聖女と魔女編

第17話 人殺しの聖女



 『宗教国家レリギオン』の領内には数多くの城が点在する。



 その中でもドラゴン達が目指しているのは宗教色の強い『メアリ城』である。

 ランデル王国王都から最も近いという理由から選ばれた。



 夕焼けに包まれる森の中で、三名の冒険者が『メアリ城』を目指して歩いている。



 この内の一人レッドは口を膨らませて怒っているようだ。

 ドラゴンの体を叩きながら文句を言っている。



「おい変態。なんでドラゴンの姿を途中でやめた?もう日が暮れるぞ」

「しょうがないだろ。ランデル王国で思ったけど、ドラゴンのままで近づいたら敵だと思われちまう」



「あの時は、兵士長である私がいたからこそ、なんとかなったのだ。今回は確実に敵だと認識されるぞ」


「そうですね。お姫様」

「お姫様うるさいぞ〜」


「お姫様って言うなぁぁあ」



 こうして三人仲良く話しながら歩いていると城門前に着いた。



「あれ?おかしいわよ。城兵がいない」

「レッドどうなってるんだ」



「二人とも落ち着いて、もうそろそろ聞こえるから」

「「え?」」




 明らかに異常だ。

 門は開けっ放しなのに、城兵が誰一人としていない。



 任務を放棄して何処かに行っているのだろうか、いや、この城には侵攻という概念さえないのか。



 城の警備の手薄さに呆れていると、空の方、城の上から男の低い声が聞こえてきた。




「汝らは、なんの目的で『レリギオン』に入城する」



「まさか、あれが警備?… 城門を守る兵士は本当にいないんだな」

「ドラゴン殿、ここはそういうところなのだ」



「変態は世間知らずだからな。しょうがない」

「お前が一番、世間知らずだろ…」



「二人共、ここは私に任せておけ」





 〈ガシャン!〉

 膝をつき、ビジューは続ける。

「牧師様!私は罪深き女です。夫に先立たれ、息子も家を出てしまいました。私はどうすれば良いのでしょう、進むべきを教えて頂きたく。こちらに訪れた次第です」


 それを聞いた牧師は、表情を全く変えることなく入場を許可した。

「汝の願いは聞き入れられることであろう。入城を許可する」



 許可ぎ出るや否や、三人は城門をくぐる。すると『メアリ城』の街並みが三人の瞳に映った。



 街を歩く人は皆、首から十字架をぶら下げて歩き、建物も白いレンガで構築されている。

 そして活気があるのか、街の中枢である広場には何やら人が集まっているようだ。



「どうだ…入城の許可がでおりただろ?」

 ビジューは腕を組んで満面の笑みを二人に見せる。



 してやったりのビジューとは、反対にドラゴンとレッドはドン引きであった。




「ビジューって結婚してたのか…てか、息子って何歳だよ。お前二十歳くらいだろ?五歳児が家出したのか」

「変態、デリカシーのない事を聞くんじゃない。彼女にも色々あるんだろう」

「違うわっ!あれは、単なる演技じゃ」




「演技?」

「そうよ。このメアリ城は特殊でね、神の導きを得たい人しか新しく入城できないのよ」




「そうか。いや、びっくりした。でもこれで城に入れるんだろ?行こうぜ」



 そう言ってドラゴンは一歩歩き出したが、ビジューが手を広げて道を塞いだ。



「ちょっと待って!まず最初に教会に行かなくちゃ」

「教会で洗礼?」



「そう、この国の風習なんだ。部外者は一度教会へ行く必要がある」

「分かった。なら教会へ行こう」



 再び三人は歩き出した。

 街に入ってから中央広場の人だかりが気になるが、教会は広場より手前にある。



 〈ガチャ〉

 教会の扉を開けて、ビジューから入る。



「シスター!洗礼をお願いしたいのですが」



 シスターと呼ばれる女は教会の奥の巨大な十字架の前で祈っていたが声に気づいて振り向く。



「旅の方ですか?もちろん洗礼をいたしましょう。では皆様、十字架の前に来て祈ってください」



 笑顔でそういうと手を奥にやってお辞儀をしている。誘導のつもりなのだろう。

 おれらはその誘導に乗って十字架の前に行き、目をつぶり手を握った。



「はい。皆様!これで洗礼は終わりですよ」



 笑顔でこちらに近づいて来た。

 シスターが近づいて来たついでにおれは、広場に人が集まっている理由を聞いた。




「なんで中央広場に大勢集まっているんだ」

 シスターは不敵な笑みを浮かべている。




「では、広場に一緒に付いて来ますか?今夜がちょうど満月なんです。旅の方も楽しめると思いますよ」

「満月?… よく分からないが付いて行こうか。今日は特に何もすることもないし」



 ドラゴン達は、シスターの発言を理解することは出来なかったが付いて行くことに決めた。



 彼女は街の作りを熟知しているらしく広場の奥側から回ってステージの舞台にたどり着く。

 この頃にはすっかり夜になり、満月の光が煌々と輝いていた。



 シスターがステージの前面まで歩くと大衆が騒ぎ出し「メアリ様」と連呼している。

 恐らくこのシスターの名前なのだろう。



 この異様な雰囲気の中で、おれは横を向くと木に縛り付けられた血だらけの少女を見つけた。


「シスター、これから何をするつもりなんだ?」

「魔女の処刑ですよ。さぁ…あなた達もショーを楽しんでください」

 シスターは急に右手を上げて振り落とした。何かの合図だろう。



 いや、それよりもこの世界では人間の処刑がショーとして認めていられるのだろうか。


 だとしたら何と野蛮な世界に転移してきてしまったのだ。


 一体どんな方法で殺すつもりだ。

 そう思った瞬間



 〈うぉぉぉおおおお〉

 雄叫びが広場の方から聞こえた。

 男達が巨大な大木を持って、少女に向かい走って来ているのである。



 あれで少女を潰すつもりだ。一直線でボロボロの彼女の元へ突き進んでいる。



 この状況下でビジューは、広場の男達を止めようとしているが間に合いそうにない。

 レッドは、上を向いてあくびをしており、そもそも助けるつもりがないらしい。



 〈あ…ああ〉

 巨大な大木が近づいてくることに気づいた少女の弱々しい声が聞こえてくる。



 ―――グチャ…


 この生々しい音を最初は皆、少女が潰れた音だと思っていた。

 少女自身も目をつぶっていたので状況を把握できていない。


 しかし、この音の正体は大木が粉々に砕ける音であった。

 おっさんは全速力で走り、少女の盾となったのである。


 巨大な大木は、ドラゴンの人間時の背中で砕けたのであった。


 少女を見てみると恐怖で気絶してしまったようだ。

 しかしひどい怪我だ。身体中に打撲痕がある。石のようなもので攻撃されていたのだろう。


 広場の民衆は、状況が理解できないらしく静寂に包まれる。


 〈コツコツコツ〉

 静寂の中、誰かがステージを歩く音がよく聞こえた。


 少女が助けられる所を見ていたシスターが、こちらに向かって歩き出したのだ。



「おい冒険者よ。なぜ魔女を助けた?」

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