第6話/厄災を告げる


     6.


 土着信仰の類いだったのだろう。かつてダムに沈んだ村。そこで『くだん』が生まれた。この『くだん』の予言を聞いて、村人は過ごしてきた。そんなある日のことだった――『くだん』は、村の崩壊を告げた。すぐにダム建設の話は村にきた。この予言を聞いていた村人は既に転居の準備をしていた。できていた。

 こうして村人は別の地に移った。

 転居先で土着信仰の再開は画策されていた――が、できなかった。突然発生した『くだん』は、突然死去した。

 それもそうだ。

『くだん』とは凶事の前兆として生まれてくる怪異だ。その凶報を告げることが『くだん』の役割だ。その凶事が済めば死亡する怪異だ。

 これを知らなかった。

 これでも焦ったのは『くだん』を所有して、土着信仰を行っていた家の連中だった。

 これでは、村人から採取が途絶えてしまう。

 いいや、『くだん』を死なせてしまったと責められるだろう。これを恐れた。

 だから――偽った。偽り続けた。

 これは、およそ。その後は幾度となく、場所を変えて移動を続けた。

 外部からの干渉を受けないように、と。

 時代も時代だった。

 第二次世界大戦が終わり、冷戦期に入った頃の出来事だった。それから少しずつ、この村は衰退していった。

 反映は衰えるし、信仰と銘打った採取はとどまることなかった――と、市瀬由々は語る。

 転居を繰り返して、行き着いた先がこの村――総角村がダムに沈んで、転居し、転居し、転居し、転居した先がこの村。この村で最も大きい屋敷を調べた末に、僕たちは地下室にまでやってきた。何もないがらんどう。そんな地下室にある唯一。祠のようなものがあり、上々なはこまつられている――由々さんは匣を開ける。そこには両手で抱えられるほどの木乃伊みいらが納められていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る