第5話/土着信仰


     5.


 屋敷を闊歩かっぽしていてわかったことがあった。先刻発見したような骨だけの死体は一体だけではなかった。屋敷の至るところに転がっていて、散乱していて、腐乱していた。この屋敷が、これほどまでに荒れている理由もわかった。

「きっと、この村にいる――いた人間の仕業ね。正確には、殺し合ったという感じかしらね」

「…………」

「それにかなり時間が経過している。ひょっとしたら、この村は完全に全滅しているのかもしれないわね」

「それは、その『くだん』のせいなんですか?」

「いいえ、違うわね。『くだん』はあくまでも、話をするだけで、人を殺すようなことはしない。でも、原因は間違いなく『くだん』にある。『くだん』を前にした人間はこうなってしまうのよ」

「どういうことですか?」

「この村の人たちは、『くだん』を神様として信仰していた。そして『くだん』は人語を話して予言する妖怪。加えて、この屋敷の人間が『くだん』を手中に納めていたとするなら、なんとなく見えてくるんじゃないの?」

「……『くだん』を巡って、村人同士でぶつかったということですか?」

「それじゃ六十点ね。じゃあね、『くだん』はとしたらどうかしら?」

「え、それじゃあ――」

「そう、村人は――存在しない存在を信仰していた。そして、この屋敷の人間は『くだん』の死亡を隠匿いんとくしていた。でも、村人は『くだん』の死亡には気づかない。ここから導き出される答えは唯一よね?」



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