今、宣戦の大詔を拝しまして、恐懼感激に堪えません

《飛翔体弾着。衝撃に備えて下さい》

「はぁ!?」


 機械音声が無機質に語る。俺は呆気にとられながらも、咄嗟にその場に蹲って頭を抱える。

 地震が来たか。と思えるくらいの衝撃が砂まみれの地面を揺らしたのは、その直後だった。


「な、なんだ!?」


 パラパラと砂が上から零れ落ちる。裸電球がちかちかと異常を知らせるように明滅する。

 ともすれば崩落するんじゃないかと思ってしまうほどの強い揺れ。けたたましいサイレンが頭の中に潜り込む。

 胃から何かを戻したくなるくらいに酷い縦揺れの直後、至近に雷でも落ちたかと思うような轟音が鉄の扉の向こう側から響いてきた。


《飛翔体、第二波弾着》


 モニターに赤いテロップが点滅し、どこかの海沿いを映したものとみられる白地図が映し出される。幾重もの同心円が白地図に書き込まれて、赤黄緑とカラフルに地図を彩っていく。

 まるで爆心地からの距離か何かでも測っているように、くるくると同心円は回った。


「モンスターとかが来たんじゃないのか!?」

《当陣地ダンジョン内に敵対者モンスターは確認できません。

 ジャイシュ・アルニャバン の位置を表示します

 東瀛前線兵士同盟 の位置を表示します。

 東瀛人民党中核赤軍 の位置を表示します

 東瀛人民突撃隊 の位置を表示します

 北部ヤシマ諸島陸軍 は探知圏内に存在しません

 北部ヤシマ諸島海軍 は探知圏内に存在しません

 北部ヤシマ諸島空軍 は探知圏内に存在しません

 北部ヤシマ諸島特殊作戦軍 は探知圏内に存在しません

 北部ヤシマ諸島戦略軍 は探知圏内に存在しません》


 俺の叫びに反応したのか、白地図にいくつかの光点がプロットされる。

 最も数が多いのは人民突撃隊なる集団。砂糖に群がる蟻くらいの密度でいくつかの箇所に集まっているのがわかる。

 残りの3つもそのすき間にそっと混ざり込むようにして集まっている。その構成員を一人一人プロットしているのか、その煩雑さはけた違いだ。


 ただし、その殆どは赤色か黄色の同心円上にのまれていた。


「……くそ、モンスターって言ってどっかの軍隊を表示し始めやがった」


 確かに侵入者って括りなら分からなくはないが。俺はちっと舌打ちして、頭を切り換える。

 この次はおおかたモンスターの召喚だとか罠だとかだろう。

 ただそれには、今何が起こっているのか把握しないといけない。


「おい、これは一体なにが」

《飛翔体、第三波弾着》


 起こっている。言いかけた途端、またドッと震動が襲いかかる。

 分厚そうな鉄の扉をガタガタとノックし続ける風も収まらないうち、白地図にぐるりと同心円が三度描かれた。


「状況を報告しろ!」

《熱線、爆風による損害軽微。当陣地ダンジョンの気密は保たれています》

「外部の状況だ、これは何がどうなってるのかと聞いているんだ」


 舌打ちが漏れる。苛立ちが混じる。

 モニターは数秒フリーズしたのち、文字列を打ち出した。


《外部カメラによる観測を開始します》


 最初からやれってんだ。俺はモニターに表示された外部カメラ……動画の中継のように端にRECとだけ書かれた暗闇を睨む。

 暗闇が取り払われ、真っ黒に染まった曇り空から差し込む薄ら暈けた日光がモニター越しに見える。白波を立てる海が崖の下に垣間見えた。

 カメラの位置をずらす。内陸の方を臨むように、白地図に描かれた同心円のほうを見つめるように。


「…………なんだよ、これ」


 そこにあったのは、墨よりも黒い雲。

 黒い粉塵が茎のように。天にまで昇る柱のように、その巨体を威圧的にみせる。

 大きく広範にわたって拡がった雲の下は赤く、大きく火の手が上がる。真っ赤な炎にまかれて、時計塔のような建物が崩れていった。


 それは、いつか教科書で見た“きのこ雲”そのもの。


《敵熱核兵器・・・・第四波弾着。衝撃に備えてください》


 もう一発。続けざまの衝撃が、一際酷くダンジョンを揺らした。

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