少女

 イヤフォンは、完全に耳を塞がないタイプのものが良い。

 靴擦れを起こすサンダルを履いて、アスファルトを踏む。買いに行くアイスは何でも良かった。僕を閉じ込むように耳へとそれを押し込めば、目の前の全ては輪郭を無くしてしまう。通り過ぎる排気ガスも、名も知らぬ虫の音も、頬を撫でる音無風も、全てが薄皮を一枚隔てたようにぼやける。

 そのとき僕はようやく、どこまでも少女になれるのだ! 訳も分からずステップを踏む。ロックンロールはかけてもかけなくてもいい。縁石に登り、くるくる踊る。踊る。

 そんな行儀の悪い聞き手のことなんか無視して、街は淡々と夜を語る。

 それがいっとう嬉しくて、恋しくて、僕はそのうち踵とイヤフォンだけになる。

 優しい声だけが、響いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る