第18話 麗しき聖女の秘密
怒りに震えながらドラゴンと傷だらけの魔女のもとへ近づくメアリに最早、聖女としての面影はない。
しかしその光景を目にしている広場の大衆は全く動揺している素振りを見せない。
いや、むしろ高揚している者までいる始末である。
「メアリ様!メアリ様!」
「神のお力を使う姿が見れるぞ」
「シスター… 神のご加護を」
ある者はひざまづき、ある者は十字架を頭につけて祈り、ある者は緊張のあまり失神していた。
この異様な雰囲気に違和感を持ったのはドラゴンだ。
自らに近づいてくるシスターに視線を向けて警戒している。
(神の力?このシスター自身が、魔法を使うのか)
〈コツコツコツ〉
メアリはドラゴンと一定の距離を保ったところで止まり、それと同時に大衆の声もピタリと止んだ。
まるで嵐の前の静けさのように、不気味で居心地の悪い空間である。
後ろに位置するビジューとレッドは、状況が把握できずに立ち尽くしていた。
そのような状況下で、メアリは右手を空に掲げて上を見ている。
「今日は良い満月ね。あの日のことを思い出して体が火照ってしまうわ」
急に笑い出すと、目を瞑り右手で十字を切った。
それを見たドラゴンは、目を細める。
「シスター。あんた急にどうしたんだ?」
少し笑みを浮かべ返すとそのまま右手を胸に当てて目を瞑り、言葉を続けた。
「来なさい… 息子よ」
ドラゴンの顔は歪んだ。
状況が全く理解できていない。
魔法なのか、兵器なのか、それとも単なる人間の息子なのか…発言の真意が不明だ。
一方で、ビジューもレッドも顔を歪ませたまま状況を理解しようとしている。
それもあってかレッドが何かに気づいたようである。
「変態ドラゴン。何かが近づいてる」
それを聞いたビジューは、腰に備え付けている剣に右手をかけた。
「ドラゴンさん!私も加勢する」
「いや、二人はじっとしていてくれ」
すると上空から大きな音が聞こえ始め、広場全体に響き渡る。
しかしながらその音は、恐怖を意味するものではなく神の音を意味するようだ。
広場の大衆はそれを聞いて涙を流しながら、膝をつけて十字を切っている。
〈ママァァァァァァア〉
と響き渡る音に向かって。
醜く歪んだ音を発しながら、上空から黒い塊が降ってきた。
〈〈ドガッ!〉〉
黒い塊は、非常に重く巨大で地上に着地する際に広場全体が振動させてしまったほどだ。
「なんだお前は?」
黒い塊を見たドラゴンは、口を開けて固まってしまった。
メアリの言っていた息子とは恐らく、魔法でもなければ兵器でもない。
3mもあろうかという巨躯をゆらしながらゆっくりと動く、その醜い姿はまさに魔人である。
そして再度、醜い音が広場に響く。
〈ドウシタノ?〉
「 あの男が、罪人である魔女を助けたのです」
メアリは悔しさを滲ませながら震える言葉で答える。
〈オマエカ…〉
一度は満月の明かりを遮るまでドラゴンに近づいたが、白く光る目をすぐに幼い魔女に向ける。
幼い魔女は未だに気絶しており横たわっていた。
しかし、呼吸はしっかりしているようで息をする音がかすかに聞こえる。まだ生きているのだ。
〈サキニ、マジョ、コロサナイト〉
魔人は大きな右腕を上に振りかざすと勢いよく魔女めがけて落とした。
〈ドガァ!〉
――大きな音が広場全体に響き渡る
が、その音の正体は魔女が叩き潰された音ではなくドラゴンが右手で受け止めた音である。
「お前の相手は、おれだろうが」
ドラゴンはしっかりと魔人の腕を受け止めていたのだ。
広場の喧騒がやむ…それを見た広場の大衆は口を開けて隣同士で目を合わせていた。
「メアリ様の使役する魔人では、歯が立たないのか」
「神様が、シスターに与えた魔人なのに」
「シスター… 負けちゃうの…」
大衆が目を下にむけ、自らが信じてきたものが砕かれるかもしれないという恐怖心に駆られている。
その中で、ステージの上にいる女の声が低く響き渡った。
「早く… 早くその魔女を殺せ」
シスターの顔からは笑顔が消え、血走った目と歪んだ口元が満月に照らし出される。
〈ママ…〉
「また私を囮にしたいの?」
――〈イヤダァァァァァア〉
魔人の咆哮はこれまでの中で一番大きい。
大衆の中には鼓膜が破裂して倒れ込んでしまった者も大勢いた。
「では… さっさと魔女を殺して」
聖女は鬼の形相で魔人に対して命令を下した。
無職ドラゴン〜おっさんが『SSS級のチートドラゴン』にジョブチェンジして世界を救う〜 山口 りんか @h_h_h_
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