「邂逅か遭遇か、対峙か対面か」

【神童】ルックス・ペンドラゴン。

 五人の大魔術師の中では一番の若輩者であるが、五人に数えられるほどの実力を備えた才児で、周囲から天才と呼ばれ続けてきた魔術の神童。

 幼い頃から虫の標本を集めることを好み、その収集癖が魔物や神獣と呼ばれる動植物にまで達した今、彼は一流のハンターとして名が通っていた。

 どこの国かはわからないが、災禍の討伐を彼に依頼したのは当然と言える。

 彼の最大にして最後の目標は、この世に蔓延るすべての災禍と呼ばれる者を捕獲し、標本を作るという狂気の果てなのだから。

 国からの依頼とあれば、正当な理由を持って狩ることができる。

 その過程で、他国にどのような被害が齎されようとも関係はない。

 彼は目的のためならば、【外道】と呼ばれた博士よりも冷酷に、非情になることができる人間だった。

 そして今、そんな【神童】と災禍の戦いに巻き込まれた億単位の人々が住まう国が、滅びようとしていた。

 一時間と経たずに数万単位の人間が死に絶え、恐怖と絶望が渦巻く混沌へと引きずり込まれた国はもはや、再興の目処などない。

 ただ戦いに巻き込まれ、滅びていくだけである。

 人々の怒りと、悲しみに満ちた声が、絶叫が、泣きじゃくる声が、国中を埋め尽くす。

 ただ巻き込まれただけで国が滅び、自分達の命が脅かされる理不尽を嘆き、喚くことしかできないことに怒りを感じながら、自分達の無力を呪って泣き続ける。

 それらの声など一切無視して【神童】と災禍の戦いは、ますます激化していくばかりであった。

「飽きてきた……さっさと死んでくれないかな、君。いい加減、僕飽きてきたんだけど」

「ならば攻撃をやめるがいい。我は汝の攻撃を防いでいるに過ぎず。汝の攻撃が、我に行動させているのだから」

「わからないかなぁ。君は無抵抗のまま死んでくれって言ってるのさ!」

【神童】の使う魔術はハンターとはいえ、捕獲の技能に寄っているわけではない。

 むしろ相手を弱らせ、殺すために破壊力のある魔術ばかりを会得しており、周囲への被害は甚大ではない。

 初級にして下級の魔術でさえ、彼が使えば大火事すら引き起こす。

 むしろ彼の方が、生ける災害としては相応しいのかもしれない。

 しかし災禍の放つ漆黒の波動――瘴気もまた人間達の生気を奪い、狂乱させ、殺し合いをさせる災害と呼んで間違いなく、彼らが戦いを繰り広げるそこはもはや戦場ですらない。

 死体の製造工場と比喩しても構わないほどの、命を奪う場所だ。それでいて極楽ですらない、苦しみのみが続くばかりの地獄。

 本来その地獄から人々を救うために存在する五人の魔術師の一人が、その地獄を作り出す要因となっているのだから、本末転倒と言わざるを得ない。

 子供の絶叫が響き渡る。

 側に倒れ伏している父親の首から上は存在せず、母親は自らの夫の首を抉り切ったナイフ片手に狂乱し、暴れている。

 災禍から受けた瘴気に耐え切れず、血涙を流しながらナイフを振り回し、口の中の粘膜を吐き散らしながら叫び続ける様は、もはや人間をやめた怪物の様。

 自らの夫を手にかけたことなどわかっているはずもなく、ただ一心不乱に目の前の何かと戦い続けている。

 それが、愛する家族を守るために行われていることだというのに、その結果すでに一人、愛する夫を殺す結果に繋がっているとはなんという皮肉だろうか。

 もしも意識を取り戻したとき、彼女は夫の死を知って自ら首を斬るかもしれない。

 愛する子供を残して、絶望に打ちひしがれたまま。

 その結果を見越して、黒髪は彼女を問答無用で斬り捨てた。

 両腕を斬り落とし、さらに心臓に一太刀。

 黒髪の握る黒い刀身の刀は、容赦なく女を斬り殺す。

 突然のことで呆然としている少女に歩み寄った黒髪は、母親の血で濡れた刀を払って、少女に問いかけた。

「生きたいか、死にたいか。好きな方を選ぶがいいでござんす。拙はただ、刃を振るうのみ」

「――」

「……御意」

 語彙が足りない。

 オレンジの頭の中の語彙を集結させても、この地獄絵図を表現する言葉が見つからない。

 それこそ、阿鼻叫喚とでも簡潔に言えてしまうこの状況を、彼女はその言葉一つで片付けることを躊躇った。

 それほどまでに彼女の目の前で広がる地獄は形容しがたく、比喩の表現で片付けられない惨状として映ったことは間違いない。

 自ら数十人の規模の人間を殺し尽した少女でさえ、億単位の人間が次々と死んでいく光景を目にすれば、言葉を失う。

 それは未だ、この人間とも言い切れない記憶喪失の人型少女の中に、人間持つ道徳的価値観が残っている証拠と言えて、【外道】と呼ばれる博士とはまだ、進んでいる道が違うことを差していたのかもしれない。

 そのことに青髪は少し安堵を覚えて、オレンジと共に人々の救出作業に務めていた。

 役割としては赤髪と緑髪、金髪の三人で【神童】とレキエムの戦いを仲裁。

 青髪、紫髪、銀髪、オレンジの四人で人民の避難誘導。

 そして黒髪が一人で、狂気に堕ちた人間の処理という適材適所に落ち着いていた。

 博士は戦場に降りるや否や、全員に役割を与えるとどこかへ消えてしまった。

 去り際にオレンジが行き先を尋ねたが、「仕事を全うするんだヨ」としか答えてくれず、結局欲しい回答は貰えなかった。

 それでもなんとか多くの人を救おうと、オレンジも拙い言葉で避難誘導に必死に務める。

 少女の呼びかけに応えてというよりも、とにかく訪れる幸運のすべてに縋るような気分で、人々はホムンクルスと少女の誘導に従って走る。

 二人の戦いの余波で生じる破壊から、銀髪と紫髪が人民を守る。

 このとき初めて、オレンジは二人の使う魔術を見た。

 銀髪の袖から大量に舞い出る白銀の花弁。それらが降りかかる残骸を微塵に砕き、刻み、文字通りの細かな塵に変える。

 花弁の形をした無数の刃が、銀髪の指の動きに合わせて舞い、人々を守る。

 そして紫髪はと言えば銀髪同様に袖から物を出したが、それは銀髪の花弁とは打って変わって巨大な大鎌。

 紫色の柄に血色の刃がついた巨大な鎌を、紫髪はその細い腕で振り回す。

 一体どこにそんな力があるのかと思えるくらい鈍重な鎌を軽々と振り回し、襲い掛かる脅威を真っ二つに両断する様は、まるで死神のようだった。

「オレンジ軍曹! 青髪大将! 我々二人が皆の護衛に回る! 早く避難を!」

「わかった! 二人共気を付けて! 赤髪も緑髪も、多分こっちに気なんて回してらんない! あの二人の攻撃まで飛び火してくるよ!」

「了解であります!」

 紫髪も無言で頷く。

 二人が人民の護衛に移ったことで、青髪とオレンジの負担は少しだが減った。

 何せ飛んでくる火の粉を一々気にしなくていいのだから。

 お互いに自己防衛の術は持っているが、他の人も守るとなると話は変わる。

 さらにオレンジに至っては未だ自分の実力の底すらわかっておらず、使い方もままならないことに変わりなく、彼女自身戦いたいとは思っていなかった。

 と、同時に赤髪と緑髪、金髪の三人が仲裁のために参戦したようだ。

 赤髪の魔術で火柱が上がり、その中で緑色の閃光を放つ矢が駆け抜けていくのが遠くからでも見える。

 しかしその中でもはっきりと見えるのは、漆黒に燃え上がる炎のように舞う瘴気。

 いつかの巨人を焼いたときの赤髪の火柱よりも巨大で、強大に見えるその力の根源が、オレンジの体の奥の方でざわつかせる。

 見えもしない。聞こえもしない。

 だがオレンジの心の奥底で、何か響くものを感じてならない。

 博士の言う、好奇心のようなものだろうかと、オレンジの足は一瞬そちらに向かおうとする。

 だが心の奥底から溢れ出る恐怖のようなものが、その足を竦ませる。

 一歩出してしまえば、後は容易く進めそうなものを、その一歩が踏み出せない。

 いや、確実に踏み出さなくていい一歩だ。

 踏み出せばおそらく、自分は死んでしまう。目に見えるだけの濃い漆黒の瘴気が、それを物語っているように思えてならない。

 だが同時、漆黒の瘴気を放つ得体の知れない災禍に誘われているような気もする。

 深く広がる闇の中から、手招きをされているような感覚。

 得体は知れない。だが、呼んでいるような気がしてならない。

 助けてと、呼ばれている気がしてならない。

「どうしたの、オレンジ! そっちに行っちゃダメだよ!」

 声がする。

 助けてと。

 誰か、そこにいるのかと。

 オレンジの足は今一歩、ゆっくりと踏み出された。

「緑髪! 災禍を向こうに行かせちゃダメなの、わかってるわよね!」

「わかっている! だが、あの才児が邪魔だ! 金髪、押さえ込めないか!」

「や、やって、みてる、け、ど……」

「邪魔邪魔邪魔ぁ!」

 波動のような衝撃波が、三人を一挙に吹き飛ばす。

 その奥の災禍だけが、その衝撃波を両腕の一掻きで振り払い、その場にとどまっていた。

「おまえら誰だよ、邪魔すんなよ! これは国からの正式な依頼だぞ! 災禍を捕まえることの何が悪いって言うんだ! その結果国の一つや二つ滅ぼうが、世界が救われればそれで充分だろ?!」

 長く、鎖のようなものが伸びる。

 災禍の両腕と両脚を捕まえると全身に絡みつき、捕まえる。

 直後に流れる雷電が災禍に苦悶の表情をさせるが、すぐさま引き千切られた。

 三つの右眼が【神童】を捉えて、漆黒の瘴気を走らせる。

【神童】もまた、やり返すかのように両腕で瘴気を振り払ったが、彼の額から滲みだした汗が頬を伝って顎から滴り落ちた。

 例え瘴気に耐えられると言っても、限度がある。

 盾や鎧に劣化が存在するように、五人の魔術師に数えられる【神童】とて、長時間瘴気に当てられて耐えられるはずはないのだ。

 だからこそ、さっさと捕まえてしまいたいという意味合いもある。

 彼は元々短気な性格だが、災禍の放つ瘴気の存在も合わさって、この場合は焦っていたというのが正しかった。

 故に冷静さを欠いて、周囲を巻き込んでまでの大規模戦闘に移行した。

 大規模な魔術を連続で叩きこめば、すぐさま決着が付くだろうという浅はかな計算の元、この惨状は引き起こされたのである。

 彼が天才であるが故、まさかそんな短絡的な思考からこのようなことになっているなど、誰も疑っていない。

 故に彼としても好都合だったのだが、余りにも自己中心的に過ぎた。

 人の目をごまかし続けるにも、限界がある。

 ましてやこの男は見逃さない。人の理から外れた外道には、同じ外道の考えが容易に、手に取るようにわかる。

 それこそ今、彼の背後に聳えるように立ち尽くす【外道】の魔術師からしてみれば――

「つまりこの国は、世界を救うための貴い犠牲、というわけかネ? 周囲にもてはやされただけの小僧が、調子に乗ってるんじゃあないヨ!」

 一発。

 一発だ。

 災禍と共に相手にしていたとはいえ、赤、緑、金の三人のホムンクルスが総出でかかって押さえ込めなかった魔術師を、鉄拳一発で沈黙させてしまった。

 今の一瞬に瞬発力、膂力を含めた肉体強化と風と雷の魔術陣を何重にも己に掛けて、一発の拳を対城爆破兵器並の威力に底上げしたことなど、彼女達にはわからない。

 そもそも理解させるような速度で、博士は魔術を起動していなかった。

【神童】と謳われ続けてきた天才児ですら、理解の追いつかない領域の鉄拳が叩きこまれて、災厄の元凶たる片方はあっけなく沈黙したのだった。

「まったく情けない。この程度の奴に手間取ってるんじゃないヨ。おまえら普段何を相手にしているのだネ? これを抑える程度のことに時間をかけ過ぎだヨ。私はそんな風に作った覚えはない」

「だ、だけど博士! こっちは災禍もまとめて相手にしてるのよ?! 大体、それなら最初からあんたがやればよかったじゃない!」

「おまえの頭を単細胞にした覚えもないヨ。緑髪と金髪でこの若いのを抑え、災禍はおまえ一人で抑えられただろう。そもそも私は時間を稼げと命じたはずだが? 命令も碌に覚えられないほど性能が落ちたか。あぁヤだヤだ。今更旧式のメンテナンスに時間をかけてる暇なんてないんだよこっちは。いつになったら一人前になるんだネ」

「わ、悪かったわね! 調整なんてしなくてもらわなくても結構よ!」

「元よりそう作ってるんだヨ。まったく……やっぱりまだ――」

 博士は目を疑った。

 何せそこにはいるはずのないオレンジが、トコトコと走って来ていたからだ。

 見ると、狂気に駆られた少年に追われている。

 少年はくわを振り回していて、近付けない。

 黒髪の処理が間に合っていないところに、オレンジが駆けつけてしまったか。

 博士は舌打ちをして、助けに行こうとして――やめた。

「あの子――!」

「動くんじゃない!」

 珍しく、博士が大声を張り上げる。

 思わず止まった三人は、すぐさま博士の意図を悟ったものの、それでも助けに行こうとする姿勢を見せた瞬間に、博士に睨まれて戦慄し、止めさせられた。

「黙って見てナ」

 鍬を振り回す少年を相手に、オレンジは困惑していた。

 最初は倒壊していた建物の間に挟まれていた少年を助けただけだったのだが、すぐさまその少年の目つきが変わり、血涙を溢れさせたかと思えばいきなり鍬を手に襲い掛かって来たのだ。

 以前殺した警官と違って、相手は子供。

 しかも明らかに様子が違う。

 彼はすでに遅いと切り捨てるべきか、それとも両腕をへし折ってでも助けるべきか――

 迷走していたオレンジだったが、その回答は間に合わなかった。

 オレンジが答えを出すよりも早く、少年が黒炎に焼かれて死滅したからである。

 突然のことに驚き、その場で硬直するオレンジの目の前にそれはゆっくりと現れる。

 少年を狂わせ、燃やした存在であり、この国を今崩壊に導いている力の発端の一角たる、世界に災禍と呼ばれる存在、レキエムが。

「フム、やはり未熟児では我が近付くだけで魔力に焼かれるか。いや、子供、と呼ぶのだったかな。我にもそんな時期はあったが、思い出せぬ、思い出せぬ……」

「あ、の……」

「うん?」

 博士は目蓋を引ん剝くくらいに見開いて、二人が顔を合わせた瞬間を目の当たりにした。

 邂逅か。遭遇か。対峙か。対面か。

 この出会いは、果たしてどの方向に導かれるのか。

 少なくとも、オレンジがレキエムを目の前にして狂乱しない時点で、普通の状況でないことは確かである。

 彼ら二人の出会いがどの確率に傾くのか、博士の興味はそこに注がれていた。

「汝……この距離で我を目の前にして、狂気に支配されぬのだな」

「……」

「いや、やっとというところか。口も利かず、自身を鼓舞し続けなければ自己を維持できないほどか弱い存在。やはり人では、我と語らうことすら難しい」

「……あなた、ですか?」

「何?」

「ずっと、ずっと、ここに来てからずっと、助けてと呼んでいたのは、あなた、ですか?」

 沈黙に支配される二人の空間。

 少年だったものが焼ける音だけが、二人の間の静謐で響いている。

 その静謐を破ったのは、レキエムのか細い問いかけだった。

「汝、我の……声が聞こえたのか?」

 オレンジは理解し切れていない。

 レキエムもまた、理解が追いついていない。

 だが彼の中では何か、衝撃が走ったに違いない。

 しきりに首を横に振り、驚愕しているように見える。

「汝、名は……」

「オレンジと、今はそう呼ばれています」

「オレンジ……そうか、さては汝が外道の魔術師の下に来たという……汝、私の声を、どう思う。私の声は、汝にはどう、聞こえている……」

 一拍、オレンジは間を置くように口を結ぶ。

 そして少し考えるように上を見上げて、答えを紡ぎ出した。

「私は、実際に聞いたことはありません。ですが、私は思うのです……まるで眠りに誘うための、子守歌のような声音だと。その声がもしも歌を歌えば、私はきっと、満たされたまま、明日起きるために眠るでしょう」

「詩人なのだな……汝は」

 そのとき、博士とホムンクルスは驚愕の物を目にした。

 それはただの雫。ただの塩の混じった体液。

 だがそれが災禍と呼ばれる怪物の目から、レキエムの目から涙として流れていることに、深い意味が存在していることに、オレンジは理解などできていない。

 災禍レキエムが、感情のままに泣いているところなど、人類史上初めて観測したかもしれない。そんなことも、オレンジにはわからない。

「あ、あの……」

「あぁ、すまぬ。困らせたか。しかし許せ。私は今、数十年ぶりの賛美に興奮している」

「そう、なのですか?」

「だってそうだろう。我の声は鎮魂歌レクイエムと呼ばれ、そこからレキエムと呼ばれた災禍なるぞ。それが子守歌などと……安らかに、ただ明日を迎えるためだけの歌と言われたのだぞ。これが賛美でなくてなんだ。素晴らしい称賛だ」

「よく、わからない、です……けど、私はまだ、嘘を付けないと、思うから……だから、嘘はついてません。あなたの声はとても、とても、安心します」

 そんなことがあるのか。あっていいのか。

 博士はそれこそ己の目を疑う。今までに費やしてきた研究のすべてを疑う。

 交わす会話の内容こそ聞こえない距離だが、ただの言葉が、災禍レキエムを殺している。

 いや、表現としては正しくはないか。

 正しくは、だ。

 今まで考えたことがなかった。それを消し去る方法など。

 魚を採るために海に長時間潜る方法を模索する者がいたとして、海を消し去る方法を考える愚か者がいるか。要はそういうことだ。

 あり得ない。あり得るはずがない。

 だが目の前で起こっているこれは、博士の今までの研究成果のすべてを否定し、同時に新たな可能性を示すものだった。

「少女――いや、オレンジ。あって間もない我らであるが、一つ頼まれてはくれまいか」

「はい」

「これからも度々、私に会いに来てはくれまいか。私と話をしてはくれまいか。私は、もっと……其方と話したい」

「私で、いいのですか?」

「其方が、いいのだ」

 これは邂逅か、遭遇か。

 対峙か、対面か。

 要は奇跡へと繋がるか、絶望へと繋がるかの話だ。

 これは希望か果たして絶望か。

 この日災禍と呼ばれるレキエムは、自分の声を賛美した少女に、恋をした。

「はい。私も、もっと、貴方様とお話をしてみたいです」

「……そうか、よかった」

 オレンジはまだ、理解が届いていない。

 これが世界をどれだけ揺るがすことなのか。

 世界を震撼させる大事件であることは違いない。

 災禍に見初められ、災禍の力を打ち消す少女の誕生はまるで、選定の剣を抜いた伝説の王の登場の如く、世界に轟く奇跡との邂逅であり、彼女を失った場合の災禍の暴走をも考慮しなければならない絶望への遭遇でもあった。

 そんな、大事にまで発展するようなことであるなどと、やはりオレンジは、理解していなかった。

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