第四章

39.一月はあっという間に

 一月は、飛ぶように過ぎた。


 ミズモリケント関係の大きな仕事が二つあって忙しくかったのだ。一つはスタジオでの『好き』と『待ってて』のMV撮影、もう一つはミズモリケントのライブへのゲスト出演。


 MVは、ミズモリケントとKSJCが『好き』と『待ってて』をエス・ミュージックのスタジオで演奏する様子を撮影したものだ。


「飯倉さん、すごくきれいに映ってるよねえ。夏目先生、惚れなおすんじゃない?」


 後日送られてきた動画を観て、萩岡係長はウフフと笑った。


「ありがとうございます。プロにメイクしてもらったおかげです。なんだか恥ずかしいですけれど……」


 撮影当日にスタジオに行くと、宮本さんが手配したメイクさんが私を待っていた。


「おーすごい! クールビューティーに仕上がった!」


 メイクを終えてスタジオに戻ると、まずは瀬戸さんが、そして次々にみんなが褒めてくれた。夏目先生はもちろん、三田村さんまで「すごくいいと思う」と言ってくれ、私は照れくさくてたまらなかった。


 私以外のみんなは、もちろんかっこよく映っている。社長は渋く、瀬戸さんは明るく。穏やかな夏目先生に、クールな三田村さん、そして癒し系の萩岡係長――映像を通して、みんなの個性がよくわかる。そして、個性的でありつつも、ミズモリケントを中心とした一体感と楽しさが画面から溢れている。プロの撮る映像ってすごい。


 レコーディングスタジオの中でミズモリケントを中心に、みんながリラックスした表情で演奏をしている。フロント三人はスーツ姿の端正な佇まいで、ライブで見せる派手さとは対照的だ。


 休憩中に談笑する様子も撮影されており、それぞれ表情のアップもあるから、もし知り合いが観ればすぐに誰かわかってしまうだろう。冷静に考えると全国(全世界か?)にこうやって顔をさらすのは恥ずかしいのだけど、できることは何でも協力しよう――そう私達は決めていた。身バレは覚悟の上だ。


 ミズモリケントは、安定した会社員の身分を捨ててまで音楽をとった。そして、KSJCを評価してくれた。だからみんな、なんとしても『待ってて』をヒットさせたいと願っていた。



 そして一月最後の金曜日。

 KSJCはミズモリケントのライブにゲストとして出演した。アンコールの時にミズモリケントのバックバンドと交代し、『好き』、そして新曲の『待ってて』を演奏するためだ。すでに何度もラジオで流していたので観客は曲をよく知っており、途中から一緒に歌ってくれた。たまに私たちを振り返るミズモリケントは、弾けるような笑顔だった。



(続く)



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