第3話 魔族という名から聖族へ
「もう一度お考えくだされ!ネフィリム様!我々魔族は人間なんぞと共存は出来ませぬ!それは人間どもも同じ考えであります!それが覆えされることなんて絶対にありません!奴等は滅ぼすべき対称です!」
ネフィリムは黒いカーペットが中央に敷かれ、黒塗りのウォールパネルに囲まれた、20畳程の王室にいた。
ネフィリムはその王室の一番奥の真ん中にある黒い大理石の玉座に座っている。
左と右にはこれまた黒塗い五人掛け程のソファーがズラリと並んでいた。
そこには魔族の最高位の側近達が皆、頭を抱え、項垂れていた。
ネフィリムは大理石の椅子であぐらを掻き、頭を掻いていた。
レビヤタンは震えながら、目が真っ赤になり、鋭い眼光をしていた。その目から赤い光が見える。
魔族は怒りが頂点に達すると、どんな眼の色の者でも、真っ赤になり、光りを放つという特性があった。
なので、怒りが頂点でも、その感情を表さずに、冷静の振りが出来ないので、少し、厄介である。
「魔王の玉座にあぐらを掻いて座るとはあ!、しかも何を欠伸をしているのですか!私は見ての通りお怒りですぞ。実際、この眼をご覧くだされ!全く。ネフィリム様を幼い頃から、面倒を見てきた私のこの労苦は一体。まさかこんな風に・・・」
レビヤタンの長い話を右から左へ聞き流しながら、ネフィリムは足を組み、顎に手を置いていた。
「それに、お忘れですか」
側近の一人、千人隊長のベニヤミンはネフィリムの眼を睨み付けるように見た。
「何を?俺、すぐ忘れるんだよね」
ネフィリムは苦笑してそう言った。
「ベルゼブル王の遺言です。魔王は、
「自分の代わりに二代目の王となり、人間を滅びし、この世界を魔族のものとしてくれ」と仰いました。
ふむ、とネフィリムは頷く。
「それに対して、俺がなんて言ったか覚えてる?」
ネフィリムは笑顔でベニヤミンを見る。
ベニヤミンは何かを探るようにネフィリムを見る。
「俺はね、後は私にお任せください。と言ったんだよ。了承はしてない。後は私にお任せください。だけだよ」
ベニヤミンは握りこぶしを作り、俯いた。
「後さ、黒塗りのところ、全部白塗りにしよう」
「ネ、ネフィリム様・・・!」
口を開こうとした、レビヤタンを手で制し、ネフィリムは続けた。
「それとさ、俺達、魔族って名前じゃん?良くないよ。人間が創った名前なのか、俺達が勝手に付けたのかは分からないけどさ。魔なんて。ただ、地底に居た、知的生命体なだけじゃん。人間と同じように、良いところも悪いところもあるし、憎悪だけで創られてない。憎悪だけなら、俺達、助け合わないで殺し合いしかしないから、仲間や結婚や国なんて造れないよ。俺達は愛もあるんだ。人間と同じように、愛と憎悪の2つを持ってる。言葉には力がある。魔族なんて名前だと、どんどん悪くなる一方だ。そこでだ・・・」
一同はネフィリムが間を置いた時に、固唾を呑んだ。次は、どんなとんでもないことを言ってくれるのかと。
ネフィリムは、素早く立ち上がり、手を上げ、人差し指を天に向け、叫んだ。
「我らの名前を魔族から、聖なる者とする、聖族へと変える!」
「嗚呼、もう好きにしてください・・・」
側近の30人の魔族達は、頭を抱えていたり、拍手をしたりする者もいたが、反抗する者はいなかった。
それは、ネフィリムは天賦の才と言って良い程の人徳があり、(魔徳というか、聖徳と言うか)更に、最も腕が立つと言われる、千人隊長のベニヤミンさえ歯が立たない程の強さを持っており、戦場で助けられたのは数知れず、悩みを持っていた者の話を親身に聞き(流し)、解決をしたことは数知れず、そして、その愛嬌さと憎めなさによって、ネフィリムのことをみんなが愛していたからだった。
ネフィリム王のすることに対して、恐怖による絶対服従ではなく、愛による絶対服従を自らしていたのだ。
ネフィリムはみんなに信頼されていた。
ただ、千人隊長のベニヤミンだけは、他とは違っていた。
「ってことで、書記官のヨナタンは今、俺が言ったことをまとめて、俺の印形を押した、大きな張り紙を街中に張って、発表しといてね」
ネフィリムはヨナタンを指差した。
「り、了解しました」
途端、ズドンと音がした。
「大変だ!長老が倒れたぞ!担架持って来い!」
こうして、ネフィリムの一言によって、魔族は180度変わったような名前の聖族へとなった。
ある意味、恐怖政治である。
二代目魔王はLOVE&peace @gtoryota1
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