第35話 コロコロ紅白戦 終了!

 佐々木さんはビヴォ(フォワード)かと思いきやフィクソ(司令塔)だ。

 試合を通じて二軍の動きを観察するためかな?


 てか、おじさまたちの動きが意外と軽い!?

 それに、メタボな体のメタボアタックが二軍に効いている!?


「ここにいる奴のほとんどは、昔、サッカー部だったんだ」

 は、おじさま談。

 そうなんだ。だからか。


「補欠だベンチウォーマーで青春が終わろうが、ボールが忘れられないんだな」

「漫画では『ボールはマブダチ』が有名だけど、俺たちにとっちゃボールは初恋の相手だからよ!」

「『でも私、レギュラー君の方が好き!』って、こっぴどく振られたけどな」

『あ~はっはっはっは!』


 なんかいいな、こういう雰囲気。

 

 試合は一進一退。

 佐々木さんも本気を出さず……なんだろう、あの動き?


「佐々木のネエチャン、ありゃ三味線弾いてるで。ああやって二軍を一人一人テストしとるんや」


 コイツの出っ張った目は伊達じゃないってか……。


「佐々木のネエチャンからボールを防いだり、ボールを奪えば合格ってことやな」


 だからボールを取られても佐々木さんは無理に追いかけたりせず、おじさま達に任せているのか。


 そしてワイルドが交代でピッチに入った。

 あとで聞いたけど、麗人先輩の露払いで先に出たみたいだ。


「さぁ~いらっしゃぁ~い!」


 ボールを持った佐々木さんにワイルドは果敢にツッコんだ。


 佐々木さんの左のサイドステップ……今までで一番速い!

 ワイルドもなんとか動きを合わせようとするけど、今度は佐々木さん、右へ跳んだ!

 抜かれる!

 えっ!?

 佐々木さんが抜いた瞬間! 本当にワイルドが”すってんころりん”と転んじゃった!


「出たー! 佐々木様の『空気投げ』!」

「海東のあのも佐々木様の洗礼を浴びたかぁ」


 どうなってんの!?


「『柔よく剛を制す』やな。柔道や合気道みたいに相手のバランスを崩したあと、抜く瞬間に肩で”チョン”や」


 ひょっとしてコイツ、実はすごいサメなのでは?


 そして麗人先輩と交代。

 あらかじめワイルドから教えてもらったからか、ボールを持った佐々木さんと距離をとってプレッシャーを与えている。


 それでも佐々木さんの高速ステップに追いつけず、麗人先輩もバランスを崩してしまう。


「くっ!」


 その横を抜こうとした佐々木さんめがけて、なんとか踏ん張った麗人先輩の足が伸びた。


”おおっ!”っと両チームの控え選手と私たちから声が漏れるが


「ひょいと!」


 佐々木さんがジャンプ……えっ? 佐々木さんの右足の甲にボールが、くっついているぅ!?


 麗人先輩を抜いた佐々木さんはリフティングやヘディングしながら、一度もボールを床に落とさずゴールへ一直線!


「ゴールを守れ! "あれ"が来るぞ!」


 キャプテンさんの命令に慌ててみんなはゴールへ向かう。


 何だろう? まだ必殺技があるのかな?


 おじさま達も固唾をのんで見守っている。


「ねこ〜」

”ポーン”

 佐々木さんが頭の上までリフティング。


「サル〜」

”ポーン”

 今度はヘディングした後、ゴレイロに背中を向けた。

 まさか!?


「ト!」

 背中から回転した!

 まさか!? オーバーヘッドキック!?


"ビシッ!!"

"バンッ!!"

 ボールはゴレイロの真下で跳ねた後、股下を貫いてゴールネットへ!


"ピピー!"

「ゴール!」


『うおおおぉぉぉ!!』


 おじさま達が絶叫している。

 私たちも興奮している。

 初めて見る生のオーバーヘッドキック!

 それを行ったのが将来の日本代表なんだからなおさらだ!


「海東のキャプテンがちょっといい動きしてたから、思わずサービスしちゃった!」

は、ウィンクしながら笑っている佐々木さん談。


 ホント、佐々木さんはフットサルを楽しんでいるんだな。

 いや、コイツのキックをネットで見て試合前にPK戦したけど、ひょっとして人一倍目立ちたがりで負けず嫌いなのかな?


"ピー! ピー! ピーーー!!"

『試合終了!!』


 結局試合は後半、おじさま達が力尽き、ダブルスコア以上で二軍、海東合同チームが勝利した。


『ありがとうございました!!』


 健闘をたたえ合って握手……あれ? おじさま達が佐々木さんへ集まって?


「おめえら! 味方なのに佐々木様に握手求めるんじゃねぇ!!」

 審判がおじさま達を怒鳴りつけたぞ。


「いいじゃねえか」

「味方の健闘をたたえて何が悪い!」

「どうせおまえらだって、あとでちゃっかり握手するくせによ」


 そして両チーム同士握手。


 着替えや片付けが終わると麗人先輩を先頭に

「本日はありがとうございました!」

『ありがとうございました!!』

 佐々木さん、二軍、そしておじさま達へ挨拶をした。


「こちらも勉強させてもらいました」

は、二軍のキャプテンさん。


「大京大二軍相手によくやったな」

「試合したかったらいつでも呼んでくれよ」

は、おじさまチームのキャプテンさん達。


「”ティモちゃん”ともう少し遊びたかったなぁ〜」

は、もちろん佐々木さん。

 その呼び名が定着しそう。


「あとぉ、一軍と試合したかったらいつでも相手になるわよぉ」

 リップサービスでも畏れ多い!

 麗人先輩とワイルドはそのお言葉に固まってしまった。


 こうして長い一日が終了した……。


 ―― 翌日 ――


「グアアァァァ!!」

「ヒャアアアア!!」


 とあるワンルームマンションの一室では、女子大生とシュモクザメが筋肉痛のため奇声を上げながらもだえていたのであった。


 ちなみに、麗人先輩、お嬢先輩、ワイルドは”想定内の筋肉痛”。

 そして……。


「あれぐらいで動けなくなりましたの? 茶華道部ではあれぐらいの"ぶつかり合い"は、日常茶飯事ですわ」

は、おしとやか談。


 茶華道部は体育会系、いや、格闘系だった!?


「おまえら一般人が目にするヲタクとは、何も生み出さずただ消費する豚のことだ。真のヲタクは徹夜で執筆する体力。雨や極寒の中、入場待ちする忍耐力。開場と同時にお目当てのサークルへダッシュする瞬発力。炎天下の中、重いコスプレ衣装を着てポージングする持久力。SNSで炎上してもそれに耐える不屈の精神力を持っているんだ。スーパーのバイト風情と一緒にするな!」

は、不思議談。


 なるほどね。安心した。

 たとえ変則ルールとはいえ、まぐれで勝ったわけじゃなかったんだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女子大生とサメたちが、上手に暮らす不可思議生活 宇枝一夫 @kazuoueda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ