若し天下をして兼て相愛し、人を愛すること其の身を愛するが若くなら使めば、猶お不孝の者有るか
「手短に、俺を取り巻く現状について説明してくれ」
まず、口を開いた。
鉄の扉を閉ざし、音も光も漏れないようにする。
モニターは静かに文字を打ち込んだ。
《当
当
当
当
当
当
「わかった、今この街がどうなっているのか」
《ニャバン市は北部ヤシマ諸島暫定政府戦略軍から核攻撃を受けました。現在の最高放射線量は500mSv/h、健康被害の可能性があります
現在ニャバン市人口は306,798人です》
ふむ。限られた時間の中で、情報を獲得する。
ニャバンというのは、核攻撃を受けたこの都市のことか。内心でうなづいた。
直後、脳内にまたけたたましくビープ音が響き渡る。
侵入者を感知したことを知らせる赤色のテロップがモニターを流れさり、地下壕の中で動く1人分の人影を映した。
あくまでも侵入者、敵であると見定めたうえで。
《当
可及的速やかな軍備を推奨します
当
現時点で正確な調査は不可能です
現時点で確認された情報をディスプレイに投影します》
黒髪の少女の仏頂面をとらえた写真を囲むように、大量の文字が出てくる。
《国籍は東瀛民主主義人民共和国、東洋鬼族。武装組織への加入は無し》
あくまでも信用するなということか。ちっと舌打ちして、続けた。
「東洋鬼っていうのは……亜人? ヤオが言う限りヒトなんだったか」
《ホモ・サピエンスの亜種です。外見的特徴として頭部表皮の異形成。具体的には角化層の肥厚、不全角化を伴う皮角を保持します》
頭に角を持つ男女の写真のようなものが画面に映し出される。
百科事典でも映し出しているかのように、わかりやすくとても読みにくい文字の列が並んでいるのを横目に、はあ。とため息をついた。
「……やっぱり、お前は気に入らない」
理不尽に連れてきて、何の説明もなしに、足りない説明で補おうとする。
俺が聞かないと何も答えない。何も説明しない。そんな無感情な声と文字が、気に入らない。
重い鋼鉄の銃火器を肩にかけていたスリングごとはずして、乱暴に地面に投げ捨ててやる。
もう戻ってこないと誓って、黒い拳銃を投げた。
ざりと音を立てて落下した鉄の群れ。まさに肩の荷が下りたよう。
それを見たのか、モニターがまた動いた。
《当
「この期に及んでか」
腹立たしげに、問いただす。
「解析してどうなるのかを説明してくれ」
《詳細な情報を獲得できます。また、占有者が国有化を承認すれば物権の承継取得を経て当
また一定のエネルギーを使用して同種の物体を製造することができます
当
「つまりダンジョンの管理下に置かれるということか」
ふむ。
意識せず、顎に手をやる。それが本当なら、ダンジョンとしては良い資産となるだろう。
――――だが、恐らくここに来ることはない。そう考えて、この銃火器を置いていくことにした。
モニターにうつる承認の表示に手を伸ばし、これを押してやる。
《国家元首の承認を確認しました。承継取得を行います》
緑色のプログレスバーがちらちらと動く。ブルーライトに照らされた6丁の銃が、ただ静かに砂の上に転がる。
国有化に成功しました。ポンと軽やかなポップ音とともに、メッセージがモニター上に踊る。
それを見届けてから、俺はモニターに背を向けるように踵を返した。
「最後に聞かせてくれ」
鋼の扉に手をかけて、尋ねる。
「つまり、俺の使命はなんなんだ」
《当
そうかよ。呟いて、乱暴に閉めた
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