第7話/木乃伊の過去


     7.


「結局のところ、今回の仕事って何だったのですか?」

 自動車に乗り込んで村を出る。

 乾き枯れた土の道を、がたがたと走る。

「わたしたちの仕事は『くだん』の死亡を確認することにあったのよ。『くだん』が生まれたという情報が残っていて、尚且つ、死亡の確認がされていない『くだん』の調査よ。ああやって木乃伊を確認したことで、今回の仕事は終わったのよ」

「そういうことですか」

『くだん』は、人語を喋る妖怪だ。予言を告げる怪異だ。それは生きていて、初めてできることである。木乃伊と化し、死んでしまった『くだん』には、もう何もできない――僕は助手席から後部座席を見る。そこには匣がある。木乃伊となった『くだん』が納められた、そこにはいる。

「…………!」

 このとき、自動車の後ろの窓から見えた景色。その景色の中に、まるで木乃伊のように干涸ひからびた村人がいるのを見つけた。それは老婆だった。

 由々さんは、自動車を止めることなく、そのまま走らせて村を出る。

「――――」

「…………? どうしたの? 川原くん」

 視線を戻して、『――いえ』と呟いた。あの老婆に、僕たちができることなんてもう何もないのだから。むしろ、何をされるかわからない。何もしないに超したことはないだろう。もう、この村は滅んでいるのだから。

「…………あ、ひょっとして、ダム建設の件ってこの『くだん』と関係しているのですか?」

「意外に鋭いね、その通り、ダム建設は『くだん』を殺すために立案された計画よ。元々は第二次世界大戦を起因として生まれてきた『くだん』たちに対して、別の凶事をぶつけさせる。その凶事に対して『くだん』は役目を全うする――口割け女に対する鼈甲飴べっこうあめや、紫の鏡に対する水色の鏡みたいな対策法よ」

 第二次世界大戦時に生まれてきた『くだん』たち――予言を告げる『くだん』を仕留めるために、手は下された。本当にすべてが滅びたのかを確認するのが、今回の仕事だった――後部座席にいる木乃伊は、そのうちの一体だ。

「『くだん』を滅ぼしたのって、誰なんですか?」

 誰というよりも、『どこ』のほうが正しいか。

 僕の素朴な疑問に、由々さんは答える。

「『国』よ。それも、わたしたちが住まうこの日本が、『くだん』を自滅させたのよ」

「……もし、もしもですよ。凶事を全うすることなく、『くだん』が生き残っていれば、第二次世界大戦の命運も変わっていたんじゃないですか?」

「どうなんだろうね――少なくとも、当時の『国』は、『くだん』なる存在に対してリスクが大きいと判断したのでしょうね。予言は、必ずしもいい方向に物事を運ぶわけじゃない。告げていいことと告げられては困ることがある――そうじゃなきゃ、検閲に焚書なんてされていないでしょう?」

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