一日前

「退院日」一日前。


 私、深澤美沙はあの恐ろしい夢、彼が心破裂のためにベットで横たわっているところ、そして黒煙がもやもやと登り病室へ入るためのドアから匂い出していたこと。


 あれは暗示なのか、それか私の苦悩からきたただの「夢」だったのか......。


 そうだ、緑はなにも変わらずいつもの朝を迎えさせてくれた。

 私にいつも寄り添ってくれる......一方的でもそれはいい。


 いつもの朝だ、さすがにあんなことは怒らないであろう。


 ―そんな心がどこか片隅にあったと感じる。


 今はもう、そんなのはなく荒れっぱなしで、だれも綺麗になんてしてくれないかな............。


 ―――――――――――――――――――――


 小雪ちゃんに手をひかれ私は休憩室へ入った。


 そこには、松山君の姿。あれが最後だった。


 無理したような笑い顔で私を待っていた。


 違和感を覚えながらも、小雪ちゃんと松山君は勝手に話をどんどんと進めて行き......


「恋」の話をしていた。


 そう、恋。小雪ちゃん私が私に言いかけたんだ。松山君が私が好きだということを。


 勿論私は聞こえていない。夢のことで頭がいっぱいだから。


 そしてその日もずっと話していた。日が傾き始めるまで......。


 私は休憩室を離れて病室に戻り、小説を読んでいた。


 二人は私が出て行ったあと、話し合っていたらしくて松山君はついに、小雪ちゃんに病気が進行していることをぽつり告げた。




「あのな......昨日病院の先生から、あと三週間の命だって告げられたんだよ」



 その音を聞いた瞬間、彼女は震えた。



「......?三週間ってどういうこと?」



「......三週間になった。あまりにも病気が重いらしい。自覚はあまりないけど」




 愕然とする、彼女はさらさらと涙を流した。叫ぶことなく、川のように美しいその涙を松山君は静かに受け止めた。


「......今は涙を流すときじゃない」



 橙の夕暮れ。大きな太陽がまた戻ろうとする。そして地平線に近づくころ。

 窓の奥では、山と海と......そして太陽が一日が終わりを示してくれる。



 タイミングがずれたかのように流れる涙を受け止めて、彼はそっと彼女を抱きしめた。




 あらゆるところまで繊細で、そっと触れるだけでも、一からすべてが崩れてしまう......そんな、「死」の一日前であった。




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