を着、生血をすすり、兄弟はお互いに疑い合っている。
あの時代から、生血をすするものがいたのだ。
マヤが、断言する。黒元、深いため息をもらす。
「そして那須の事件も、そのあとに続く全国規模のナイフによる刺殺事件の背後には吸血鬼の教唆があるとわたしはふんでいます」
「おどろいた。たしかに秋葉原の大量刺殺だって、異常過ぎますね」
犯人たちは、人を殺せという声が頭の中でした。といっている。
「犯人にとってはナイフは吸血鬼のカギ爪にあたります」
「そして、こっそりと――刺された被害者の血を吸血鬼がすする」
「血をながした被害者の背後には吸血鬼が迫り、血を吸っている。うまいカモフラジですね。だれも背後の影には気づかない」
「いままでは――」
黒元のケイタイがなった。啓介からです。こちらを見ながら黒元がいう。
「そうか、すぐいく」
「ご一緒していいかな」
「わたしも」
「啓介が、ICUをでて、個室にはいった」
という黒元の言葉にかぶせるようにマヤと美魔が声をあげた。
新築したばからの死可沼病院は宵闇にさからって明々とフロントがライトアップされていた。
そのICUがある三階の個室。ドァが半開きになっていた。だれかが、いま出て行ったばかりなのか。部屋にはパジャマ姿の啓介が床に倒れていた。
「啓介」
いや、ちがう。マヤは直感的そう判断した。
倒れているのは啓介ではない。
腕に包帯も巻いていない。
黒元が啓介を抱き起こした。美魔が枕元のナースコールにとびつく。
倒れていたのは――。黒元が辺りを見回している。
マヤは身をひるがえして、病室を走りでた。啓介はだれかに襲われた。拉致された。いまなら、まだ間に合う。マヤはそう推察した。まだ犯人がこの病院にいる可能性がある。エレベータ―は作動していない。徒歩だ。マヤは廊下を走り、階下への階段を駆け下りた。
廊下に緑のラインが引いてある。正面玄関へのラインガイドだ。玄関。白いパジャマの患者がよたよたと扉に向かっている。マヤは回りこんだ。啓介だ。額から血を流している。パジャマのエリが赤く染まっている。
「どうした」声をかける。同時にケイタイをとりだして美魔を呼びだした。そのスキを突かれた。背後からつけてきた男が啓介を奪うと走りだした。後ろ姿からV男と知れた。腰の辺りが微妙に不潔な感じだ。
啓介をかかえる。全力疾走で逃げていく。車寄せに停めてあったバンに啓介は押し込められる。どこへ向かおうとしているのか。わかるはずがない。タッチの差で追いつくことが出来なかった。マヤはバンの後部に向けてケイタイのシャッターを切った。
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