愛犬 彼氏。

紅茶のカホリ

第1話 あいつをふった日、散歩道。

俺は今日 あいつをふった。

彼女は 大人しいどころか 地味だし化粧けもない、

もっと女子力 とやらがある キラキラとした見栄えの女が俺は正直いって好みだ。


そいつがつるんでる女達も全員地味だ。


大学生になった今まで 常にいろんな女からモテつづけてきた俺には とてもじゃないけど、釣り合わない

つまらない女だ。


なぜ告白してきたかもさっぱりだ。


こんなに 素っ気ない俺のどこがそんなに好きだったのか


まず隣に並んで歩きたくない。


自分には何故か自信がある。

そう自惚れてる俺は馬鹿なのかもしれない、そんな馬鹿な俺でも 馬鹿な女は直ぐによってくる。



地味でジメッとした奴より 馬鹿でも華やかな奴の方がずっといい。


そんな俺、【佐竹 廉れん】 は

【加藤 みずき】の存在を 大学 で知ったのはごく最近のことだ。


初めてあったあの頃、確か 4月にもなろうというまだ肌寒い春だった。


俺は その時期 大学の授業に ろくに出ず学生の身でありながらそれは社会人のように 日勤夜勤 交合にバイトのシフトを無理やり入れたりと、開き直ったフリーター生活を満喫していた。


いつ単位を落としてもおかしくない。


自分から大学を辞める道へ近づいているような


めちゃくちゃな生活をしていた。

これをある意味 自暴自棄というんだろうか。


と言っても 金を稼いでるんだ、遊んでるよりよっぽどいいだろう、そこまでクズじゃない。



何故 大学の授業にろくに出ないのか。

やる気がないからだ。自分の意思で大学へ行ったんじゃないし、行く理由だってこれと言って何もない。


銀行員に務めてる父は固く、俺とは真逆な人種だった。そんな父は俺へ無関心であったにも関わらず


とりあえず大学は出とけ、高卒とか勘弁してくれよ。

と まるで俺を自分の物のように 扱い 粗悪品みたいな言い様をする。


本当は 反抗し、大学へ入学拒否をし就職をする選択を取るのもよかったが、こうして 一旦父の思惑通り動いてるように見せかけ 授業に出ず この生活をすることが ちょっとした親への反発心なのかもしれない。


俺はお前の所有物じゃない。

お前の勝手都合で なんでも決められてたまるか

と 息子が中退せざるを得なくなった時に、


もっと父へ 恥をかかせたかったのかもしれない。



ここまで話しておいてなんだが もうその話は置いておく、考えたくもない。


そうして 日勤夜勤ばらばらに 働き詰めの生活を送っていた俺はその日 夜勤明けに帰宅。


前なら寝れていたはずが 突然 体のサイクルが狂ったのか、体はくたくたのはずなのに寝れなくなった時期があった。


困り果て、ある日はゲームをやり込み

気をまぎらわせたり ひたすら ネットサーフィンをし 眠くなるのを待ったりと努力はしたが なかなか 落ちることができない。


ひどい時には疲れてるのにもかかわらず、気持ちがじっとしていられず 明け方 散歩にでるようになった。


今までは関心のあったゲームやネットサーフィンにも いよいよと飽きたからだ。


読書って手もあったが そんな柄じゃないし眠くなるどころかますますイライラが溜まりそうだ。


だったら 明け方まだ暗いが、散歩して外の空気を吸った方が この不健康にまみれた 体にはよっぽど良いものだと思えた。


なんせこんな暗くったって 男だから襲われる心配だってない。


こんな人家も少ない 明け方薄暗い 小道を歩いてる人はそうそうここらではいないだろう。


場所によっては じーさんなんかは見かけるが若い奴らはやはり見かけない。


おまけに ちょっとした田舎街だ。古臭い家だってゴロゴロある。

だが こんな田舎でさえ、夜中から明け方にかけての犯罪は割と多かったりする。

近頃も、通り魔があったとかなかったとか。


詳しくは知らないし、妙に信じられない。


ただ、俺は 男だから大した身の危険はないが

その場面では対象が いくらブスな女であったとしても ひとりで歩いていると物騒かもな。



と そんなことをふと考えていると、

普段 よろよろした足取りで すれ 違うじーさんとは違う人影を目の前に見つけた。


向かってくる。しんとした夜明け前


パタパタと足音がするが、もう1つ小さいのも混ざっているように聞こえる。



ようやく 目視で確認出来るほどに近づいてきた。


女だ。

しかも そこそこのブスだ。

考えていた矢先のことだったので なんてタイムリーな出来事に 少し奇跡を感じたが


そこそこ かわいくないその女が連れているのは

1匹の犬だった。

毛並みが短く しっぽが丸まっていて特有の…


あれは 柴だな。



なんだ、犬の散歩か。

それにしても じーさんや ばーさんなら分かるが

その女は俺とたいして歳も変わらないような雰囲気をまとっている。


が 何度も言う、 好みではない。

犬が一緒 ということで 少し女も美化され 可愛くみえたりしないかと思ったが やはり 芋だ。


俺はなんてひどい男なんだろう。

でも、心の中で思うぐらいのことは誰だって するだろ?


そうして 意外な人物だったことにあれこれ考えながら その芋子(勝手にあだ名をつける) と 犬とすれ違う。


犬のハッハッという淡々とした息づかいが近くに聞こえ




その瞬間、 狭い小道とはいえ 犬が俺を避けなかった為に 俺は犬の足を誤って踏んでしまった。


いや、正確には 俺が犬をよけなかった。



途端に犬は穏やかだった表情が一変しまるで 獣のように(獣は獣だが)激しく吠え初め、牙をむき出しにし 俺を威嚇し始めた。



眠れぬぼっちナイトの散歩コースで安眠を誘う計画が台無しだ。



おいおい勘弁してくれ、さっさと通り過ぎたくて無理やり狭い道を突き進んだ俺が確かに悪かったが

こういう時こそ 飼い主が 犬を何とかするんじゃないのか!!!


自分で人様の犬の足を思いっきり踏んづけといて

謝るべきは俺なのは分かってるが どうしても吠えられ威嚇されていることで、 俺も何くそと嫌な気分になっている。


が、とりあえず「すいません、足を踏んづけてしまって わざとじゃないんですけど…」

と 慌てて謝る俺は 犬をどうにかしろと彼女に目配せしたが 犬は容赦なく吠え続け


女も動揺し 犬をなだめようと 必死な様子だったが

その 飼い主の威厳のなさというか 彼女の締りのない雰囲気がそうさせてるのか


この騒ぎは収まらない。


謝りはするが、俺はこのしつけの出来ていない犬に対して じわじわと無性に腹が立ってきた。


近頃あまり寝れてないせいだろうか、

ブスと犬の声が頭に響き 余計に 神経を逆撫でさせる。


「すいません!!!俺が悪かったです!!!でもそろそろ近所迷惑ですし この状況を何とかしてくれませんか!!」と イライラがピークに達し彼女に 投げやりな言葉を吐いた。



すると 今までうろたえていた 彼女が ようやく意を決した様子で 一息 吸い


「コラ!!!!レン!!!!」と 俺までハッとする声を出した。


それは意外にも大きな声だった。



犬は飼い主が本気で怒っていた様子が分かったのか

しゅんとなり その場は ようやく収まった。




おい、ちょっとまて。



「あの…俺 あなたの知り合いじゃないですよね。なんで俺がしかられなきゃ…いや、俺が悪かったんですけど。」


彼女はなんの事かさっぱり分からない様子でまたうろたえ始めた。


えっ



あぁ…そういうことか



「もしかして 俺 そのお犬さんと一緒の名前かもしれないです…」 と まじかよ、俺が悪いとはいえここまで威嚇された犬と同じ名前かよ…と内心思った。


「えっ………ほんとですか…なんだかすみません!あなたを叱ったんじゃなくて さっきは確かにこの子を叱りました! あの………同じ名前 なんですね…。


うちの子 も レンくんって言います。あの…ほんとにご迷惑おかけしてすいませんでした。レンさん」



彼女は本当に申し訳なさそうに 謝ってきたが、



「あぁ…そうですか。 いや、そもそも俺が悪いんで もう どっちも叱られたようなもんですね。 とにかく すんませんでした。」


バツが悪いし、そのうちこの騒ぎに近所の誰かが 様子を見に来るかもしれないと とにかくその場からそそくさと 退散したかった。


「あの…それじゃ。」 と俺は 言うことは言ったと

言う気で 彼女の顔を最後に見ることもなく、


素っ気ない様子で 足早にその場を去り 眠れてないイライラと今回のバツの悪さで 最悪な気分の散歩から帰ってきた。


なんて失礼なやつだろう俺は、世間的にこういう人間を ちょっとクズの分類にいれるんだろうか。


いちおう ちゃんと謝ったから クズの底辺ではないだろ。

今思えば、犬があんなに俺を威嚇したのって

近頃の通り魔事件 の事も関係しているんだろうか。


……………



まさかな、犬にそんなこと分かるわけない。

───────────────────


それが俺と 芋子 その相棒 レン との出会い。

最初にして 最悪のものだった。



そして 俺は今日 あいつをふった。

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