第6話「私は西大路陽菜(にしおおじひな)って言うよ。気軽に陽菜ちゃんと呼んでね」
個室の空間、ドアが開くと香川補佐はエレベーターから降りた。俺もそれについていく。
「着きましたよ。ここが彼女たちの住まいです」
ドアはいたって普通だった。ただ、ドアの横にある電子パネルは何だろうと思っていると、香川補佐は人差し指をかざし、目をパチリとパネルに合わせる。
『解除しました』と機械音が聞こえた。香川補佐はドアノブをひねり、ドアを開けた。
「鍵やカードキーじゃないんですね」
「それが普通じゃないです?あの子たちは特別だから、入る時には指紋認証、顔認証は必須なの。防犯目的、大体はストーカー対策が大きいですね。最近変な輩も多いようですし、それにアイドル達を傷つけないようにの保護ですね」
ドアを開けたら、中は真っ暗だった。
「あれ?誰も居ませんね?どこかに行っているんですかね?」
首をかしげながら、香川補佐に聞く。香川補佐は「はー」とため息を吐きながら、またかとばかりに頭を抱えた。
「大丈夫です。面白半分に隠れているだけです。街に出歩く際にはマネージャクラスの人と同行しないと出歩けないシステムになっているので」
アイドルってそんなに行動制限されるのか。少しばかり可哀そうになる。
「一般のアイドルだったら、そんな事はないのですが、彼女たちだけは特別なんです」
一体何が特別なんだろう?普通の女の子だと思うのだけど。まだ会ったことがないから分からないけれど。
立ち尽くしている俺をよそ見に、香川補佐は周囲を見渡して(にらみつけて)、壁を手で叩きながら叫んだ。
「こら!陽菜、怒らないから出てきなさい。あなたが主犯でしょう。前言ってたマネージャー連れてきたから早くしなさい」
まるで美人が台無しだ。目つきが怖いのは見た目で仕方ないとしても、まさに鬼のようだった。口では言えないけれど。それに中にいるのはアイドル、三人娘だぞ。いきなり大声で怒鳴ってもいいのだろうか。
ジトっとした目で香川補佐を見ていると、口を手でおおいながら、頬を通り越して耳まで赤く染めている香川補佐の姿があった。
「こう呼ばないと出てこないのです。本当はしたくはないのですが、仕方ありません」
そんな香川補佐を見つつ、玄関先から周囲を見渡すが、人の気配はない。
「本当に居るんですかね?人の気配はないみたいですし」
「(相変わらずうるさいわね。ここに居るわよ。安心しなさい)」
「え?気配はないのに声が聞こえてきた。誰だ」
きょろきょろと周囲を見渡す。香川補佐は冷静に部屋の電気をつける。
「(キャっ!まぶしい)」
ビーズクッションに座り、目をギュッとつぶりながら、スエットを着ている女の子がそこには居た。見た感じ、中学生ぽい印象。黒髪ツインテールの清純派だった。
その女の子は首をプイと傾けながら、口を閉ざしていたのだが……。
「(いきなり何するのよ。まぶしいじゃない。せっかく、驚かそうとサプライズで待っていたのに~~~~)」
え?喋ってないのに、声が聞こえて来た。こいつ、腹話術なんて出来るのかよ。アイドルって何でも出来るのかよ。
「プププ(腹話術じゃないよ。脳内で会話しているんだよ。手に人形なんて持ってないでしょう)」
その少女は人形の代わりに手にスマホを持っていた。カシャとカメラ音が聞こえた。少女はニコリと微笑みかけてくる。だけどいまだに声を聞いていない。声ぐらい出せよと思うね。
「ぷー(いいじゃん。めんどくさいし、会話出来るんだったらいいじゃんよー。あ、そうそう、私は西大路陽菜(にしおおじひな)って言うよ。中二かな。気軽に陽菜ちゃんと呼んでね)」
口を閉ざしながら、俺の脳内に向けて言った。どんな仕組みなのだろうか。腹話術じゃないと言いながら、本当のところはどうなんだろう。何かトリックはあるはずだけど。
ところどころ、疑問があるが、今は仕事しに来ているんだ。切り替えないと。
「それじゃ陽菜ちゃんは三人娘の一人であっているかい?プロデューサーとして担当になるんだけどね」
俺がそう言うと、香川補佐が陽菜に目を向けて言う。
「この方が久米島プロデューサー。前に言っていた方よ。主に世話役、マネージャー的な役割をやってくれると思うわ」
香川補佐は胸を張り上げて堂々と言った。しかし、陽菜はプイと首を傾けて、いきなり機嫌が曇り模様に変化していった。
「プイ(大きい胸を見せつけて、自慢のつもり?私もこれから大きくなるんだからね)」
おいおい。この会話は聞いても良かったのかよ。香川補佐は目のあたりに手を置き、ため息を吐いている。まるでいつもの事のようで、呆れているようだ。
ただ、おっぱいのことでは俺も物申したいことがある。
「おい、陽菜ちゃん。貧乳でもいいじゃないか。確かに美乳のおっぱいは最高だ。だけど、ロリっぽい子も素晴らしいと思うよ。んー。確か誰かが言った言葉があるんだけど、貧乳はステータスと言う素晴らしい言葉を君にプレゼントしよう。君の黒髪のツインテールによく似合ってるじゃないか。だから、自信を持ちなさい」
俺は気づいた時には、陽菜ちゃんに熱弁していた。むろん、香川補佐はえーって言いながら三歩ぐらい引いた感じの目で俺を見ていた。当の本人である陽菜は顔はもちろん、耳まで真っ赤にしながら、
「くそがーーーーーーーーー」
と言いながら、手に持っていたスマホをベットに投げた。
「初めて聞いたぜ。陽菜ちゃんの声」
俺は「ははは」と微笑みかける。陽菜は「プイ」とだけ言って、奥の部屋に入っていった。
大宮凛ちゃんには手が掛かる 誠二吾郎(まこじごろう) @shimashimao
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