空腹
腹が鳴る。
大切なものほど目に見えないから、食べてしまいたいと思う。齧り付き、咀嚼し、透明な果汁を口端から垂らしながら、飲み込む。ごくん、と喉が鳴る。そうしたら、君はそこに確かに在ったのだと証明出来る。味などなくていい。感触さえなくていい。ただ、食べたという事実があれば、その存在の大きさを、胃の中の異物を、失ってしまった喪失を、味わうことができる。
腹が鳴る。
唾で喉を潤す。唇を噛む。舌が歯の内側で静かに蠢く。
空腹が僕を生かしている。
腹が、鳴っている。
短編箱 桜枝 巧 @ouetakumi
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