第16話 生還
ガルーニャ連邦の政変は周辺諸国に知れ渡った。
特に王ではなく、あくまで代表制(実質世襲しているが)を取っていた連邦が王という役職を創設したことは他国に衝撃を与える。
その報は、ランデル王国にも届くのであった。
ーランデル王国ー
玉座の前で、王様が頭を抱えて悩んでいる。
「娘はいつまで男の死を嘆いておるのだ。ずっと教会に閉じこもっておるではないか」
「私もお姉ちゃんのことが心配なんですが… 気分を変えるために、連邦の王との会談に誘ってみては」
「確かに…連邦の組織体制はだいぶ変化したらしい。それを見て、娘も変わってくれるやもしれんな」
二人の会話通り、政変後の連邦は、王国との関係修復を図るべく国王同士の対談を望んでいたのだ。
「お姉ちゃんの事は出席させるとして、本当に良かったのですか?連邦の王と会談するなど」
「息子よ。長が変われば国は変わるのだよ、それに新しい王の姿も見てみたい」
「そうですね。軍長殿が王となっているかと思ったら、軍長は宰相の役職に就いているみたいですし、他に有力な人物は思い浮かばないのですが」
「連邦側には隠れた人材がいたのかもしれんな」
一方、ランデル国王が気にしていたガルーニャ連邦の王が、既にランデル王国城門前に到着していた。
「いや~久しぶりだな!王国に戻るのは」
馬車から勢いよく飛び出て、腕を伸ばしているのはガルーニャ連邦国王ドラゴン王である。
「そう言えば、ドラゴン王はランデルの出身でしたかな?」
「いや… 出身は違うんだけどね。あれ?そういえばランデルから出てくる人皆、喪服を着てないか」
「何かあったのじゃろうか」
王の隣には軍長がいた。
今は、宰相の地位について実質的な政務や権限は軍長が行なっている。
実はドラゴン王、王とは名乗っているが権限はない。
王様になってくれと頼まれた時、形式なものとしてなら引き受けると条件をつけたからだ。
元々、様々な国を回るつもりであったので実権を付けないでくれと念押しした。
ただ、実権を伴わないとはいえドラゴンが国王を務めているという事自体、他国への圧力になる。
これより後にガルーニャを攻撃する者・国は全て、ドラゴンに敵とみなされる恐れがあるからだ。
しかし、ランデル国王との会談が終えるまではドラゴン王の事は固く秘密にされている。
なに、大した理由ではない。
会談でランデル国王を驚かせたいだけだ。
戦争時に中央軍ではなく、右翼軍に配置された事をまだ恨みに思っている。
伝説のドラゴンの力を侮るな。という事を示したいのだ。
「さ、ドラゴン国王。馬車にお乗りください。宮殿までお連れしますので」
「何言ってる。軍長も乗るんだぞ」
「ははは、そうでしたな。儂は宰相ですか、慣れないのぉ」
「おれも慣れていないぞ。王などと自分から名乗るのが恥ずかしいくらいだ」
「「ははははは」」
二人はそのまま宮殿に向かい玉座のある部屋に向かった。
「こちらの部屋にお進みください」
「ありがとうの、兵士殿」
「軍長、早く部屋に入ろう。ランデル王を驚かせたい」
「この会談が終わった後には、ドラゴン王の事を他国に発表しますからの」
「分かってるって軍長」
部屋の前に立つと、待っていた兵士が扉を開けるのを待たずにドラゴン自身がドアを開け始めた。
(ランデル国王は、おれを見たらびっくりするだろうな)
そう考え、少しにやけながら強く扉を押す。
「これはこれは、ガルーニャの王よ……」
「お久しぶりです、ランデル王。この度ガルーニャの国王として就任したドラゴン王です」
「………」
やはり、ランデルの王はひどく驚いていた。
最初の一言を放った後に、続く言葉が出てこない。
しかし、ランデルの王より驚いていた者がいる。隣にいたビジューだ。
彼女はいきなりドラゴンに飛びつき呪文のように、ごめんなさい、を連呼していた。
〈ジャキッ〉
「ドラゴン王!大丈夫ですか!」
ドラゴンの後方にいた軍長が剣を片手に、ビジューを捉えている。
無理もない。会談中に国王に向かって抱きつく奴がどこにいる。
「軍長。ビジューは仲間だ。安心してくれ」
「そうですか」
「すまない、ガルーニャの王と宰相よ。娘が粗相を」
ここでやっと、ランデル王の声が戻ったようだ。
ビジューを体から引き離し多少挨拶をしたところで、会談は軍長に任せた。
実権は全て宰相である軍長が掌握しているのだから、ここに残っても時間の無駄だ。
早く、王国を出て新たな旅を進めなければいけない。
そう思うと部屋の出口に向かう足が速くなる。
「では、これで失礼します」
「ドラゴン殿、私も付いて行っていい?…」
「もちろんだ」
仲間であるビジューを伴って部屋から出た。
するとちょうど廊下の真ん中で見知った人物が立っている。
レッドだ。
「遅いぞ、変態」
「悪かった。じゃあ行こうか」
「あ、ごめん。ちょっと着替えさせて…」
そうだ。忘れていた。
ビジューは会談のための正装で、豪華なドレス姿だ。
これでは戦えない。
いや、おれも正装だった。
「すまない、レッド。おれとビジューは服を変えないと」
「あらそう、だったら宮殿の前で待ってるわ」
「ドラゴン殿、衣服はあちらの奥の部屋にある。自由に使ってくれ。私はこっちだから、また後で」
「ちょっと待った。この国に来てから思ったんだが、皆喪服を着ている。何かあったのか?」
「それは… ドラゴン殿の国葬で…」
「え?… おれの葬式…」
ランデルの民が喪服だった理由が分かったが、生きてるのに葬式をあげられるのはなんとも複雑な心境だ。
ともあれ衣装を着替えて、レッドやビジューとともに旅に出る。
「レッド次行く国はどこにする?」
「ここから近い国はレリギオンだな」
「え… あの国に行くの?私少し苦手かも」
ビジューは、露骨に嫌な顔をしていた。
しかし近いところから徐々に魔人を排除し、国家も強くしなければならない。
次に目指すのは『宗教国家レリギオン』だ。
ー宗教国家レリギオン・広場ー
レリギオン領、ある城内の広場には大勢が集まっていた。
皆、奥にあるステージの舞台に向けて視線を向けている。
「そいつは魔女だ!魔法を使ったのを何人も見てるんだぞ」
「殺せ殺せ殺せ」
広場を埋めつくすほどの人が大合唱を始めた。
人が集まりすぎていてステージ奥の縛られている魔女の姿が見えないほどだ。
そのステージに一人の女が立った。
「皆さん、やめてください!神の教えに反します」
その女は若く、まだ二十歳くらいであろうか。
金色の長い髪をたなびかせてシスターの衣装を着ている。
「メアリ様だ。神の教えを説くメアリ様だ」
「皆さんは、神の教えに反する行為をしようとしています。神は言っています…満月の日に殺せと」
〈うぉぉぉおおおお〉
大衆が騒ぎ出す。
「この者をここに縛っておきますので、皆で石を投げつけ悪魔を取り除くのです」
そう言って、メアリはステージから去っていった。
この言葉を受けて、大衆も一旦広場から去っていく。
人混みがなくなると、徐々に縛り付けられている魔女が、どんな人物なのかが見えてきた。
木に縛り付けられているのは…15歳ほどの少女である
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