第4話/お酒


     4.


 吐前はんざき弓削ゆげちゃん。

 花宴学園初等部四年二組。

『丁度わたしが受け持っているクラスの生徒ね!』

 仕事を終え、自宅に帰ってから由々さんの電話をした。

 周々木校長は、由々さんを調べやすいように四年二組の臨時副担任として任命させてある。

「…………? ひょっとしてお酒入ってます?」

『あれ、よくわかったね。そうだよ、先生たちと飲み会があったの』

 道理で、普段よりテンションが高いわけだ。

 ダウナーとまでは言わないにしても、テンションのアップダウンが極めて平坦な人なのに。

「あ、今、電話大丈夫なんですか?」

『うーん! 大丈夫~! わたしはもう家に帰ってるからー』

 由々さんの家というのは、市瀬探偵事務所のひと部屋である。職場と自宅の行き来が面倒という理由らしい。

「吐前弓削ちゃんって、どんな子なんですか?」

『すっごく! 暗い子だよ』

 どんだけ暗いんだよ。

「暗い――いじめとか、そういうのはないんですか?」

『なーいよ、担任の陶山すやま先生はそういうのがあっても、目を瞑る感じの先生だけど――少なくともいじめってことはない。でも、すごーく暗い子だよ。特徴はツインテールで、目に入りそうなくらいの前髪だね。その子がどうしたの?』

「いえ、まるで、何かに取り憑かれたように歩いているって話を聞いたものですから」

『ふうむ。なるほどねー……』

 …………。

 …………。

 しばらくの沈黙があって、

『……ああ、駄目だ。頭が回らない!』

 と言った。普段じゃ聞けそうにない駄々っ子が入った感じの喋り方だ。

 幼児退行している……。

『やっぱりお酒って駄目。苦手ね。吐前ちゃんのことはまた明日に。ごめんね、川原くん。わたし、服着て寝るわ』

 と言って電話を切られた。



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