49.深夜の帰宅
シェアハウスに着いたのは、午前零時を回った頃だった。灯りのついている部屋はない。三田村さんはもう眠っているのだろう。
良かった。
こっそりカギを開けて中に入れば、夜中に突然帰宅したことはバレないはずだ。でも明日の朝はどうしよう。早朝から部屋にいたら、怪しまれる……。いや、何とかなるはずだ。母親とケンカして始発で帰ってきたとかなんとか、言い訳はいくらでも作れる。
よし。
カギを鍵穴に差し込んで、そっと回す。慎重に。カチャリという微かな音。今度は息を詰めてドアノブを回し、扉を押したのだが――チェーンがかけられていて、ドアは少しの隙間しか開かなかった。
私が実家に泊まるとメールしたからだ。どうしよう。
三田村さん、インターホンで起きるかな。起きてチェーンを外してくれたとして、気まずいな。実家から真夜中に帰ってくる女――怪しすぎる。これでは嘘をついたのがバレバレだ。
夜中に起こしたことも、きっと怒られる……。
「こんな夜中に」とか、「実家に泊まるって嘘だったの?」とか、咎められそうだ。
しばらくドアの前で悶々と考えていたが、もう仕方がない。私は覚悟を決めて、インターホンを押した。
「どうした? 大丈夫?」
それが、ドアを開けてくれた三田村さんの言葉だった。Tシャツにスウェットで髪はくしゃっとしている。明らかに寝起きだ。そんな三田村さんが、心配そうに私を見ている。
「早く入ったら」
三田村さんは、ドアの外で立ち尽くす私に手を伸ばし、トートバッグを持ってくれた。
「こんな夜中にすみません」
「いいよ別に。それより大丈夫? 何か飲む?」
思いがけない優しい言葉に涙が出そうになったが、何とかこらえた。
「大丈夫です。部屋に上がって眠ります。ありがとうございました」
私の声が震えていたのに、三田村さんは気付いただろうか。
(続く)
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