クリスマスケーキとパンダ
雪がちらほら降り始めた朝10時。
ご飯屋“宵”の前に置かれたボードには「クリスマスケーキあります。」と書かれていた。
あたりは赤と緑と黄色で埋め尽くされた12月24日の今日は子供はサンタを待ち、カップルはイルミネーションに照らされる日。
そんな中ご飯屋“宵”はいつものメニューに加えてクリスマスケーキを販売していた。
「予約のケーキはこれで全部?」
「うん、宵お疲れ様。」
「ありがとう。和歌もお疲れ様。」
冷蔵庫にびっしりと入れられたホールのケーキはいちごと生クリームで出来たサンタクロースがチョコンと乗っていた。丸いチョコには英語やカタカナのいろんな字体で「メリークリスマス」と書かれてこちらを向いていた。
「流石に今日はお客さんも来ないね、ケーキを取りに来る人だけかな。」
店主である宵が雪の積もった道路を窓から見つめてニコニコしていた。
いつもより厚着をした和歌は身震いをして足元のストーブに近づいた。
それからしばらく2人はキッチンにいたが昼食を食べに来るお客は来なかった。
15時を回ってちらほらお客が立ち寄るも予約したケーキを取りにくる人ばかりだった。
「可愛い、サンタさん!美味しそう!」
お客は皆、サンタやホイップで包まれたケーキを見て頬を赤らめた。
「初めてのケーキにしては評判良さそうだね。」
「うん。」
店主宵は帰って行くお客を見送って和歌に言った。
和歌が冷蔵庫の予約ケーキの在庫を確認した時ふとケーキを見て店主に尋ねた。
「宵、なんでこれだけパンダなの?」
冷蔵庫に入っていたケーキの1つにパンダのメレンゲドールが乗っているのを指差した。
一回りサイズの小さいホールケーキの真ん中に笑顔で笹を持つパンダは何やら楽しげに見えた。
「嗚呼、これはね…」
店主が説明しようとした時、お店のドアが開いて会話が途切れた。
「いらっしゃいませ。」
店主が笑顔で迎えるとスーツにコート、肩には雪が少し積もった若い男性が鼻を赤くしていた。
「えっと、中居です。」
「へ?」
“トナカイ”と聞こえた和歌は思わず聞き返すと店主がにこやかに笑った。
「中居さんですね、お待ちしておりました。ケーキはこちらでよろしいですか?」
冷蔵庫から取り出したのはさっき和歌が質問したパンダの乗ったケーキだった。
「嗚呼、これです。ありがとうございます。」
「チョコペイントは無しでいいとお伺いしたのですが本当によろしいのですか?」
「えぇ、いいんですいいんです。これで。」
受け取った男性はケーキの入った箱を見て頬を赤らめた。店主はそれを見て頷いた。
「喜んで貰えるといいですね。」
「はい。あれ、誕生日だって言ってましたっけ?」
「いえ、なんとなくです。」
「そうでしたか、じゃ僕はこれで。」
ぺこりと頭を下げた男性に店主と和歌は頭を下が返した。店を出て歩く男性を見て店主は和歌に言った。
「誕生日ケーキなんだよ、あれ。」
「そうなの?」
店主に駆け寄って男性を見つめた和歌は店主の顔を見つめると店主は空を見て言った。
「事情は分からないけどきっとあれがプレゼントなんだと思う。」
「だからパンダなんだ。」
「サンタさんが乗ってたらクリスマスケーキになっちゃうからね。」
「喜んで貰えるといいね。」
「そうだね。」
和歌は見えなくなった男性の方を向いて微笑んだ。
店主もまた和歌をチラリと見て笑った。
クリスマスの夜に家族で過ごす人もいれば恋人と過ごす人もいる。もしかしたら仕事で1人寂しく過ごす人もたくさんいるかもしれない。
そんな中で誕生日ケーキだとバレないように男性は大切な人に渡したのかもしれない。
どんな事情があれクリスマスの奇跡で幸せになるよう願った和歌だった。
「そうだ、和歌髪伸びたね見せて。」
「うん?」
店主宵が和歌の後ろに立って髪を撫でると和歌の首に何か冷たいものが当たって和歌は手で触れた。
「あ、これ…」
「ペアネックレス。指輪はあるからね。ハッピーメリークリスマス!」
にっこり笑った宵は自分の首に光るネックレスを和歌に見せて微笑んだ和歌は顔を赤らめて宵を見つめた。
「ありがとう大切にする。」
「お仕事だからデートは出来ないけどプレゼントはできると思って用意しておいたんだ。」
楽しそうに笑う宵を見て和歌は照れ隠しに髪を触った。
ご飯屋“宵”は朝10時からお客様をお待ちしております。イルミネーションの様に光る店内で笑う店主と妻2人で美味しいご飯と共に。
温かなご飯を今日も 胡蝶蘭 @kochou0ran
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