私達から離れてゆくこの人々の重荷をすべて取り去り、天に備えられた住処に導き、聖人の集いに加えてください。
「
「…………本当に東瀛人民じゃないんですね」
ヤオと名乗った少女は、長い銃をよいしょと背負いなおして言った。
暗い雲の下、夜か昼かも分からない雨が降り続く。石の教会も、無残にも半壊した為か雨宿りには耐えられていない。
「
「……すみません」
まあ良いです。ヤオは市松模様の頭巾を整え、重そうな革の鞄を手に提げる。
緑色の人民服、背負った銃と合わさって、どこか不安定に思える背格好。民兵か女性兵士と言っても疑われることはないだろう。
まるでもともとそういう出で立ちを想定したかのように、その武骨な装束は銃と良く似合っていた。
「これからどうするんですか?」
「俺は……」
どうしようか。
勢いと怒りにまかせて核の雲の下に出てきたものの、その後のことは何も考えていなかった。
「私は他の
「他のってことは、教会のなかの人だけじゃないのか」
「そりゃまあ……一つの民族ですから」
この街にも、何万人かくらいは住んでいたと思います。
ヤオはぽつりと呟いた。
角を持つ種族というものがマイノリティであることを言外に示す。
はあ。小さくため息をつくと、ふと思い立ったように零す。
「……まあ、そう考えると十中八九ワークワーク首長国の攻撃でしょうね」
「また国か……北部ヤシマ諸島ってのは?」
「ヤシマ諸島連合政府のことですか? それなら東瀛民主主義人民共和国の北西部にある諸島が版図の国家です。ワークワークは…………まあ、概ね東側。ワークワークではゴブリンが主な民族として存在していますから、私たちへのあたりも強いんですよ」
ほんとに何も知らないんですね。
蔑んだように一瞥して、教会から外へ足をふみだした。
手にした銃を重そうに保持する。肩を雨に濡らしながら、どこか遠くをしめした。
「この奥に大昔のトーチカがあるんです。そこに保管しておきましょう」
この風体はなんにせよ目立ちますからね。
教会の裏手に広がる森の奥――俺が来た道を指さして。
「あそこは……」
「トーチカです。……たぶん、
「いや、トーチカって言われても」
「まあ今までは専ら人民公社の倉庫代わりだったんじゃないですか。私は人民突撃隊じゃないので詳しくないんです」
今までは。かみしめるようにもう一度繰り返す。
「今ここがきのこ雲の下である以上、これからの事を考えなきゃいけません。
多分核攻撃から1週間以内に、きっと……きっと、すぐ東瀛人民軍が来ます。早ければ明日、明後日にでも連絡網は再生されるはずです。…………それまでに、どこかの人民公社に身を寄せておくのが賢明です」
「なるほど、武器や資料は機を見て渡すと」
こくり、頷く。
ヤオは荷物をもう一度持ち直すと、焼け焦げた扉の痕を振り返った。
何をする気だろうか。訊ねる暇もなく、静かに目をつぶった。
赤い表紙の聖書を片腕に保持したまま、銃と火薬に身体を纏わせながら。
「いつくしみ深い神である父よ」
徐に、口を開く。
厳かにも感じられる文句が、黒い雨の中に消えていく。
「別離の悲しみのうちにある私達も、主が約束された復活の希望に支えられますよう」
手を組み、神に祈るかのような体勢をとる。
元が教会だったのだろう廃屋に向かって、雨晒しの炭たちの冥福を願うかのように。
「あなたのもとに召された人々とともに、永遠の喜びを分かち合うことができますように」
どうか。
「……
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