第9話/市瀬由々さんは語る


     9.


 どうやら川原くんによると、今回の件には牛女もいたらしい。わたしは怪異や妖怪を見ることはできないけど、川原くんは見ることができる。同時に好かれやすい。好かれやすくて、呪われにくい。この辺りの話はまたする機会があるだろう。そのときまで置いておくことにする。

 まずは『くだん』に関しての話をしようと思う。

 第二次世界大戦という凶事によって生まれた『くだん』は、避雷針として用意された『村にとっての凶事』を予言し回避したことで死亡した。

 だが、この『くだん』を用いていた信仰は続いていた。神様として存在した『くだん』なんて、とっくに死に絶えているというのに。

 ただの妖怪を神様にするという凶事を前にして、牛女が生まれた。牛面で人語を話せない女。これは『くだん』の一種である。牛女は八十年かけて、『くだん』信仰を戦った。

 その結果が、あの村だった。

 このわたし、市瀬由々は牛女の話に対して思うところがある。川原くんが語った通りの存在が、まさに牛女なわけだけど、このわたしに言わせてもらえば、牛女はやや盛り過ぎた怪異譚である。

 牛女が最初に――ああ、今から言う牛女というのは、あの総角村に生まれた牛女ではなく、ベースとなっているほうの牛女である。

 語られる牛女の怪異譚は、極めてシンプルである。第二次世界大戦の渦中に発見されたという牛女。死体を食べる牛面で人語を発せられない女が発見されたのだという。

 わたしが思うにこれってさ。

 普通に不細工ぶさいくな人間ってだけじゃないの?



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