死んだ日のすべて1

 彼が死んだ日。詳しく言うと、金属でできたどっしりと構えるあの病棟......の屋上から飛び降りた。


 身を投げ出して、全身血だらけになり最終的には......心臓も破裂してしまった。


 私は看護師になにか言われかけたが、今となって何を言おうとしたのかが分かる。


 退院日なんてものは存在しておらず、ほぼ末期だったということだろう。


 小雪ちゃんの話から察した。


 ―――――――――――――――


 雨が降っていた。その日は。


 大量でもなくそこそこの雨。天気が悪いと気分が乗らない。


 そのせいなのかは知らないが、私は熱を出して病室でひとり横になっていた。


「あぁ。今日退院日か......。私も一緒に松山君を送り出したかったなぁ」


 そう思っていた。しかし頭の片隅に、また会えるから大丈夫だ。



 そう自分に言い聞かせて、これが"最後"ではないという安心感を持たせていた。




 そしてそのころの、松山君



「......高熱が出てる。どうしよう、行きたいけど......」



 余命のこともあり、早く思いを伝えたがっている彼。自分のことよりもそこまでして私のことが大事なの?


 もっと、自分を優先的に考えて、そう言いたくなる。


 けど、これは彼なりの思いなのか......。そうならば意見を尊重しなくてはいけないのか?それでまた、何かを見失ってしまう。


 彼は小雪ちゃんに相談していた。


「どうしたらいいと思う?」


 彼ももうすぐ死ぬのだ。彼女はそれを知っている。しかしそれでいても冷静を保とうとする。



「......今、高熱出てるよ。今日は辞めておけば......。いつ会えるかは、正直分からない」



 寒気がするのかぶるぶると震える小雪ちゃんを前に、松山くんは衝撃を受けて元へ戻ろうとした。


「......まだ、まだ大丈夫!まだ残っているよ。三週間」


 小雪ちゃんは歩く彼に、なぐさめるように言った。



 松山君は相当ショックだったらしく、顔から見てもとれる。前から計画していたことだし、いつ会えるか分からないし。


 私はウイルス性の発熱だったかもしれない。その危険性があったために、面会謝絶。だからそうして、彼女らは私に会えずにいた。



「死なないよね?絶対死なないでよ!」



また、小雪ちゃんは帰りがけの彼に声をかけた。


 小雪ちゃんの声......これが彼にどう響いたのかは誰も、知らない。




 けど松山君は、彼女の声を聞くと振り返りたしかに笑った。



 そうするとまた1歩1歩、ゆっくりと光がこぼれる廊下を歩く。




 後ろ姿は......やっぱり独り。支える者は、手は......いないのか。




 そうだったのかも知れない。

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