オレオレ詐欺詐欺

アフロの人

オレオレ詐欺詐欺

「それでは、いま警察のものがそちらへ伺いますので、通帳とキャッシュカードをおねがいします」







詐欺師の男は、そう言って電話を切った。





ここ数年、被害が増え続けている高齢者を狙った「オレオレ詐欺」。近頃だと、このオレオレの謳い文句に限らず様々な言い回しで詐欺を働くらしいので、総括して「特殊詐欺」などと呼ばれているようだ。





この詐欺師の場合、警察官を装って次のように声をかけている。





「貴方様の預金されている現金の中に、犯罪で使われたものが入っているようです。調査のため、一度警察でお預かりしたいのですが…」といった具合だ。







もちろんデタラメではあるが、それらしい関係機関の名前と、難しい専門用語をわざと言って不安を煽る。






そうして捕まえたカモの家へと、詐欺師は出向く。







「今回引っ掛かけたババアは当たりだな。聞いてもいない身の上話はもとより、聞き出した預金額がとんでもない額だった。これは下手を踏めないぞ」




どうやら口座には相当の額を溜め込んだ老婆に詐欺をもちかけたようだった。意気込んで、その家へと向かう。








老婆の住む一軒家の呼び鈴を鳴らす。


「すみません、〇△署のモノです」









が、待っていたのはガタイの良い、中年のスーツ姿の男二人。






「…警察のものだ。署までご同行願おうか」




なんと、警官とおぼしき二人が老婆の通報を受け、先回りして待っていたのだ。これには詐欺師の男も参った。





程なくして詐欺師は御用となり、警官二人に連行された。その途中、詐欺師は叫んだ。






「おいババア出てこい!覚えていろよ、ちくしょう!」






連行される車へ乗り込む、あと数メートルのところで、詐欺師は悪あがきのような、遠吠えのような叫びをあげる。






警察側の計らいなのか、詐欺師の前に老婆は一度も姿をみせていない。おそらく、報復などの恐れがあるからだろう。





「おい、黙ってついてこい」





警官のうちの一人が、詐欺師の男の腕を強く引っぱる。詐欺師は観念したのか、頭をガクッとさげ車へ乗り込んだ。









-数日後、老婆の家へ再び警官二人が訪れる。詐欺師を捕まえた、中年のスーツ姿の二人だ。





家の前につくなり、呼び鈴も鳴らさずに中へ入る。玄関の奥にある和室へ、二人は進む。

その一連の動きは、慣れた様子だった。どうやら、この間の事件で訪れたのが初めてではないようだ。







奥の和室に、老婆が待っていた。








「どうだい、あんた達。上手くいったかい」






老婆は言った。









「ええ。おかげさまで何も怪しまれず、ヤツの携帯電話を押収し、電話帳のデータをコピーできました」








「しかしマヌケなもんだね、最近の若いモンは。こういう事態になった時に、足が残るようじゃ。記録は残さずに消すべきじゃ」





丸まった背中を揺らしながら、ニヤニヤして言う。








「そこに目をつけたのが貴方ですよ。貴方のような優秀なOGがいて頂けるので、我々も助かってます」





男二人は、随分とへりくだった様子で応対している。どうやら老婆は元警察関係者のようだ。










「それで、どうだい。金になりそうかい」



老婆は尋ねる。








「ええ、このデータを足がつかないよう、我々の通じる裏のルートへ流します。金貸しの顧客情報は、そのスジの者にしたら1番大事なモノですからね。いい金になるんですよ。その報酬の一部はもちろん、貴方へお渡し致します」






丁寧に男のひとりは言う。










「そうかい。まあ、上手くやっておくれ。わたしは、また騙されたフリして電話に出るさ。あと、その押収したデータに必ずわたしの番号を入れておくんだよ」





ジャラジャラ、と音を立てながら、一から六まで番号のついたキーホルダーをぶら下げた、携帯電話の束を二人に見せる。テーブルの上にそれは置かれ、さらに二人の視線のその奥、老婆の座る後ろには、無数の携帯電話が…。












-特殊詐欺の被害は、今も後を絶たない。そして、それを餌に陰で動く輩も、少なくはないとか…。

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オレオレ詐欺詐欺 アフロの人 @yusuke0409

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