26.宮本さんとの出会い

 再演二回目。十月最初の金曜日に行われたライブの曲目も、基本的には以前と同じだった。


 基本的には、というのは、『Sing sing sing』と『交響曲第七番 第二楽章』を入れ替え、ベートーベンが本当の最後にくるようにしたからだ。KSJC、イチオシの曲だ。


 1.『Take on me』(a-ha)

 2.『ライオン (動物の謝肉祭)より』(サン・サーンス作曲)

 3.『Green Hornet』(コルサコフ作曲)

 4.『アイネクライネ』(米津玄師)

 5.『オリジナル』

 6.『ようこそジャパリパークへ(『けものフレンズ』主題歌)』、(どうぶつビスケッツ、 PPP)

 7.『走れ正直者』(西城秀樹)

 8.『オリジナル』(早い方)

 9.『Sing Sing Sing』(ルイ・プリマ作曲)(アンコール)

 10.『ジェームズ・ボンドのテーマ』(モンティ・ノーマン作曲)

 11.『交響曲第七番 第二楽章』(ベートーベン作曲)



 KSICのメンバーは、みんな上手い。楽曲のアレンジがいいし、パフォーマンスもよく練れている。だから、ヴォーカルなしとは思えないほど観客は盛り上がる。


 楽曲と演奏の良さに加え、フロントの三人が観客を煽って引っ張る。彼らが暴走しすぎないように見張っている黒田社長、さらに、要所要所で圧巻のトランペットを響かせる萩岡係長――KSJCは、バランスのとれた稀有なバンドだ。


「何度観ても楽しい。スカッとする」


 瑠璃は言う。


 スカッとする、か。確かにそうだ。


 ライブ中に何度も訪れるその瞬間が、KSJCの音楽をさらにドラマティックに響かせる。この日も、鳴りやまないアンコールの拍手を背に、私たちは舞台を降りた。



「飯倉さんのドラムが落ち着いているから、助かっています」


 演奏を終えて楽屋に戻ると、社長が褒めてくれた。


「ほんと、周りがあれだけ騒々しいのに、よくテンポを崩さずに叩き続けられるよね。すごい才能」


 瀬戸さんが笑う。


「そうですか? ついていくのに精いっぱいで」


 これは本心。私は、間違えないように必死でやっているだけだ。


 皆が楽器を片付けながら雑談していると、ドアをノックする音がした。


「黒ちゃん?」


 山ちゃんだ。


 彼は、黒田社長のことを「黒ちゃん」と呼ぶ。二人は中学からの同級生。夏目先生がドアを開けると、山ちゃんがスーツを着た女性と立っていた。


「どうしても話したいっていうんでお通ししたんだけど……いい?」


 山ちゃんが遠慮がちに言い、黒田社長は席を立った。


「エス・ミュージックの宮本と申します」


 その女性は黒田社長に向かって深々とお辞儀をすると、名刺を差し出した。


「頂戴します。黒田と申します。すみません、今、お渡しできる名刺がなくて」


「社長」の名刺は常に携帯しているはずだが、KSJCとして渡すべきものではないと考えているのだろう。


「いえ、こちらこそ急に押しかけて大変申し訳ありません。少しお話させて頂けないでしょうか」


「構いませんけど、どういったご用件でしょうか?」


(もしかして、僕たちスカウトされちゃうんじゃない?)


 萩岡係長が私の耳元でヒソヒソと囁いた。みんなもそう思ったのではないだろうか。期待のこもった目で、宮本さんが次に何を言うか、見守っている。


 ところが宮本さんの要件は。


「弊社に所属しております、ミズモリケントのことです」



(続く)


 ――――――――――――

 ◇「二回目のライブ」の再生リスト(一部抜けあり。『走れ正直者』、『オリジナル』)。

 https://www.youtube.com/playlist?list=PL0-g9V4B-03IUPJDstCuFlKmT7ctGWyOw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る