23.ライブの後で

「お疲れ様!」


 夜の公園。私たちは缶ビールで乾杯した。


 打ち上げをする予定はなかったのだが、ライブの余韻が残っていて、何となくみんなでビールを買って近くの公園に寄ってしまったのだ。


「良かったよ、今年観たライブの中で一番!」


 瑠璃が興奮している。


「そうよね、かっこ良かった! 今までとは一味も二味も違うKSJCだったわ。息子を母に預けて観に来てよかった!」


 萩岡係長の妻・由香さんも大喜び。


「瀬戸君の彼女は、初めてですね」


 黒田社長が話しかけたのは、瀬戸さんの隣に座っている結衣さん。元気な瀬戸さんとは対照的な、静かで落ち着いた雰囲気の女性ひとだ。


「何年付き合ってるの?」


「学生の時からだから……十二年」


 瀬戸さんの返事に、みんなはどよめいた。


「長いねー。なんで結婚してないわけ?」


「……タイミング、かな」


 瀬戸さんが結衣さんを見ると、彼女は頷いた。


「そうね」


「あ、でもするんで。結婚。来月に」


 さらっと自然な瀬戸さんの発言。また私たちはどよめいた。そして祝福。


 いいな。二人はとてもお似合いだ。ずっと同じ人と十二年も付き合うって、どんな感じだったんだろう。


「さて」


 空になった缶を足元に置き、黒田社長が言った。


「最後に一曲演って、しめにしよう。とてもいい夜だった」


「……ここでですか? 周りに人、いますけど」


 三田村さんは相変わらず冷静。


「いいじゃないか、たまにはこういうのも」


 みんなが楽器を組み立て始める。


「何弾きますか?」と瀬戸さん。


「ミズモリケントの『好き』、どうですか?」


 KSJCの歌謡曲レパートリーの中では、私はこの曲が一番好きだ。それに、夜の公園で演奏するならこの曲がぴったりな気がした。


「僕もミズモリケントがいいな。妻に聴いてもらいたい」


「じゃあ、決まりだな」


「飯倉さんは、何を叩く?」と夏目先生。ドラムはナインのを借りたので、私が持っているのはスティックだけだ。


「……この辺でいいかな」


 腰かけていた石段を、試しに叩いてみる。カツカツ、といい音がした。

 


 明るい、それでいて切なさを感じさせる旋律が、じっとりした湿気をかきわけて、夜の公園を流れていく。


 通りすがりの会社員や若いカップル、ジョギング中の男性が足を止めたが、みんな、かまわず演奏を続けた。


 私達の体にまとわりついていたライブの熱気が、徐々にほどけていった。



(続く)

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